【イベントレポート】トヨタが目指すブロックチェーンの新たな価値創造──サプライチェーン・IDからペイメントまで【btokyo ONLINE 2021】

約3,000人が参加した国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo ONLINE 2021」(主催:N.Avenue、メディアパートナー:coindesk JAPAN)が2021年3月1・2日の2日間で開催。

1日目の「トヨタ・ブロックチェーン・ラボが目指す新たな価値創造──『クルマとサプライチェーン、そしてヒトの未来』まで」に、トヨタファイナンシャルサービス株式会社イノベーション本部 副本部長の冨本祐輔氏が登壇。モデレーターは『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏が務めた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第三弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

「日本の乗用車保有台数は6200万台」クルマに紐づく膨大な情報を活かす

最初に、トヨタファイナンシャルサービスの冨本氏による「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」の取り組みについてプレゼンテーションが行われた。2012年からトヨタグループ内においてブロックチェーン技術の有用性についての検討が始まり、2019年4月からグループ横断のバーチャルな組織としてトヨタ・ブロックチェーン・ラボが始まった。

トヨタ自動車、トヨタファイナンシャルサービス、トヨタファイナンス、トヨタシステムズ、デンソー、豊田中央研究所の6社で構成。2つのPoC(概念実証)などを経て、現在はブロックチェーンを入れることによって、どのような価値があるのか、バリューを満たせるのか(PoV)というフェイズに入り、段階的に実装に入っていくという。

日本の乗用車保有台数は6200万台あり、クルマに紐づく膨大な情報がある。一方で、トヨタのグローバルでのサプライチェーン全体の売り上げは100兆円という規模であり、ブロックチェーンを活用する領域が大きいと冨本氏は語る。トヨタがカバーするサプライチェーン、ID、ペイメントといった領域は、米国リサーチ会社が発表したブロックチェーンのユースケースの中でも多く事例が見られる領域だ。

プレゼンテーションの中盤では、トヨタ・ブロックチェーン・ラボを簡潔に解説した1分ほどのショートムービーを挟んだ。

3つの領域「サプライチェーン」「ヴィークルID」「パーソナルID」での具体例

プレゼンテーションの後半では、冨本氏はトヨタ・ブロックチェーン・ラボが取り組む「サプライチェーン」「ヴィークルID」「パーソナルID」という3つの領域における具体的な活用例を紹介した。1つ目のサプライチェーンでのブロックチェーン活用事例については、年間100兆円、自動車産業全体で働く人の数が国内だけでも550万人いるというデータを引用し、「ヒト、モノ、おカネが大きく動く領域にブロックチェーン活用ができないか」と提起。

製造における部品データのトレーサビリティ向上、工場内の製造設備に関する複数事業者間でのデータ共有、品質管理における部品の組成情報に関するトレーサビリティ、さらにそれらを金融サービスと一体化する構想について、冨本氏は説明した。

2つ目のヴィークルIDについては、整備や検査情報、車両状態に関する情報などをブロックチェーン上で共有することでデータの信頼性を向上し、可視化することができると説明。そのデータを利用してシェアリング、中古車売買、保険といった周辺でのビジネスに広げることで、新たな価値創造ができるのではないかと話した。

さらに3つ目のパーソナルIDについては、トヨタグループ内のサービスにとどまらず、その外に広がるユーザーの暮らしに紐づくような価値提供をしていきたいと展望を披露。さまざまなパートナーシップを広げていきたいと語った。

ブロックチェーンに5G・AIなど新技術が掛け合わさる

後半は、『WIRED』日本版編集長の松島氏がモデレーターを務め、冨本氏との意見交換がなされた。松島氏が「トヨタグループがデータを保有し、お客様を囲い込んでいくようなイメージを持つ人もいるのではないか」と疑問を投げかけると、冨本氏は「お客様に主権がある。(トヨタの取り組みは)データの民主化であり、必要なデータを、必要なときに、必要な相手に提供することがブロックチェーンならばできるのではないかと考えている」と答えた。

また松島氏が「金融からIDまで取り組みが広く多岐にわたっているため、難しいことが多いと思われるがどうか」と聞くと、冨本氏は「従来のビジネスに比べるともちろん難しい部分も多い。ただブロックチェーンだけで解決できるわけではないので、5Gの通信スピード、AIのデータ解析能力などが合わさることで、さまざまなチャレンジを突破できると考えている」と述べた。

視聴者からも「バリューチェーンの中で支払いと納入を一体化するのにブロックチェーンは効果的と思っている。貴社(トヨタグループ)にリードしていただけると大変にうれしく思う」などの意見が寄せられ、自動車産業におけるブロックチェーン活用の未来を見通すセッションとなった。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第三弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

|文・編集:久保田 大海
|画像:N.Avenue