月間利用者数が1900万人を超えるモノのマーケットプレイスを運営するメルカリが、暗号資産(仮想通貨)事業を展開するメルコイン(mercoin)を設立した。2022年のサービスローンチを目指し、急ピッチに事業開発を進めている。
マーケットプレイスの「メルカリ(mercari)」事業を軸に「メルペイ(merpay)」の決済事業も手がけてきたメルカリは、2018年頃からイーサリアムを中心とするブロックチェーンの研究開発を社内で行ってきた。
不要になったモノをメルカリのアプリで売り、メルペイのウォレットで売上金を受け取る一連のユーザー体験に、ビットコインはどんな新たな価値をメルカリ・ユーザーに届けるのか?
メルコイン取締役の伏見慎剛(ふしみ・しんご)氏と、メルコインで暗号資産事業のプロダクトマネージャーを務める中村奎太(なかむら・けいた)氏に、メルコインの数年後の姿について聞いた。
日本の暗号資産業界のリアル
──北米を中心に暗号資産市場は急速に拡大しているが、日本の成長ペースは欧米ほどではないように思える。メルコインの設立はなぜこのタイミングか?
伏見:メルカリには約1900万のMAU(マンスリー・アクティブユーザー)がいる。メルペイの利用者も1000万を超えた。この規模に拡大していくなかで、安心・安全な取引環境の構築には最優先に取り組んできおり、安心・安全に取引して頂くためのベースラインの体制は整ってきた。
一方で、暗号資産交換業に関しては資金移動業と比較して、考慮するべきリスクが異なる部分がある。そのため、新たな体制を整えている最中だ。これから1年くらいかけて、2022年にはメルコインのサービスをリリースできればと考えている。
我々から暗号資産事業がどう見えているかというと、グローバル市場は盛り上がってきたと思う。米決済大手のペイパル(PayPal)やスクエア(Square)は本格的に暗号資産をサービスに組み込んできている。暗号資産はこれまでの投機的なものから、日常的な利用が見え隠れする状況になってきた。
一方、国内市場を見ると、活況な取引所とそうでない取引所がはっきりしてきたように思える。活況なところの規模を見ても、口座開設ベースで数百万規模と理解している。
確かに大きいとは思うが、日本の総人口と比較すると限られた規模だ。このケタが変えられるような取り組みを進められればと思っている。株式やFX(為替取引)に慣れ親しんだ投資家の一部が、暗号資産も試してみようと、暗号資産取引所で口座を開設している状況だと思う。これが日本のリアルではないだろうか。
ビットコインの大衆化
──国内には20を超える暗号資産交換業者が存在する。メルコインはどんな戦略で、事業拡大を図っていくのか?
伏見:暗号資産はもう少し大衆化される必要があるだろうと思う。ここをやるのがメルカリだろうと考えている。
不要になったモノを売り、売上金を法定通貨で受け取るというのがメルカリだ。その受け取る一部をビットコインにしませんかというサービスを考えている。
要らない衣服を売ったお金で、ビットコインを始めてみませんかという気軽なアプローチでサービスを始めることで、その市場(暗号資産)のパイを一気に広げられるようなプレイヤーになれないかと思っている。
既存の暗号資産交換業者とは異なり、多くの種類の暗号資産を取引できるようなサービスは考えていない。モノを売った売上金の一部で、ビットコインを持って頂き、パイを大きくしていく。このアプローチで今後1、2年は進めていきたい。
メルコインの人材とM&A戦略
──メルコインの体制を整えていく上で、人材はどれだけ拡大していくのか?M&A(合併・買収)を通じた事業拡大の選択肢もあるのでは?
伏見:メルコインとメルペイあわせて今後1年で新たに100人を採用していこう考えている。エンジニアリング、プログラミング、セキュリティ分野が大きなポーションを占めてくるだろう。コンプライアンスやオペレーション人材も強化していく。
メルカリグループとして、非連続な成長を遂げるためのM&Aは、その可能性を否定するつもりはない。
例えば、メルカリのユーザーが暗号資産領域に流れていけば、その事業体制を構築するための暗号資産ウォレットやカストディ(暗号資産の保管・管理)の領域におけるM&Aもあり得るだろうし、AML(マネーロンダリング対策)の領域においても可能性はあると思う。
中村:外部のカストディサービスはセキュリティ面では優れているが、サービス自体が重くなっているとも思う。結果として、使い勝手の面である程度の課題は出てきているのかもしれない。我々のユーザーに対して分かりやすいものに仕上げていく必要はある。自分たちで作っていくということも視野に入れながら、外部のソリューションもしっかりと見ていきたい。
伏見:例えば、楽天はマーケットプレイスを運営しながら、銀行や証券の金融事業を拡大してきた。米国では、スクエアの送金アプリ「Cash App」や、ペイパルの「Venmo」が暗号資産サービスを導入している。CashAppは送金サービスが事業の軸にあって、レンディングサービスや株取引サービスが加わってきた。同様に、メルカリはお客様体験本位のサービスを作っていく方法を考えている。
ブロックチェーンがメルカリを破壊する
──メルカリはブロックチェーン関連の事業をどう広げていくのか?
中村:僕はメルカリにブロックチェーンのエンジニアとして2017年9月にジョインした。その頃、メルカリがR4Dという研究開発の組織を立ち上げ、ブロックチェーンもその研究対象の一つだった。
もともとAIを研究していたが、多くのブロックチェーンについてのホワイトペーパーを読みながら、この技術が既存のサービスをどう変えられるかを考えてきた。
ある時から、ブロックチェーンはAIどころではないと思うようになった。例えば、既存の金融サービスを破壊するほどの威力があるだろうと考えるようにもなった。
個人的には、ブロックチェーンはメルカリ自体を破壊する技術なのではと思うこともあった。そのメルカリがブロックチェーンを研究するということはどういう意味なのか?
R4Dでは「メルカリX」というプロジェクトの中で、ブロックチェーンで何ができるかを考えながら研究に没頭した。イーサリアムをゴリゴリさわったりもした。
NFTはメルカリをどう変える?
メルカリのサービス自体をブロックチェーンの上で作り直すような研究もしてきた。これからは、NFT(ノンファンジブル・トークン)を扱うサービスの研究開発も進められるだろう。メルカリが今まで扱っていないデジタルコンテンツなども、ブロックチェーンを活用することでユーザーに届けることが可能になる。
メルカリはNFTをどう扱っていくか?メルコインの中でも研究開発の一つのテーマに据えて研究していきたい。既存のメルカリだけではやり難いが、ブロックチェーンを使えばさらにメルカリを拡大できる取り組みはあると思っている。
伏見:基盤となるブロックチェーンがあって、その上に暗号資産という事業を運営した経験やノウハウが、必ずNFTを扱う取り組みに効いてくると思う。NFTが今後、メルカリのようなマーケットプレイスを拡張させる可能性は秘めていると思っている。
|インタビュー・文・構成:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