NFT:希少資源を最大限活用するための経済インフラ【オピニオン】

SF作家のウィリアム・ギブスンは、「未来はすでにここにある。ただ均等に行き渡っていないだけ」という有名な言葉を述べている。ノンファンジブル・トークン(NFT)をめぐる熱狂も同じではないだろうか。

数十年もの間、SF作家たちは資本主義を超えた、ポスト希少性社会を描こうとしてきた。だが、差し迫った物質的ニーズが存在しないなかで、誰一人として希少性が再発明されることを予測してこなかった。

NFTは、ユニーク(唯一無二)なデジタルアートの所有権を表すトークンとして注目を集めている。ツイート、GIF画像、動画……。我々はもうすぐ、「限定バージョン」が無数に存在し、そのなかのごくわずかなものだけが、本当の価値を持つことを理解するだろう。

こうしたプロセスは、成長市場では当たり前のことだ。デジタルアートの世界にも、間違いなくあてはまるだろう。

ポスト希少性の世界は等しく行き渡っていない。新型コロナウイルスの感染拡大で、多くが失業し、食べることさえも困難な状況に陥った人たちがいるなかで、NFTをめぐる動向を見つめることはつらいことだ。

私は、人類の最大の功績は、知識やアートの希少性を取り除いたことだと考えている。

地球上のほぼすべての人が、ポケットの中の小さな端末を使って、50年前の最もリッチな人たちよりも、多くの情報や知識、アートにアクセスできることこそ、我々がどれほどのことを成し遂げたかを示している。

経済インフラとしてのNFT

コレクターズアイテム市場がどうなろうとも、ノンファンジブル・トークン(NFT)は将来性のある重要な経済インフラだ。

デジタルコンテンツやソフトウェアによって、経済の大部分がポスト希少性の時代に入ったとしても、現実の世界には常に制約が存在する。土地には限りがあり、他の多くの重要な資源にも限りがある。NFTには、有限の資源や資産を有効活用するという役割がある。

NFTが強力な理由は、共通性とユニークさを1つのトークンで表現できるから。NFTを定義・管理するスマートコントラクトは、GIFからアート、自動車などの資産を全般的に定義できる一方で、個々のトークンは特定のユニークなアイテムを表すことができる。

サプライチェーンの世界では、価値が高まるにつれて、ファンジブル・トークン(取り替え可能なトークン)として表されるものから、ユニークな資産へと移行することがよくある。

例えば、私の車に使われているネジやワッシャーには明確な価値はない。だが生産ラインから私の手元に届けられる時には、私が選んだカラーやアクセサリーを装備したユニークなアイテムになっている。

私がしばらく運転した後、その価値は私がどれだけ車を手入れしたのかによっても決まるだろう。

有限資源のデジタル化で広がる可能性

EYでは、NFTは高価値資産のデジタルな権利を管理するための重要なメカニズムになると考えている。また、ビジネスプロセスのインプットとアウトプットを表す重要なメカニズムでもあるとも考える。

発注書はその典型で、それぞれの発注書には固有の製品や数量が含まれている。発注書や請求書をNFT化することによって、オンラインでの取引が可能になり、信用市場が築かれ、デジタル決済が加速する。

有限資源をデジタル化することで、管理や移転、利用の可能性は大きく広がる。デジタル化が十分に進んでいない状況で最も残念なことは、さまざまなリソースが手の届く範囲に存在しても、アクセスできない人が非常に多いことだ。

MRIから建設機械まで、多くの製品やサービスが十分に活用されていないのは、その能力がユーザーに見えるかたちになっていないか、所有者がその能力を収益化する方法を持っていないからだ。

いずれの場合も、資産をデジタル化し、NFTとして表し、可視化してアクセスできるようにすることで、この状況を変えることができる。

希少性は常に存在する。そしてNFTは、今あるものを最大限に活用するための最高のツールだ。


ポール・ブロディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。


|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:NFT市場「OpenSea」に出品されたNFTアート(Alex Shell/OpenSea)
|原文:Forget GIFs, NFTs Are Essential Infrastructure