暗号資産ではできない「繰り越し控除」の仕組み──FXとの対比

確定申告の時期になると話題になるが、暗号資産に関する税金面で気をつけたいポイントについて比較対象を外国為替FX(以下FX)として紹介する。今回は「繰り越し控除」について取り上げる。暗号資産のビットコインなどは仮想通貨とも呼ばれるが、同じく「通貨」を扱うFXでは「繰り越し控除」が可能だ。この仕組みは暗号資産取引にはなく、FXが暗号資産より優れている点だともいえる。

本記事では、FX取引を例に、繰り越し控除の仕組みやメリットをまとめる。

FX損失を翌年に繰り越せる

外国為替FXでは、通年で損失となった場合、翌年以降3年間に渡り損失を繰り越せる。これを「繰り越し控除」という。

繰り越し控除の基本的な仕組み

繰り越し控除は損益通算の1つだ。損益通算とは利益から損失を差し引いて税金を計算する仕組みで、税負担が重くなりすぎないよう配慮されている。

たとえばFX取引で50万円の利益を得た後、次の取引で20万円の損失を出した場合、実質的な利益は30万円だ。税金も、50万円の利益と20万円の損失を合算し、30万円の利益で計算される。

暗号資産でも、同じ年の取引なら損益通算は可能だ。問題は、年をまたいだ損益通算だ。税金の計算は基本的に年単位で行われるため、年をまたいだ損益通算ができないケースがある。暗号資産はその1つだ。

FXの場合、損失を翌年以降3年間繰り越せる。したがって、翌年以降3年以内の利益と損益通算が可能だ。

繰り越し控除のメリット

繰り越し控除のメリットは、年をまたいだ損益通算が可能になり、税負担を軽減させる点にある。

仮に、年をまたいで以下のような損益になったとする。

2019年 ▲50万円
2020年 +50万円

2019年と2020年の累計で考えれば利益はない。しかし、各年で税金を計算すると以下のようになり、実質的に利益がないにも関わらず税負担が発生してしまう。

【各年で税金を計算した場合(税率:20%)】
2019年 ▲50万円(税金:0)
2020年 +50万円(税金:10万円)

上記の場合、2019年分の損失を繰り越し、2020年分の利益と相殺すれば税金は発生しない。税負担を実質的な損益に合わせることが可能だ。

繰り越し控除のやり方

繰り越し控除を行うには確定申告が必要だ。「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」および「所得税及び復興特別所得税の申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)」を作成し、申告を行う。

申告書は、国税庁HP「確定申告書等作成コーナー」で作成可能だ。画面の案内にしたがって進められるため利便性が高い。作成した申告書を印刷して提出するか、または電子申告(e-Tax)で提出する。

確定申告書は毎年2月中旬~3月中旬に受け付けている。土日は申告書を受け付けていないため、曜日の関係で年ごとに期間がわずかに異なる。なお、2020年分を申告する場合、2021年2月16日~4月15日が申告期間だ。

繰り越し控除の注意点

繰り越し控除を行う場合、いくつか注意点がある。

毎年確定申告が必要

繰り越し控除を行う場合、毎年確定申告が必要だ。これは、仮に損益通算の対象となる利益がない年でも行う必要がある。

仮に、以下のような損益になったとする。

2018年 ▲50万円
2019年 ±0
2020年 +50万円

2018年の損失を2020年分の利益と損益通算したい場合、2018年分と2019年分、また2020年分の確定申告が必要だ。2019年分は利益がないため、繰り越し控除による損益通算の対象はないが、損失を2020年まで繰り越すためには確定申告をしておく必要がある。

FX取引は、給与所得者など確定申告義務がない方の場合、一定以上の利益でないと確定申告の義務がない。したがって、利益がない年に確定申告を失念しやすい。

繰り越し控除を行う場合、毎年確定申告を行う必要がある点に注意が必要だ。

FX以外のデリバティブも対象

上記の繰り越し控除は2012年1月1日以降、くりっく365や日経225先物取引などの市場デリバティブ取引に一本化された。したがって、FX以外の取引で得られた利益からも損失を差し引けるようになった。

複数のデリバティブ取引を行っている場合、FX以外の利益についても損失を差し引くよう注意したい。

その他 暗号資産と外国為替FXの税制の違い

暗号資産で得られた利益は、「総合課税」として利益を計算される。これは、給与など他の所得と合算して税金を計算する方法だ。

総合課税では、所得が大きいほど税率が上昇する「累進課税」方式が取られている。暗号資産で得られた利益が大きいほど税率が上昇する。また、もともと給与などの所得が大きい方も税率が高くなりやすい。

一方、FXは「申告分離課税」だ。「先物取引に係る雑所得等」として他の所得と別に税金が計算される。したがって、給与など他の所得の影響がない。税率は一律20%だ。

損出しの時期に縛られず取引できる

繰り越し控除ができない場合、損益通算をするためには年内に取引を完了させなければならない。年をまたいで損失を出した方が損益通算の期間が長くなるため、年末に近づくほど損失を出しにくくなり、取引に影響を与えかねない。

繰り越し控除を活用すれば、年内に限らず、翌年以降3年間に渡り損益通算が可能になる。3年間の制限は残るが、より長い期間で損益通算が可能だ。損出しの取引を翌年まで待つインセンティブが薄まるため、より純粋に市場動向に基づいた取引を行いやすい。

繰り越し控除は暗号資産ではできない。より自由に取引できる点がFXの強みとも言えるだろう。

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|文・編集:coindesk JAPAN編集部
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