アルケゴス問題がビットコインに与えた影響──CME先物市場に見る変化

米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの破綻に端を発する巨額損失問題は、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のビットコイン先物プレミアムにある程度の影響を与えた可能性がある。

アルケゴスは100億ドルを超える資産を運用するファミリーオフィス。大手金融機関からの借り入れでボジションを500億ドル〜800億ドルまで膨らませたが、結果的に金融機関に数十億ドル規模の損失をもたらすこととなった。

クレディ・スイスは50億ドル近い損失を被り、投資銀行部門の責任者が辞職に追い込まれた。野村ホールディングスも約20億ドルの損失を計上したと伝えられている。

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先物プレミアムの動き

CMEは伝統的な金融プレーヤーにビットコイン先物を提供しており、CME先物プレミアム(先物価格と現物価格の差)に見られたように、アルケゴスの破綻から多少の影響を受けた可能性がある。

だが、CMEの先物プレミアムは、バイナンス(Binance)やデリビット(Deribit)、FTX、オーケーエックス(OKEx)などの個人投資家向け取引所の先物プレミアムと比べると動きは遅れている。

トップレベルの暗号資産投資家によると、この違いはウォール街のデレバレッジ(レバレッジ取引の解消:リスク回避のためポジションを逆の売買で解消すること)を反映している可能性があるという。

「伝統的な金融分野では、あらゆるところでデレバレッジが行われている。CMEは主に大手ヘッジファンドや大手投資信託にサービスを提供しており、(伝統的な市場では)プライムブローカーや取引所に対する規制によって、レバレッジは以前よりも小さくなっている」と暗号資産投資会社Arca Fundsの最高投資責任者(CIO)ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏は、米CoinDeskのインタビューで述べた。

CMEのビットコイン先物プライムレートは年率で、平均8.67%。これに対して、FTX、デリビット、バイナンス、オーケーエックスなどの取引所では27%~31%(暗号資産デリバティブのデータ提供会社Skewのデータ)だ。

出典:Skew

個人投資家の大きな自信

ビットコイン先物プレミアムのCMEと他の取引所での差は、アルケゴス問題が表面化した3月末以降、拡大している。

スイス・チューリッヒに拠点を置くCrypto Broker AGのシニア暗号資産トレーダー、パトリック・ホイザー(Patrick Heusser)氏は、先物プレミアムは、取引所におけるトレーダーによるレバレッジ需要を表していると述べる。

現在のような強気相場では、「レバレッジをかけてロング(買い持ち=強気の投資)を狙うトレーダーは、レバレッジのためのコストであるプレミアムを支払うことをいとわない」と同氏は言う。「CMEではレバレッジをあまりかけられないため、(他の取引所に比べて)先物プレミアムはそれほど上がっておらず、大きくもない」

理論的にCMEの先物プレミアムは、より規制された取引ルールと限定的なレバレッジポジションのために他の暗号資産取引所よりも低くなると、ホイザー氏は述べる。

もうひとつの理由は、トレーダーがビットコインに対して強気の見方をしており、3月末から暗号資産取引所でプレミアムが上昇していることだ。

「自信過剰なトレーダーが増え、レバレッジをかけたロングが増えているのではないか。トレーダーは価格上昇を期待し、ロングポジションを取っている」とアーケーン・リサーチのリサーチ責任者、ベンディック・ノーハイム・シャイ(Bendik Norheim Schei)氏は話す。

個人投資家向け暗号資産デリバティブ取引所のトレーダーは、「すでに暗号資産のエコシステムの中にいる。投資家としての基盤や、レバレッジの考え方がまったく違う。つまり、暗号資産の世界にはまだ、可能な限り多くのリスクを取ろうとレバレッジを掛けるアグレッシブな投資家が存在する」とドーマン氏は述べた。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Here’s How the Archegos Debacle May Have Spilled Over to Bitcoin