最近伝えられた2つのニュースは、価値交換の手段としてのビットコインへの継続的な関心を表すものだった。「インターネット上のコマース」というストーリーの方が「デジタルゴールド」のストーリーよりも正確なのかもしれない。
1つは、VISAが決済スピードの向上や決済手数料の削減を実現するスケーリング技術「ライトニング(Lightning)」の利用を開始したこと。サービスはスタートアップ企業の「ムーン(Moon)」が提供している。
もう1つは、ペイパル(PayPal)が暗号資産カストディ技術を開発しているイスラエルのスタートアップ企業「カーブ(Curv)」を買収したこと。ペイパルが資産クラスとしてのビットコインを支持していることを証明づける買収とも言えるが、同社の屋台骨のeコマースから切り離すことはできない。
2つのデータ
次に2つのデータのうち、1つはビットコインのコマース利用の指標として注目すべきもの。もう1つはビットコインはお金なのかどうか混乱している人に有益なマクロ経済指標だ。後者はビットコインの根強い「デジタルゴールド」としてのストーリーにもかかわらず、ビットコインはゴールドとは異なるものであることを浮き彫りにしている。
ライトニングネットワークでの取引高
ライトニングネットワークは、ビットコインネットワーク上のレイヤー2プロトコルで、より高速で安価なトランザクションを可能にする。ライトニングネットワークでの取引高は、日常的なコマースにおけるビットコイン利用の指標になり得る。
残念なことに、この指標は2019年3月に記録した最高値を更新できていない。
上図では、ビットコイン価格が上昇しているためにライトニングのドル換算の取引高(黒)は増えている。だがビットコイン換算(青)で見るとその数字は頭打ち。ビットコインのフリー・フロート・サプライ──コインメトリックス(Coin Metrics)が調査した、過去5年間のアクティブアドレスが保有するビットコインの量──の約0.008%に留まっている。
これはジャネット・イエレン米財務長官のような暗号資産に批判的な人物には格好の材料だ。イエレン長官の先月のビットコインに関する発言は犯罪に焦点を当てたことで注目を集めたが、本来はビットコインのコマース利用がきわめて少ないことに対する批判だった。
「ビットコインは(中略)取引の仕組みとして広く使われているとは思わない。使われているとすれば、しばしば不正な資金調達のためと危惧している」(イエレン長官)
100ドル紙幣のコマース利用
100ドル紙幣も商取引ではあまり使われていない。100ドル紙幣の平均寿命は22.9年で20ドル紙幣のほぼ3倍近い。
「100ドル紙幣などの高額紙幣は、しばしば価値保存の手段として使われる。つまり、少額紙幣よりもユーザー間での受け渡し頻度は低くなる」とFRB(米連邦準備制度理事会)は指摘している。
紙幣の寿命
- 1ドル紙幣 6.6年
- 5ドル紙幣 4.7年
- 10ドル紙幣 5.3年
- 20ドル紙幣 7.8年
- 50ドル紙幣 12.2年
- 100ドル紙幣 22.9年
出典:U.S. Federal Reserve
だが100ドル紙幣は過去20年間、最も人気が高い。下図のように人気は高まっている。1999年、100ドル紙幣の流通額は3900億ドル、20ドル紙幣の約3.4倍だった。20年後、FRBは100ドル紙幣の流通額を1兆4200億ドルと推定、コマースでよく使われる20ドル紙幣の7倍以上になっている。
FRBで最も人気のプロダクト
ビットコインがコマースで使われていないことを指摘するビットコインに懐疑的な人は、ビットコインをドルと比較する時に間違いをおかしている。
ビットコインは5ドル紙幣や20ドル紙幣ではなく、100ドル紙幣のようなものだ。つまり投資家は、将来ビットコインは無記名の金融資産であり、価値保存の手段として保有される100ドル紙幣のような資産になると考えている。
このようにビットコインの「インターネット上のコマース」における有用性は、ビットコインの価値にとって依然として重要だ。
100ドル紙幣と同様に、ビットコインは必ずしも使われるから価値があるわけではなく、使うことができるから価値がある。この点でゴールドとは異なっている。そしてライトニングの処理能力はまだ限定的だが、ビットコインにとって重要なデータであることに変わりはない。
|翻訳:新井朝子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Getty Images/iStock
|原文Why Bitcoin Is More Like a $100 Bill Than Gold