暗号資産に“スーツ組”が入ってきた──“変わり者”はどこへ行く【オピニオン】

暗号資産(仮想通貨)のビットコインはオンライン掲示板好きな男、サトシ・ナカモトが生み出した。

分散化には大きな可能性があると考えた若き開発者、ヴィタリック・ブテリンは、ホワイトペーパーと何通かのEメールで「イーサリアム」をスタートさせた。

暗号資産における大きな成功は、パンク、ヒッピー、反抗者、あまのじゃくな人たちが生み出す。つまり私が言いたいことは、現状の強気相場の中、スーツ組に魅了され過ぎないように、ということだ。

CoinDeskでは、スーツ組の魅力をきわめてダイレクトなかたちで目にする。数年にわたって、何のかたちにもならなかった数多くのコーポレート・ブロックチェーン・アクセラレーターや、パイロットプロジェクトを目撃してきた。明らかに「イノベーション劇場」だったが、目的は何だったのか誰にもわからない。

スーツ組の魅力

スーツ組の魅力は認めている。「大人らしく」という主張は、説得力があるように思える。「ブロックチェーンの未来はおそらく、エンタープライズ……」、真実味のある言葉だった。

今、スーツ組が帰ってきた。今回は本気のようだ。「ビットコインではなくブロックチェーン」と口にする代わりに、多くのリッチな人たちが、いくらかのビットコインと、たぶん多少のイーサリアムを保有する転換点を迎えたようだ。

では、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが暗号資産部門を立ち上げたら、勝負は決まってしまうのだろうか?

試合終了。サトシの勝利! では、ここからはウォール街にお任せを、となるのだろうか?

VISAがイーサリアムベースの米ドル連動型ステーブルコインを使ったデモプロジェクトを発表した。これですべては決着したのだろうか?

そうは思わない。

本物は周縁から生まれる

試行錯誤を繰り返す人たちが何をしているかに注目し続けることをおすすめする。

この方法はうまくいく。私は記者として、そこに関心を向け、うまくいっている。例えば、ノンファンジブル・トークン(NFT)は今、どうなっているだろう?

私が初めてNFTについて記事を書いたのは2018年。アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が2300万ドルを投資する3年前に、NFT市場のオープンシー(OpenSea)を取り上げた。

2020年の「DeFi(分散型金融)の夏」はすごい状況だったが、私がコンパウンド(Compound)について最初に伝えたのは2018年のこと。2019年には定期的にメーカーダオ(MakerDAO)を掘り下げた。ユニスワップ(Uniswap)については、業界で注目を集める1年前に伝えた。

周縁にある本物を見つけることは難しいことではない。本物はすべて周縁から生まれる。

スーツ組は、その分野が横ばい状態になり、安全になった時に現れる。予測可能で、いい感じの、小さなビジネスになった時に現れる。退屈なものになった時にやって来る。もし早めにやってくることができたとすれば、退屈なものにするために現れる。

DAO(自律分散型組織)

スーツ組の対局は、自律分散型組織(DAO)だ。

最初の大規模な取り組みは、あまりうまくいかなかった。その失敗の直後、メーカーダオはよりフォーマルなものを目指したが、運営はトークン保有者が担い続けた。

しばらくの間は、概念実証やプレスリリースなどでスーツ組が勝っているように思えた。だが流れは2020年夏、明らかに変わった。

DeFiが成長を始め、法律が支配する世界に正式な組織を持たず、ブロックチェーン上に完全に存在する組織に、人々は再び興奮し始めた。

DeFiで最も有名なDAOは、ブランディングすら行っていない。ヤーン・ファイナンス(Yearn Finance)だ。

私はしばしば、資産をヤーンに投資した人のうちの何人が、ヤーンを運営するために多くの人間が関わっている事実を考えたことがあるだろうかと不思議に思う。

ヤーンの「スタッフ」とでも呼ぶべき人たちは、多くの時間を費やし、多くのお金を得ている。そして、そのすべては、我々が通常イメージするような正式な組織の支援を受けているわけではない。会社は存在しない。

これは普通ではない。奇妙なことだ。だが、ヤーンや似たようなDAOは成長し、さらに業界を揺るがしていくだろう。

フェイスブックのリブラ

DAOの対局にあるのが、フェイスブックの暗号資産への進出だ。当初は「リブラ(libra)と呼ばれたが、構想は縮小され、「ディエム(diem)」に名を変えた。

フェイスブックは、公聴会に何度も出席し、うまく答えていけば、世界中の規制当局を納得させ、お金の仕組みを変えることができると考えた。

だが、グローバルな業界をディスラプト(創造的破壊)する許可を得ることは、うまくいかなかった。フェイスブックは分散化について、強い信念を持っていなかったようだ。

同社が2019年に宣言していたように、ユーザーがプライベートにコミュニケーションできるようにするなら、同社はその収入源を多様化する必要があった。しかし、グローバルな金融規制当局とうまく付き合うことはできなかった。

真の変化は、誰かに悪いアイデアだと言われたり、従来の方法とは合わないと言われたからといって、決してやめることのない人たちが生み出す。

銀行や金融機関、決済企業が参入したいなら、すればいい。しかし、そこからエキサイティングなことは始まらない。終わってしまう。

エキサイティングなことを望むなら、ユニコーン柄のシャツを着て、髪の毛がグシャグシャで、チェーンを下げているような人たちに注目しよう。どこでも変わり者が勝つ。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Don’t Follow the Suits, Follow the Weirdos