ビットコイン半減期、マイナーは数億円相当の「epicサトシ」を争う【Future of Bitcoin】
  • 今回のビットコイン半減期は、サトシ(ビットコインの最小単位)に価値を割り当てられるようになってから、初めての半減期。サトシは、Ordinals(オーディナル)プロトコルが昨年ローンチしたことで、NFTのように取引できるようになった。
  • 今月の半減期の後にマイニングされる最初のサトシは、NFTマーケットプレイスで100万ドル以上(約1億5000万円)の価値をつけるかもしれない。
  • 「宝くじのようなもの」と、暗号資産(仮想通貨)マイニング会社マラソン・デジタル(Marathon Digital)の幹部は言う。

ビットコイン(BTC)の4年に一度の半減期まで1週間を切り(20日の予定)、暗号資産マイニング企業は、数百万ドルの価値を持つかもしれない、史上最も高額なデータブロックを獲得しようと躍起になっている。

約2年前、ビットコインブロックチェーンで稼働するOrdinalsプロトコルの開発者、ケイシー・ロダーモー(Casey Rodarmor)氏は、ひとつひとつのサトシに希少性を付与するシステムを開発した。

このシステムが重要な理由は、2023年初頭にOrdinalsがローンチした後、サトシをナンバリングし、あたかもユニークなトークンのように取引できるようになったからだ。つまり、各サトシはコレクターズアイテム、いわゆるNFTと考えることもできる。コレクターズアイテムの価格は多くの場合、その希少性と連動している。

ロダーモー氏はナンバリングに応じて、希少性を定義しており、各ブロックの最初のサトシ「uncommon(珍しい)」から、ビットコインの最初のブロックの最初のサトシ「mythic(神話的)」まで複数のレベルがある。mythicは全サトシのなかで1つしかなく、おそらく、ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトの手元に安全に保管されているため、手に入れようなどと考えてはいけない。

だが他にも希少性の高いものがある。ビットコイン半減期の後の最初のサトシだ。これはブロックチェーンの専門用語では、新しい「エポック」の始まりに当たり、モダーロー氏は「epic(エピック、壮大な)」と分類した。

Ordiscanの創設者であるトリスタン(Tristan)氏は、次の半減期のepic、つまり半減期後の最初のサトシは、Ordinalsの熱狂的なファンによって「控えめに言って」5000万ドル(75億円、1ドル150円換算)と評価される可能性があると考えている。

つまり、今起きていることはOrdinalsの登場以来の、初めてのepicをめぐる競争だ。以前の半減期は、マイナーの間でこれほど注目を集めることはなかった。この史上初のepicサトシは、Ordinalsマーケットプレイスで非常に高い値付けがされる可能性が高い。

「どれだけの価値になるかわからないが、数百万ドルになるかもしれない」と、マイニング会社マラソン・デジタル(Marathon Digital)のチーフ・グロース・オフィサー、アダム・スウィック(Adam Swick)氏は語った。

エピック・サトシをめぐる競争

この競争に勝つことに注力しているマイニング企業は、半減期が間近に迫った時点で、稼働を強化させるだろう。マイナーたちは、半減期後の最初のブロックを手にするチャンスを最大化するためにフル稼働するかもしれない。

つまり、よりパワフルな新しいマイニングマシンを稼働させたり、古くてもう使っていなかったマシンを再稼働させるかもしれない。

ビットコインの15年の歴史の中で4回目となる今回の半減期は、ブロック高さが84万に達したときに起こるようプログラムされており、おそらく4月19日か20日に起こりそうだ。

半減期後のブロック報酬は、当記事執筆時点で約21万9000ドル(3285万円、1ドル150円換算)相当の3.125BTC。大きな額だが、半減期前は6.25BTC、つまり44万ドルだった。

だが、1BTCの1億分の1である1サトシに100万ドル以上の価値があるかもしれないとすれば、その獲得にどれほどの期待がかかるかがよくわかる。

半減期後最初のブロックを担当したマイナーは、546サトシ(「ダストリミット」とも呼ばれる、取引でブロックチェーン上に送信できる最低額)をコールドストレージのウォレットに送る必要がある。Ordinalsプロトコルは先入れ先出しでサトシを定義しているため、この未使用トランザクション出力(UXTO)に含まれるサトシの最初のサトシは、半減期後の最初のサトシとしてラベル付けされることになる。

「3.125BTCは基本的に2つに分けられる。その1つは信じられないほど小さいが最初のサトシとなるもの。残りはただのサトシで特別なことは何もない」とOrdinalsプロジェクトTaproot Wizardsのタイラー・ホイットル(Tyler Whittle)氏は語った。

半減期後最初のサトシの価値は?

