暗号資産取引所を運営する米コインベース(Coinbase)のナスダック上場は、業界の内外から期待を集め、同時に同社株の価格予想でも大きな議論を呼んでいる。
テクノロジー関連企業の上場は、一般的に大きな注目を集める。投資を考えていない人でさえ、エンターテイメントのような感覚で初値の動きに注目する。
コインベースの上場は特に注目の的だ。初値の動きによる利益や損失のみならず、暗号資産業界の行方を左右する可能性がある。
コインベースの株式上場の特徴の1つは、一般的な新規株式公開(IPO)ではないことだ。
コインベースは、上場手段として比較的新しい選択肢の「直接上場」を選んだ。直接上場は暗号資産企業にきわめて適しているだろう。直接上場とIPOの違いは明らかだが、依然として多くが理解していない。
コインベースにとっての直接上場の意味を明らかにするために、直接上場とIPOの主な違いと、初値に及ぼす影響、そして今後の同社の株式戦略への影響を考えてみよう。
直接上場とIPO
IPOの場合、株式は事前に設定された価格で割り当てられるが、直接上場は違う。
IPOでは、投資銀行は可能な限り高い株価を設定する。なぜなら、銀行は通常、IPOで調達した金額から一定の報酬(通常は7%程度)を受け取るからだ。
直接上場では、投資銀行が設定した価格は存在しない。取引初日の市場動向は取引開始価格に影響を与える。取引初日には、10分間の「ディスプレイのみ」の時間があり、興味を持った投資家が買いを入れ、売り手(コインベースの既存株主)はそのオファーを検討する。
ナスダックはこの情報を使って「現状の参照価格」を割り出す。ゴールドマン・サックスは(コインベースと相談して)取り引きを進めるかどうかを決める。「イエス」と判断されれば、注文はその価格で実行され、取引が始まる。
IPOは新しい資金を調達するが、直接上場は違う。
直接上場はコインベースの金庫を現金で埋めることにはならない。しかし、同社にとって、今後の資金調達はより簡単になる。
理論的には、IPOは直接上場よりも初期の取引での価格変動は小さくなる。理由としては以下の3つがあげられる。
- 直接上場では、大口機関投資家の支援を考慮しない。IPOでは機関投資家は一定数の株式を購入し、価格を購入した水準以上に保つための経済的、あるいは体裁を保つためのインセンティブを持つ。
- IPOでは、既存株主は通常6〜12カ月のロックアップ期間があり、その間は株式を売却するこができない。直接上場にはロックアップ期間はなく、売却は株主に任されている(もちろん例外もある。データ分析大手のパランティールは、独自のロックアップ期間を設定した。株価はロックアップ期間終了日に下落した)
- 直接上場におけるコインベース株の売り手(既存株主)は、株を売却する必要はない。取引状況を確認してから、売却のオファーを出す株主もいるだろうが、これは取引される株数に影響を与え、価格を変動させる可能性がある。コインベースは売却可能な株として1億1485万769株を登録した。だが14日に実際に売り出される株数はまだわからない。かなり少ない可能性もある。
暗号資産の精神
とはいえ、スポティファイ(Spotify)とスラック(Slack)の直接上場では、取引初日に想定外のボラティリティは見られなかった。
IPOは手間がかかり、機関投資家にプレゼンテーションするためのコストのかかるロードショー(事業内容などの説明会)や、投資銀行への高額な手数料などが必要になる。
直接上場は、株主が所有している既発株式を上場することで、そうしたコスト負担を避けることができる。IPOの大きな費用負担は、企業が長期間非公開のままでいる理由の1つになっている。直接上場は、初値よりも事業拡大に注力したい企業にとって、優れた選択肢となる。
さらに、投資銀行グループではなく、市場が実質的に初値を決めるため、暗号資産のオープンアクセスと透明性の精神に合致している。
|翻訳:新井朝子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Coinbase ‘IPO’ Isn’t an IPO. Here’s Why That’s Important