ロゴはプロジェクトの価値観を表すことができているか? 企業やムーブメントの価値観は?
これはおそらく、どんなロゴにとっても重すぎる課題。そして、このタスクを成し遂げているロゴがあるとすれば、それはビットコインだろう。
派手なシリコンバレー・スタートアップの社内デザインチームが手がけたわけでもないビットコインのロゴは、匿名のプロジェクトの多くの支援者にひとつのイメージを与え続けてきた。そして、それだけではなく、 Tシャツ、ノートPCに貼るステッカー、実際のコインなど、デジタル・プロジェクトに普及の重要な鍵となる物理的な実体を与えてきた。
おそらく最も重要なことは、ビットコインの非公式ロゴの開発をめぐる協力的な取り組みが、世界の他の人々、すなわちビットコインに関わっていない人々との出合いを形作ってきたことだ。
他の一般的な通貨と似たロゴを作ったことによって、ビットコインは新しいお金として視覚的に受け入れられた。そして店のウィンドウに、VISAやマスターカードのステッカーと並べられるよう、入念に作ったことで、ビットコインは同時に、かつ明確に、支払い手段としての地位を確立した。
だがビットコインの現在のロゴは当初のものとかなり違っている。
ビットコインのロゴのストーリーは、ビットコインそれ自体と同じように、進化であり、モデルチェンジであり、コミュニティーの協力であり、そして ── ときに ── 議論の的だった。
2009年1月(あるいは3月?)
ビットコインのロゴの最初のバージョンは、ビットコインを作った謎の人物、サトシ・ナカモト自身がビットコインのローンチ直後に作った。金貨の上に「BC」の文字を乗せたロゴだ。
オリジナルのロゴが作られたのは、多くの人が参加する「Bitcoin Talkフォーラム」が生まれる前だったので、詳しいことはほとんど分かっていない。だが、注目すべきは、金貨の外観を模していて、金属主義を表していること。金属主義は、通貨の価値は金や銀など、素材となっているものの価値に由来するという考え方。多くのビットコイン支持者が賛同する理想の形だ。
Bitcoin Talkでは、ユーザーがオリジナルのロゴを評価したのかどうかを判断することは難しい。あるユーザーは「BC」の代替案として、タイの通貨「バーツ」の記号やアンパサンド(&)などを提案した。バーツの記号とコスタリカの通貨「コスタリカ・コロン」の記号の組み合わせを提案した人もいた。
何人かのユーザーは「T」を加えて、BTCとすることを提案した。BTCは現在、ビットコインのティッカーシンボルとして使われている。
しかし、他のユーザーは標準シンボルを採用する必要は全くないと主張した。
「ビットコインの精神は、他の通貨のような中央集権的な権威や「公式」ポリシーを必要としないこと」とBitcoin Talkのユーザー、ティム・ワイ(Tim Y)は記した。
「自然言語の単語のように、自然な進化に任せるべき」
2010年2月24日
サトシはロゴの実験を続けた。
1年後、彼はロゴのデザインを変更、「BC」をやめ、今や至るところで見られるようになった「B」に縦2本線を加えたロゴにした。
このロゴはBitcoin Talkのユーザーに広く受け入れられた。しかし、新しい「B」はタイのバーツの記号に似すぎていると反対し、混乱を招くのではないかと心配する人もいた。プロフェッショナルな洗練さに欠けると批判する人もいた。
あるユーザーは、「ビットコインが大きくなりすぎて、“ブランド”認知を損なわずに変更できなくなる前に、何か他の案を採用できない理由があるだろうか? 素晴らしいものがあるのに、“OK”なものに固守することは馬鹿げているように思える」記した。
2010年11月1日
どこからともなく、ビットコインの最もよく知られたロゴと作者が現れた。Bitcoin Talkでの最初の投稿で、「bitboy」と名乗った正体不明の人物はビットコインのロゴを固定することに成功した。
だが、彼の謙虚なメッセージからは、その重大さは分からない。
「こんにちわ、皆さん。私が作ったロゴをちょっと見てください。皆さんの役に立つことを願っています」
ロゴは役に立った。オレンジ色のフラットで傾いたロゴは、現在、広く利用され、活用されている。
