ビットコイン下落中に「テザープレミアム」が教える資金の流れ

最も古く、最も人気のある米ドル連動型ステーブルコインの「テザー(USDT)」は、直近のビットコイン下落の間、米ドルから大きく離れる値動きを見せた。

発行総額520億ドル(約5兆6000億円)にのぼるテザー(USDT)の「テザープレミアム」(テザーが上乗せ価格で取引される状況)は、いつ何が起きてもおかしくない暗号資産市場において、安全資産としてのテザーの用途が拡大していることを示していると、一部のアナリストと暗号資産取引の幹部は述べる。

「ビットコインの価格が下落するなか、トレーダーは急いでビットコインを売り、テザーに変えようとする。テザーは激しい価格ボラティリティの中で一時的な安全資産と考えられている点で米ドルに似ている」とブロックチェーンデータ分析企業のカイコ(Kaiko)は4月19日付のニュースレターに書いている。

「テザーに対する買い圧力の突然の上昇は、時にテザーと米ドルとの1対1の関係に影響を与え、プラスの乖離を引き起こす」

発行総額は2倍に

発行元であるテザー社の信頼性と財政的な裏付けに関する疑問が残っていることを考えると、テザー(USDT)は安全資産という考え方は不適当に思えるかもしれない。テザー社は3月下旬、ニューヨーク州検事総長と1850万ドル(約20億円)での和解に同意した後、資産状況の証明書を発表した。

それでもテザーの発行総額は年初の約200億ドルから2倍以上になり、暗号資産市場における事実上の「キャッシュ」としてのテザーの利便性と効率性がますます大きくなっていることを示している。

18日、ビットコイン(BTC)が下落し始めるなか、テザーは1.004ドルを超えた。これは、新型コロナウイルス感染拡大によって、ウォール街から暗号資産まで幅広く急落した2020年3月以来の高水準だ。

出典 : Kaiko

テザー価格の上昇はマージンコール(追い証)としてテザーを集めようとした暗号資産デリバティブトレーダーの需要も要因の1つかもしれないとオーケーエックス・インサイツ(OKEx Insights)のマーケットアナリスト、ロビー・リュー(Robbie Liu)氏は述べる。

「まずビットコイン価格が下落し、次にテザープレミアムが上がり始めた。こうした市場の動きは、2月22日のフラッシュ・クラッシュ(瞬間的な急落)と一致している」

中国でのテザープレミアムの理由

加えて、暗号資産取引所フォビ(Huobi)のOTC(店頭取引)デスクでは、18日のビットコイン下落以前から、テザーは中国人民元に対してプレミアム価格(上乗せ価格)となっていた。

通常の市場状況では、人民元に対するテザー価格は、米ドルと人民元の為替レートと一致するはずだ。

フォビのOTCデスクでの「テザープレミアム」と18日の下落のタイミングとの関連は「強い」ものではないと、フォビの広報担当者はコメントした。

だが、テザー(USDT)/人民元ペアはこのところ、大幅なプレミアム価格で取引されている。この価格差は、テザーを暗号資産取引に日常的に利用する中国のトレーダーや投資家の需要の高まりを示している。中国では、法定通貨での暗号資産購入は禁止されている。

フォビの共同創業者ドゥ・ジュン(Du Jun)氏は、人民元に対するテザープレミアムは、ここ数週間のアルトコイン高騰で得た利益を多くのトレーダーが現金化するなかで起きたと広報担当者を通じて語った。

最近のドージコイン(DOGE)などのアルトコインの盛り上がりは、中国の新しい投資家を暗号資産市場に引きつけ、OTCデスクでのステーブルコイン需要の高まりとともに、「テザープレミアム」の要因となったと、ドゥ氏は指摘した。

今月の突然の価格上昇によって、柴犬をモチーフとしたドージコイン(DOGE)の時価総額は一時、代表的な暗号資産リップル(XRP)を超えた。データサイトのメッサーリ(Messari)によると、当記事執筆時点、ドージコインの時価総額は約500億ドル、6番目に価値のある暗号資産となっている。

「テザープレミアムが発生する理由は数多いが、根本的には需要と供給の問題」とドゥ氏は語った。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:CoinDesk Archives
|原文:During Bitcoin’s Latest Price Crash, ‘Tether Premium’ Shows Where Money Went