企業資産としてのイーサリアムを考える【オピニオン】

テスラとスクエアが先陣を切った。他にも多くの企業が密かに始めている──ビットコイン(BTC)を企業資産として保有する財務戦略のことだ。

この動きは世界中の企業の財務担当者たちの注目を集める一方、コンサルティングファームや暗号資産(仮想通貨)関連の企業は、暗号資産の保有をサポートする事業を広げようとしている。

米国のテレビ番組「Mad Money」の司会者ジム・クラマー(Jim Cramer)氏は、企業がビットコインを資産として保有しないことは「無責任に近い」と考えている。そのメリットとリスクを説明するデロイト(Deloitte)のスポンサー記事がウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された。

良いアイデアか悪いアイデアか、それは企業の財務担当者が決めることだが、ここにきてもう一つの疑問が浮上してきた。

イーサリアム(ETH)は、企業にとって良い資産になるだろうか?

企業財務におけるビットコイン

企業資産としてのビットコインの主な論拠は以下のとおりだ。

・非対称なリスク/リターン

・将来を見据えた戦略の一環として

・ビットコイン決済を受け入れる準備

・ドルよりも価値を維持する可能性が高いこと

最後の1点は重要だ。企業の財務部門の主な役割は資本を守ることにある。ここに価値保存の手段というビットコインの主要な価値提案が関わってくる。

ビットコインは価値保存の手段としてはボラティリティが高すぎるという批判はある。だが、その視点は短期的なものだろう。

来週、来月、ひょっとしたら来年、ビットコイン価格は下落するかもしれない。しかし、需要よりもはるかに速く法定通貨の供給が増加している環境で、ビットコインのような供給量が固定された資産は、米ドルのような供給量が固定されていない資産と比較して、長期的には価値が高まる可能性が高い。大物投資家ポール・チューダー・ジョーンズ(Paul Tudor Jones)氏が指摘したとおり、わずか2%のインフレであっても、現金は「減耗資産」となる。

このような論拠はイーサリアムに当てはまるだろうか?

答えは「No」であろう。しかし、イーサリアムが企業の資産にならないわけではない。

価値保存

イーサリアムの供給量には上限はない。だが供給量の増加は控えめで(現在は約4%、時間とともに減少していくと予想されている)、需要の増加をはるかに下回る可能性が高い。

それでも現時点では、特に機関投資家の目から見ると、価値保存というストーリーはイーサリアム投資の主要因ではない。

イーサリアムはテクノロジー色が強い取り組みと見なされている。あらゆる種類の自動アプリケーションが稼働する方法を再発明しようとしており、グローバルデジタルエコノミーの究極の基盤を築くことが目標だ。

有名なマクロアナリストのジム・ビアンコ(Jim Bianco)氏が述べたように、DeFi(分散型金融)は「金融システム全体を再構築」している。DeFiはマーケット、ガバナンス、エネルギー、公共サービス、そしてアイデンティの管理方法にも影響を与える可能性が高い。

さらに、パブリックネットワークに接続できる人なら誰でも、どこからでも利用できる。

ビットコインもテクノロジー的な試みだ。価値をやり取りするまったく新しい方法を世界に解き放った。だが基本的な仕様は構想時に織り込まれていた。大きなアップデートはほとんどなく、準備に数年かかっている。

イーサリアムは分散型エコノミーの成長を生み出すのみならず、まったく新しいタイプのコネクティビティとイノベーションレイヤーを生み出すものだ。そして、そのテクノロジーはまだ完全に形づくられてはいない。

そうした抜本的イノベーションを生み出す初期段階にあるため、リスクはビットコインよりもさらに大きい。ボラティリティにもそれは表れている。

30日ボラティリティ(青:ETH、黒:BTC、黄:S&P500、赤:ゴールド、灰:債券)
出典:CoinDesk Research, St. Louis Fed, Yahoo Finance

仮にビットコインのボラティリティが企業の財務担当者を思いとどまらせているなら、イーサリアムは当然ながら、それ以上だ。

企業資産としてのイーサリアム

だがイーサリアムが企業の資産にならないという意味ではない。企業の資産ではなく、運転資本となる可能性は高い。

イーサリアムはイーサリアムブロックチェーン上のアプリケーションを支える資金として、あるいは取引手数料として必要となる。契約管理、担保の配分、収益の最適化といった社内プロセス、あるいは取引、融資、保険といった顧客向けのサービスのためにイーサリアムプラットフォームを使おうとする企業には、安定したイーサリアム供給が必要となる。

シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が今年初めにイーサリアムの先物取引を開始したことは、ボラティリティリスクを減らすことにつながり、イーサリアムの安定した供給を促すだろう。イーサリアムオプションの成熟はリスク管理をさらに支える。

運転資本としてイーサリアムを保有することは、すでに始まっているのかもしれない。

香港証券取引所に上場しているソフトウェアとソーシャルメディアアプリ企業のMeituは先日、ビットコインを1800万ドル(約20億円)、イーサリアムを2200万ドル(約24億円)購入したと発表し、イーサリアム購入についてこう説明した。

「当グループは現在、ブロックチェーンテクノロジーをさまざまな海外事業に統合できるか否かを評価している。(中略)購入したイーサリアムは将来、当グループの分散型アプリ(Dapp)のためのガス代(取引手数料)の準備資産となる」

デジタルオイル

イーサリアムを使ったアプリケーションを既存事業に統合した企業は、暗号資産業界以外にはほとんど存在せず、まだ初期段階にある。しかし、関心が高まりつつあることを示すサインはある。

100年以上の歴史を誇る多国籍保険会社のAon Mutualは、分散型保険の試験運用を開始した。CoinDeskは2月、ヨーロッパ最大級の電気通信企業ドイツテレコム(Deutsche Telekom)が分散型データに取り組んでいると伝えた。

イーサリアムのユースケースが伝統的企業に影響を与え始め、分散型アプリケーションを使う多くの暗号資産企業が成長するにしたがって、企業資産としてのイーサリアムについて、より多くの議論を耳にするようになるだろう。

デジタルプロセスを支えるイーサリアムの役割に対する注目は、その価値提案にもう1つのレイヤーを加えることになる。これまで見てきたとおり、イーサリアムはテクノロジー色の強い取り組みだ。また価値保存の手段でもある。

機関投資家は、そうした理由からイーサリアムに対して興味を持つようになるだろう。イーサリアムはこの先、その消費可能なコモディティの役割についても、恩恵を受ける可能性が高い。

ビットコインが「デジタルゴールド」なら、イーサリアムは「デジタルオイル」だ。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Is ETH Coming to Corporate Balance Sheets?