カナダの厳しい冬の間、ケベック州ヌーヴィル村ではイチゴの栽培がおこなわれている。農園「Le Caveau à Légumes」では、暗号資産(仮想通貨)のマイニング機器が生み出す熱を利用して霜と戦い、この地域には珍しいイチゴが育つ。
「厳しい寒さには熱が必要だ。電気代を支払えば、イチゴを育てる余裕はなくなる」と農園の農学者、メリッサ・ギラード(Melissa Girard)氏は話す。
農園は副収入として暗号資産マイニングに取り組む多くの事業主の一つで、エネルギーを消費する上でカーボンニュートラルなアプローチで取り組んでいる。
ウクライナより多くの電力を消費
ビットコインは時に、エネルギーを浪費していると批判される。分散型ネットワークはいわば、エネルギー消費と引き換えにコンセンサスを確保することによって、中央集権的で信頼のおける第三者の必要性を排除している。
この仕組みを先天的な非効率性と捉える人もいれば、オープンかつ検閲不可能な決済ネットワークのために必要なコストと捉える人もいる。いずれにせよ、ビットコインのマイニングが大量のエネルギーを消費することは間違いない。
ケンブリッジ大学は、ビットコインネットワークが2019年にウクライナよりも多くの電力を消費したと推計している。
ビットコイン価格の高騰にともない、効率性の低いマイニング機器でも利益を出せるようになっているため、エネルギー消費は間違いなく増加している。それは熱も同様だ。
マイニング機器の熱で農作物を栽培
熱という副産物を暗号資産マイニングのメリットと考える前向きな人たちもいる。ビットコインの登場以来、個人がマイニングを手がけることは経済的なことではなかった。
しかし、わずかなノウハウと塩化ビニール製のパイプ、ダクトテープがあれば、ビットコインマイニングによって電力料金を節約しながら、利益をあげることができる。
農園は2018年、温室用に熱を生み出し、電力料金を相殺するために暗号資産マイニングを始めた。同じ地域に拠点を置く新興のマイニング企業ヒートマイン(Heatmine)のパイロットプロジェクトの一環だった。しかし、プロジェクトが軌道に乗ることはなかった。
ジョナサン・フォルテ(Jonathan Forte)氏が設立したヒートマインは、暗号資産の環境負荷に対するソリューションとして自社をアピールしていた。同社は住宅や企業の所有者に対して、マイニング機器を運営して収入をあげ、マイニングで生まれる熱の一部をリサイクルする方法を提供しようとしていた。
同社の取り組みは失敗したが(ウェブサイトは閉鎖され、フォルテ氏はパートナーたちが「約束を果たさなかった」と述べている)、アイデアは専用のマイニング機器なしでも実現している。
オフィスの暖房に使用
ビットコインATMを運営するWinnipegBTCの創業者ケビン・カーシー(Kevin Carthy)氏は、2013年からビットコインマイニングで生まれた熱をオフィスに送ってリサイクルすることで二酸化炭素排出量を削減している。
同氏は「冬に小型の電気自動車を暖める」ためにも熱を使っていると話す。
安価な電力と寒冷な気候のため、カナダは「熱のためにマイニング」するのに理想的な場所とカーシー氏は述べた。カーシー氏は2018年のビットコインマイニング機器の運営コストを月70ドル、収入は月100ドル相当と見積もっていた。
「気候は寒冷で、水力発電による安価な電力がある。熱のためにマイニングしても利益が出る」とカーシー氏は地元テレビ局のCTVニュースに語った。
カーシー氏があげた数字は、小規模な暗号資産マイニングを行っている他の人たちの利益と一致している。コンピューターサイエンティストでテックブロガーのクリスチャン・ハシェック(Christian Haschek)氏は最近、オーストリアの自宅でイーサリアム(ETH)のマイニングを始めた。
寒い時期に限られるソリューション
「サーバーの熱で自宅を暖めることは長年の夢」とハシェック氏は語った。主にソーラーパワーで電力を供給する環境効率の高い自宅を設計した後、ハシェック氏はマイニングを開始した。
ハシェック氏は、(約80℃の熱を発生させる)4台の暗号資産マイニング装置を使って、集中換気システム内の空気を予熱する。
「要は煙突のようなもの。かなりローテクなソリューションだ」とハシェック氏は語った。同氏によると、マイニングで得たイーサリアム(ETH)で1月の電力料金の半分を賄うことができたうえ、熱ポンプの電力料金は約半分に抑えられたという。
「マイニングはあまり効率的ではないが、生み出した熱を再利用している。なので、ほぼクローズド・ループになっている」とハシェック氏は述べた。
ハシェック氏は、イーサリアム価格が約900ドルを上回っている限り(当記事執筆時点では1500ドルを超えている)、自身のマイニングは利益をあげることができると考えている。ほぼ無料に近いメリットだが、寒い時期に限られるソリューションとハシェック氏は述べた。
トマト栽培やニワトリ小屋に
「夏には間違いなく、枝になったトマトを料理できるだろう」とテック写真家でガド・イメージズ(Gado Images)のCEOトーマス・スミス(Thomas Smith)氏は話す。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃、スミス氏は暗号資産マイニング装置からの熱をカリフォルニアにある温室に送り始めた。
スミス氏の暗号資産マイニングについての実験は数年前に始まった。マイニング装置で自宅を暖めることができるかを確かめようと考えたのだ。実験は成功したが、マイニングにまつわる変わりやすい状況は、趣味への応用に適しているとスミス氏は気づいた。
スミス氏は今、飼育しているニワトリが夜、快適に過ごせるようマイニング装置の熱を使っている。
「ニワトリ小屋は換気を良くしなければならないので、造りは少し簡単になる。熱を小屋に入れると、循環して出ていく」(ニワトリは小屋の温度が約21℃だと卵をたくさん産む)。
自宅や庭、ニワトリ小屋の温度に合わせて、マイニング装置を自動的にオン/オフできるようにならないかを検討しているという。ニワトリやカプレーゼサラダの価値は抜きにしても、約1600ドル相当の暗号資産を稼いだとスミス氏は見積もっている。
今は趣味のレベルだが
これらは投資コストがカバーできる趣味のようなものだ。ハシェック氏と同じようにスミス氏も、気候変動に加担せずに暗号資産マイニングを行いたいと考えている人たちに一つの可能性を提供できるかもしれないと考えている。
もちろん、こうした取り組みは小規模で、企業による暗号資産マイニングの巨大なエネルギー消費や二酸化炭素排出を決して相殺できない。だが、一つの出発点だ。そして今ほど最適な時期はない。
ビットコイン価格が上昇するなか、ネットワークのエネルギー消費に対する懸念はこれまでになく激しくなっている。西テキサスで作られた再生可能エネルギーの余剰分を活用しているレイヤー1(Layer1)や、アメリカやカナダ、中国の水力発電を利用した数多くのマイニング施設は、ビットコインのイメージ向上に役立っていない。
「個人としてできる限り規模を拡大したとしても、それほどのことはできない。だが多くの人がこうしたアイデアを大規模に採用すれば、暗号資産にまつわる電力消費や二酸化炭素排出に大きな影響を与えることができる」とスミス氏は語った。
農作物の世話をする時だけマイニング装置を稼働させる農園「Le Caveau à Légumes」のギラード氏のような新参者でさえも、暗号資産の新たな可能性を見出している。
「家を暖める良い方法になり得る」とギラード氏は語った。
|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:スミス氏はマイニングで発生する熱で鶏小屋を暖めている(Gado Images)
|原文:Mining Bitcoin for Heat, Strawberries and Chickens