OrdinalsプロジェクトトラッカーOrdiscan.comの創設者であるトリスタン氏は、「Rodarmor Rarity(ロダーモー希少性)」システムの下では、ブロックの最初のサトシだけで少なくとも100万ドルの価値があるとブログに書いている。

マイナーは、Ordinalsが登場して以来、1年ほどの経験を積み、その中に埋もれている価値の高いサトシを含め、ビットコイン報酬の全価値を収益化できるようになった。

「我々は何千もの珍しいサトシ(例えば、各ブロックの最初のサトシ)を持っており、それらを売却すべきか、保有すべきか、しばしば市場を監視してきた」とマラソン・デジタルのスウィック氏は語った。

スウィック氏によると、同社は半減期後の難易度調整後の最初のサトシをマイニングしており、一時は「数十万ドルの価値があった」という。

別の上場マイニング企業であるHut 8は、すでに所有している可能性のある希少なサトシを自社保有のビットコインから探し出し、市場でどれほどの価値があるかを監視していると、同社のCEOアッシャー・ゲヌート(Asher Genoot)氏は語った。

ゲヌート氏は、このコンセプトを市場で一度も取引されたことのないビットコインに対する需要と比較した。

「我々がマイニングを始めた当初、人々は一度も取引されたことのないビットコインにプレミアムを払うと言っていたが、あまり流動的な市場ではないので、明確な価格はない」とゲヌート氏は語った。

epicサトシのマイニングに費やす労力は?

世界のハッシュレートの比較的大きな割合を占める大手マイナーは、Ordinals時代にマイニングされる最初のepicサトシを積極的に追いかけるだけのリソースがあると感じているかもしれない。

例えば、マラソン・デジタルのシェアは5%程度であり、5%の勝算があるとも言える。

「宝くじのようなものだと認識している。しかし、すべてのマシンがオンラインで稼働するように注意を払っている。そもそも常に、それを目指しているのだが、半減期が近づいているので特に意識している」と、スウィック氏は語った。

比較的小規模なマイナーのなかには、epicサトシの獲得はあまりにも非現実的と認識しているところもあるだろう。例えば、マラソン・デジタルは自社のマイニングプールを運営しているが、他の多くの企業はそうではない。

アルゴ・ブロックチェーン(Argo Blockchain)のCEO、トーマス・チッパス(Thomas Chippas)氏は、マイナーが現実的にepicサトシを追いかけることができるのは、マラソン・デジタルのようなポジションにある場合だけだと考えている。

ほとんどのマイナーはマイニングプールに参加しており、一部のプールは、マイナーへの支払い計算を開始する際に、一定期間にわたって上位の2~3ブロックと下位2~3ブロックを落とすことが多い、とチッパス氏は説明する。

「マイニングプールは、プラスとマイナスの両方の異常値を避ける方法としてそうしている」とチッパス氏。

「つまりそのようなプールでは、誰かが特定のサトシのために大金を支払うようなクレイジーなブロックがあったとしても、ブロックを排除するかもしれないので、その恩恵を受けられない可能性がある。希少なサトシがもたらす収益には興味があるが、我々はきわめて実務的でもある」

マイナー以外で関心を持っているのは?

スウィック氏は、希少なサトシのマイニングをめぐって先物市場が盛り上がり、大きなハッシュレートシェアを持つマイナーが、理論上入手可能な希少なサトシに対して前払いを受けるようなユースケースを想像している。

例えば、5%のグローバルハッシュレートを持つマラソン・デジタルに対して、Ordinalsトレーダーが、彼らが考えるepicサトシの価値の5%を支払うようになるかもしれない。

つまり、半減期後の最初のサトシが1億ドルの値をつける可能性がある場合、マラソン・デジタルのプールがepicサトシを獲得した場合、同社はエピック・サトシを引き渡すという約束を取り付けて、トレーダーがマラソン・デジタルに500万ドルを支払うことになる。

「誰かが、上場しているすべてのマイニング企業に、epicサトシの代金を前払いし、epicサトシを獲得する確率が40%になれば、非常に面白いことになる」とスウィック氏。

「これは今までに行われておらず、率直に言って、このような先物市場がまだ出現していないことに、私は興味をそそられている」と同氏は続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Ashin K Suresh/Unsplash
|原文:Bitcoin Halving Has Crypto Miners Racing for ‘Epic Sat’ Potentially Worth Millions