歴史を振り返ると、大きな技術的変化の機会を逃した企業であふれている。
その多くは市場参入のタイミングを慎重に見計らっていたのかもしれないが、私はそうした企業は誤った普及の指標をチェックし、誤った決断を下したと考えている。
同じパターンがブロックチェーンでも繰り返されようとしている。ここでの問題はテクノロジーについては、規格や市場シェアをめぐる争いは通常、大規模な普及の前に決着がついていることだ。
つまり、市場が大規模な普及フェーズに入っていると大半の企業が気づいたときには、市場の大勢はもう決まっている。
PC、スマホ、そしてブロックチェーン
パーソナルコンピューター(PC)市場は1977年にスタートしたと言われている。10年後の1987年、パソコンの保有家庭はアメリカの全世帯の15%未満だったが、その頃までにはマイクロソフトのウィンドウズは、市場の半分以上のシェアを占めていた。
スマートフォンも同じだ。2000年、ノキア(Nokia)がシンビアン(Symbian)で市場をスタートさせたと言えるだろう。2003年にはeメールに特化したスマートフォンが、そして2007年にはタッチパネル搭載のスマートフォンが生まれた。2011年、普及率はまだ約20%にも満たなかったが、すでに今の2大マーケットリーダーが君臨していた。
このパターンは、クラウドコンピューティングとネットワーキングシステムでもほぼ繰り返されたようだ。
どちらの市場も主にオープンソーステクノロジーと、公開済みの規格に基づいているが、数十年にわたる競争の後でさえも、もともとのリーダー企業が支配している。ネットワーク機器(シスコ)のマーケットリーダーは50%のシェア、クラウドのマーケットリーダー(AWS)は32%のシェアを占めている。
これらは、ブロックチェーンにとっての教訓となる。つまり、時間はなくなってきている。これは、新たな代替ブロックチェーン、昔からのプレーヤー、すべての新規参入企業にあてはまる。スタートをどこに置くかによるが(ビットコインは2009年、イーサリアムは2015年)、すでに市場は7年、あるいは12年目を迎えている。
いくつかの統計があるが、アメリカ人の8〜10%はすでに暗号資産(仮想通貨)を保有しているとされる。リーダー的ポジションを確立するためのチャンスは、市場が生まれてから10〜12年ほどでなくなってしまうようだ。そして、その期限はまだ来ていないとしても、迫っている。
戦いは決しつつある
ゲームの結末がかなり近づいていることに、日々の激しい競争の中で気づくことは難しいだろう。1985年〜1990年の間に(私のように)コモドールのアミーガ、あるいはアタリSTを選んだとしても、仲間選びに失敗したわけではなかった。同様に2000年代中頃、難しいタッチスクリーンを避けて、キーボード付きのスマートフォンの信頼性を選んだとしても同じ仲間はたくさんいた。
リーダー製品とは異なるスマートフォンやPCを選んでも同じ仲間が数多く存在しただけではなく、リーダー的な製品の大きな欠点を指摘することもできた。
1985年の白黒画面のPC? メモリはわずか640キロバイト? 同じような問題がブロックチェーンにもある。ビットコインのCO2排出やイーサリアムの取引手数料は、常軌を逸しているとしか言えない。
だがこうした問題がエコシステムを破壊することはなかった。しばしば不完全に修正され、多くの不平がありながらも、前に進んだ。メモリを多く積んだPCが登場すると、お粗末な善後策と批判された。それでも大量に売れた。
ビットコインのCO2排出に対するいかなる「解決策」についても、ほぼ同じような反応が生まれるだろう。
ブロックチェーンの世界における支配的プレイヤーは今や明らかだと私は考えている。ビットコインは他のすべての暗号資産の合計よりも大きな時価総額を誇っており、価値保管の手段としての地位を築いているようだ。
同様に、イーサリアムは他のすべてのブロックチェーンの合計よりも多くの開発者を抱えており、次世代の開発者に好まれる経済インフラとしての地位を築いているようだ。
同時に、Aave、バイナンス(Binance)、コインベース(Coinbase)、コンパウンドラボ(Compound Labs)といった企業は暗号資産エコシステムの中で、リーダー的ポジションを確立しようとしている。
時間はない
私はEY(アーンスト・アンド・ヤング)で5年間、市場に参加するだけでなく、リーダーとなるためにあらゆる手を尽くている。成功したかどうかは、あと10年はわからないだろうが、決定的な時期は今だと確信しており、多くの人がまだ初期段階と考えているなかで、強い切迫感を伝えることにときに苦戦している。
切迫感を持って行動すべき決定的な理由は、それはマーケットリーダーとなるための期限が迫っているだけではない。チャンスが再び巡ってくる可能性も小さい。1987年、マーケットリーダーのものよりも優れたオペレーティングシステム(OS)は存在した。それは2000年も、2010年も、2020年も変わらない。
テクノロジー市場のリーダーシップについての最も驚異的な点は、テクノロジー自体にほとんど影響されないことだ。常により優れたライバルが存在する。プラットフォームの強みはテクノロジーから生まれたかもしれない。だが結局は、投資全体、導入基盤、そして開発者コミュニティに大きく支えられている。
この1、2年で、多くのテック企業、金融サービス企業がブロックチェーン市場への参入計画を発表するだろう。ほぼすべてのケースで、「まだ初期段階」であり、戦略を練り、従来の市場でのポジションを活かす「時間はたっぷりある」証拠として、業界や市場におけるテクノロジーの普及度合いの低さが語られるだろう。
だが違う。時間はない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:シンビアンOSを搭載したノキア端末(Shutterstock)
|原文:Time Is Running Out to Win the Blockchain Race