欧州ではいくつものDeFiプロジェクトが誕生している。とりわけ知名度が高いのは、分散型ノンカストディ・金融プラットフォーム「アーヴェ」(Aave)や、分散型取引所「バンコール」(Bancor)などだが、他にも続々と有望なプロジェクトが生まれている。
DeFi普及の足かせとなっている課題として、イーサリアムのスケーラビリティ問題などが挙げられる。これらの解決策を提供し、広範囲な普及に貢献すると期待されている、注目のプロジェクト5選を紹介しよう。
セントリフュージ(Centrifuge/ドイツ)「現実の世界の資産をNFT化するDeFi融資プラットフォーム」
実世界の資産のトークン化を実現したDeFi融資プラットフォーム。イーサリアム基盤のブロックチェーン「セントリフュージ・チェーン」(Centrifuge chain)上で、請求書や住宅・自動車ローン、ロイヤルティなど、多様な金融資産をNFT(ノンファンジブル・トークン)に変換。借り手はそれを担保に融資を受け、貸し手は高利回り、低リスクの短期投資ができる仕組みである。NFTは仮想通貨ゲームなどでも活用されている、個々の価値が異なる非代替トークンだ。
トランザクションに利用されるスマートコントラクト「ティンレイク(Tinlake)」が、既存のDeFiエコシステムに直接接続するように設計されている点も注目度が高い。DeFi融資で対応可能な資産の種類を多様化させることで、DeFi融資の普及・安定化に貢献すると期待されている。
アージェント(Argent/英国)「シンプルで安全性の高い暗号資産ウォレット」
暗号通貨初心者でも簡単にイーサリアムを購入・使用・保管できる、DeFi機能を備えた非カストディアル 暗号ウォレットを提供している。暗号資産の送金は手数料無料だ。Apple Payや銀行口座、カードとひもづけて暗号資産を購入できるほか、ウォレット内で暗号資産をトレードすることも可能だ。暗号資産融資サービス「Compound」と提携し、保有している暗号資産を貸し出すと最大5%の利息を得られる、貸暗号資産サービスも提供している。
複数のセキュリティレイヤーやウォレットのロック機能 で、ハッキングや盗難防止対策も万全。万が一被害にあっても、速やかにリカバリーできる仕組みだ。また、スマートコントラクトは頻繁にモニタリングされているため 、安全性が高い。同社は「世界で最もシンプルでセキュアな暗号資産向けスマートウォレット」をうたっている。
ラディックス(Radix/英国)「スケーラブルなDeFi専用レイヤー1プロトコル」
イーサリアムはスケーラビリティ問題の対応策として、プルーフオブワーク(PoW)からプルーフオブステーク(PoS)のコンセンサスを基盤とするマルチチェーンネットワークへの移行を進めている。しかし、現在のペースでDeFiの需要が拡大し続けた場合、対応が間に合わなくなるのは時間の問題だ。
ラディックスはこのような問題に対応すべく、急成長中のDeFiのために設計された初のDeFi専用レイヤー1プロトコルだ。プルーフオブワーク(PoW)やスマートコントラクトに依存することなく、DeFiセクターの需要を満たす分散型ファイナンスプロトコルの構築を目指している。
ラディックスのネットワークは、独自の開発環境「ラディックス・エンジン」(Radix Engine)と、シャーディングされたビザンチン耐性(BFT)ソリューションを使用した、スケーラブルなコンセンサスプロトコル「ケルベロス」(Cerberus)」で構成されており、あらゆるdAppが相互運用を継続出来る、安全なDeFi環境を提供する。
2021年2月には、DeFi の普及促進を加速させるための非営利団体「GoodFi」を、アーヴェやチェーンリンク(Chainlink)などと共同設立した。
ジェリースワップ(Jelly Swap/ブルガリア)「クロス・チェーントレーディング・プラットフォーム」
ハッシュ・タイムロック・コントラクト(HTLC)を使用して、「アトミックスワップ」と呼ばれるクロス・チェーントレーディングを実現。ビットコインとイーサリアムなど2つの異なるブロックチェーン間に相互運用性をもたせ、ほぼリアルタイムな交換を可能にする。
ハッシュ・タイムロック・コントラクトとは、ハッシュ関数とタイムロック機能を組み合わせて条件付き支払いを可能にする技術のこと。ライトニングネットワークなどでも同じようなコンセプトが使われている。
MakerDAOのマルチコラテラルDAIの主要機能であるDSR(Dai Saving Rate)や、前述のAAVEとも統合している。そのため、単一のアプリケーションで交換、入金、収益化を合理的に行える。
ネクサス・ミューチュアル(Nexus Mutual/英国)「イーサリアム基盤の分散型スマートコントラクト保険」
バグを原因とする脆弱性やハッキング被害というと、2016年のThe DAO(5000万ドル約相当のETHが流出)や、2017年のパーティーテクノロジー(3000万ドル相当のETHが流出)の事件が記憶に新しい。ネクサス・ミューチュアルはこのようなスマートコントラクトのリスクに対する、補償を提供している。
2020年12月にローンチされた「カストディカバー(Custody Cover)」では、以下の2つの条件のいずれかを満たした場合、補償を受けられる。
・カストディアンがハッキングされ、自分の資金の10%以上を失った場合
・カストディアンからの出金が90日以上停止された場合
プラットフォーム上で発行されるMutualトークン(NXM)は保険商品の購入のほか、クレーム評価やリスク評価、ガバナンスへの参加などにも利用可能だ。2021年2月にはトークン販売で、ブロックチェーン・キャピタル(Blockchain Capital)などから270万ドル(約2億8883万円)の資金を調達するなど、非常に期待度が高い。2021年3月3日現在のロックされている暗号資産の規模は、世界20位の2億5430万ドル(約272億410万円)。
今回紹介したプロジェクト以外にも、多数のDeFiスタートアップが欧州の金融の世界に革命を起こすという野望に燃えている。
「2025年までに1億人がDeFiに投資させる」
ラディックスがアーヴェやチェーンリンクと設立したDeFi普及のための非営利団体「GoodFi」は、「2025年までに1億人に少なくとも1ドルをDeFi市場に投じさせる」ことを目標に掲げている。その上で、DeFi市場のリーダーが業界全体の問題に取り組み、市場に参入しようとしているユーザーと開発者に、明確な教育やリサーチを提供するためのプラットフォームとなる予定だ。
2020年、DeFiの総資産額は約10億ドルから約300億ドル(約1069億 6888万から3兆2090億円)に増加したが、111兆ドル(約1京 1873兆円)という世界の金融業界の総資産額とは比べ物にならない。しかしそれゆえに、まだ成長の余地があると考えられるのではないだろうか。
|文:アレン 琴子
|編集:濱田 優
|画像:Vladimir Kazakov, NicoElNino / Shutterstock.com