ミームコインと大企業フィリップモリスはなぜ和解できたのか──ニコチンパウチ「ZYN」とZynCoinの法的争い

超人気のニコチンパウチ(タバコの代替品として上唇と歯茎の間に挟む製品)「ZYN」にちなんで名付けられたミームトークン「ZynCoin」の創始者は、この代替タバコ製品を手がける大企業フィリップモリス(Philip Morris)からの法的脅威をかわすことに成功した。

ZYNの製造元Swedish Matchの親会社であるフォーチュン500企業のフィリップモリスは、4月初めにZynCoinの創設者コルトン・カークパトリック(Colton Kirkpatrick)氏に停止忠告書を送った。CoinDeskが確認したその書類は、トークンの使用を停止するよう要求していた。

ZynCoinは、「ZYN Coin」「ZynCoin」、ZYN製品への言及、またはZYNマークと紛らわしいその他の画像の使用を直ちに中止するようにと忠告書には書かれていた。

「オフボタン」はない

カークパトリック氏は当然反発し、同氏によるとトークンの名前に「Zyn」を残すが、マーケティング上では軽微な変更を行う妥協を行ったという。

「彼らはZyncoinのすべてを中止させたがっていたが、スマートコントラクトとオンチェーンコインにかかわることであり、厄介だった。『オフ』ボタンはない」とカークパトリック氏は語った。

また、イーサリアムブロックチェーン上で動くZynCoinの背後には、中央集権的であろうとなかろうと、いかなる組織も存在しない。そのため、フィリップモリスからの商標に関する要求を満足させるためにカークパトリック氏にできることは限られていた。

フィリップモリスは最終的にこのことを理解し、カークパトリック氏と彼の弁護士と話した後、同社は要求を撤回した。

「彼らはプロジェクト全体の中止を望んでいたのが、調査の結果、その分散型の性質上、コインを簡単に訴えたり、停止することはできないと悟った」とカークパトリック氏。

「誤解を避けるために、カークパトリック氏は『$ZYN』『ZynCoin』『Zyncoin』および『ZYNCoin』(以下、『許可されたマーク』)を使用することができる」と、フィリップモリスとカークパトリック氏の間の契約の最終版には記されている。

カークパトリック氏の弁護士はフィリップモリスに対し、z-y-nを社名に持つ企業は他にもたくさんあり、ZynCoinがニコチンパウチと競合する製品ではないため、ZynCoinによる侵害は最小限にとどまるだろうと指摘した。

妥協案は、ZynCoinが暗号資産(仮想通貨)であることを明確に示すために、「Zyn」の前にドル記号を追加し、ブランドの混同の可能性を避けるためにプロジェクトのウェブサイト上では、フィリップモリスの製品を思わせる円形の缶を削除するというものだ。

Zynを手がけるフィリップモリスの子会社Swedish Matchのアメリカの顧問弁護士にコメントを求めているが、返信はまだない。

訴えられる主体の不在

今回のトラブルは、有名人や消費者向け製品にちなんだミームコインが、正式な提携関係がないまま増加する中で起こる紛争の途端かもしれない。

また、ブランドやセレブが暗号資産プロジェクトにその名前を利用されることを阻止するためにできることは限られていることも示している。

「分散型コミュニティ内でコンプライアンスを現実的に実施するには、特有の問題がある。たとえ創設者がハードルを削除するためにウェブサイトを変更できたとしても、DAO(自律分散型組織)に固有の分散型の意思決定プロセスによって、複雑さは一段と増す」とフロリダ州を拠点とするデジタル資産弁護士(今回の訴訟には関わっていない)ジョン・モンタギュー(John Montague)氏は指摘した。

例えば、「トークン保有者は、オンチェーンでの詳細を変更する提案を拒否する可能性があり、法的要求の遵守を困難にする」とモンタギュー氏は続けた。

以前にも、現実世界の製品をオマージュした非公式なファンによる暗号資産を中止さようとする試みはあった。任天堂の弁護士は、前回の暗号資産強気相場の絶頂期に、同社の有名なキャラクターを使用したNFTやメタバースゲームをすぐに潰した。

しかし、これらにはすべて中央集権的な存在に依存するものだった。訴状を受け取る主体が存在した。

台湾のTitan Attorneys-at-Lawの特別顧問であるロス・ファインゴールド(Ross Feingold)氏は、十分な努力がなされれば、時間とコストがかかる可能性はあるものの、NFTを通じてオンチェーンの主体に訴状を送る手段はあり得ると述べた。

「催告書を送るコストが割に合わないと判断することになるかもしれない。『我々は実際に損害を被っているわけではない』と考える状況も想像できる」とファインゴールド氏は述べ、トークンとZynパウチの間に、ブランド毀損や混同を引き起こすような明らかな事例はないと指摘した。

結局のところ、ZynCoin所有者は製品に対する好意からトークンを買っているのであって、広告を買うことのできない会社にとっては、無料広告になっているといえる。

フィリップモリスをはじめとするタバコ大手は、1980年代以来、アメリカではテレビの宣伝を禁じられている。そして1998年、クリントン政権は交通広告、ビルボード(看板)、プロダクト・プレイスメント(TVドラマなどの中に製品を置くこと)も禁止し、事実上タバコ広告は完全に消滅した。

パロディという主張

モンタギュー氏は、ZynCoinは「パロディである」と主張することもできるだろうと述べた。

「商標法上、パロディはオリジナルであると同時にオリジナルでないという二重のメッセージを伝え、風刺、嘲笑、冗談、娯楽として機能しなければならない」とモンタギュー氏は説明した。

ただしモンタギュー氏は、風刺という主張は暗号資産の世界では以前にも試みられたが、結果的に弁護側にとって裏目に出ることになったと即座に付け加えた。

「(NFTアーティストの)ライダー・リップス(Ryder Ripps)氏にとっては失敗に終わり、彼は約160万ドル(約2億5600万円、1ドル160円換算)の損害賠償を(Bored Ape Yacht Clubを手がけるYuga Labsに)支払うことになった。このように、大手ブランドを巻き込んだパロディーには注意が必要だ」とモンタギュー氏は忠告した。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Jeppe Gustafsson / Shutterstock.com
|原文:ZynCoin Meme Token Patches Things Up With Tobacco Giant Philip Morris