サトシのオリジナル・コンセプトをbitboyは、読みやすく、拡張性のあるロゴに変えた。単純な金貨のロゴよりも、ブランド力がある。これは意図的なものだったようだ。Bitcoin Talkでのbitboyのコメントは、新しいロゴがマーケティング的なことを念頭に置いて作られたことを示唆している。
しかし逆説的ではあるが、bitboyはビットコインがその座を奪おうとしているいくつかの企業のロゴを参考にしていた。
Bitcoin Talkの他のユーザーが、ロゴのデザインはマスターカードのロゴに似ているとコメントしたとき、bitboyはこう答えた。
「それがインスピレーションのもとになった。私が“マスターカード”と“VISA”をどれほど嫌っているかを表している。消費者の信頼と行動について言えば、認識がすべて(爆)」
新しいロゴがマスターカードのロゴに似ていたことは、ビットコインを支払い手段として確立しようとしただけでなく、それ以後、ビットコインとその開発者にプロジェクトの限界を超えなければならないという新たなプレッシャーを与えた。
またbitboyのデザインの魅力は、ビットコインの商品化にとっても間違いなく重要だった。グーグル検索によると、ビットコイン関連のビジネスは急成長しており、「bitcoin merchandise(ビットコイン商品)」の検索結果は1100万件以上、「bitcoin t-shirt(ビットコインTシャツ)」の検索結果は3400万件以上にのぼる。
2014年4月
だがまだ、全員がビットコインの事実上のロゴを使っていたわけではない。
例えば、bitcoinsymbol.orgを支援する人たちは、何年もの間、ロゴの変更を訴え続けている。実際、彼らはビットコインにはロゴのようなものは不要と考えている。
「これは、企業が製品を販売したり、宣伝することに使うような、ユニークな画像ファイル」とグラフィックデザインスタジオECOGEXが制作したウェブサイトには反対意見が記されている。
「通貨は、誰もが、どこでも使えるよう、$、€、¥のようなシンボル記号で表されている」
そして、彼らは「Ƀ」の採用を支持している。これは、ラテン語とベトナムの複数の言語で使われている記号。
その理由について彼らは、「広く流通している、ピア・ツー・ピアのデジタル通貨として、ビットコインはオープンソースのグラフィック・アイデンティティを必要としている。それはコミュニティーによって、コミュニティーのために、オープンソース・ソフトウエアでデザインされている必要がある」と述べた。
2016年10月31日
多少の議論がなければ、ビットコインとは言えない。
この注目すべき論争は、2016年秋、フィル・ウィルソン(Phil Wilson)、ハンドルネーム「Scronty」が、サトシ・ナカモトは実は3人の人物の総称で、自分はその3人のうちの1人だとレディットで主張したことから始まった。
ウィルソンは、サトシに関連した古い資金を移動させるためのプライベートキーのような、ブロックチェーン・ベースの証拠を持っていない。だが、サトシの2番目のロゴとbitboyのロゴの成立過程について詳細な説明を公開した。
それらは、後にウィルソンが専用ウェブサイトで公開した、ビットコインの初期の歴史に関する長い説明の一部だった。彼の話が詳細だったため、仮想通貨業界の中には、ウィルソンは実際に、ビットコイン・ソフトウエアを開発したチームの一員だったのではないかと考える人もいた。
さらにウィルソンは「シリウス(Sirius)」としても知られる2番目のビットコイン開発者、マルティ・マルミ(Martti Malmi)が2番目の金貨のロゴの制作を手助けしたと述べた。
しかし、マルミはいかなる関与も否定している。その結果、多くの人はウィルソンの主張はビットコインの起源をめぐる神話についての広範なフィクションにすぎないのではないかと考えている。
翻訳:Masaru Yamazaki
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:Bitcoin image via CoinDesk archive
原文:About That Orange B… The History of Bitcoin’s Logos
(編集部より:人物名を訂正し、記事を更新しました)