ツイッター上で「緑色の四角」のマークを目にする人は多いだろう。ビットコイン価格を押し上げようとツイッターで広まった#LaserEyeキャンペーン時の、レーザー光線を発する人の目のミーム(インターネット上で話題となり、拡散した画像などを示す)と同じように、この緑の四角も理念や帰属感を生み出す、内輪だけのシグナルなのだ。
レーザー光線のミームとは異なり、緑の四角は価格に直接関わるものではなく、ビットコインネットワークで提案されているアップグレード「タップルート(Taproot)」への支持を表明するものだ。
なぜタップルートは重要なのだろうか。それはこのアップグレードがもたらす大いなるメリットだけの話にとどまらない。タップルートが重要なのは、ビットコインが何かを私たちに思い出させてくれるからなのだ。
タップルートで向上すること
まずはタップルートがもたらす主要なメリットの一部を見てみよう。
・プライバシーの向上:ビットコインアドレスや匿名性の向上の話ではなく、トランザクションのタイプの話だ。タップルートは、複数の署名を必要としたり、時間差のリリースを伴う複雑なトランザクションを、オンチェーンフットプリントという点ではシンプルなトランザクションと見分けがつかなくする。
・手数料の削減:複雑なビットコイントランザクションのデータサイズが縮小されるため、トランザクションコストが低くなる。
・柔軟性の向上:新しいタイプの署名がビットコインのスマートコントラクト機能を向上させ、ユーザーはより簡単、より安価に、トランザクションに対するより複雑な条件を設定できる。
・ライトニングネットワーク強化:タップルートはライトニングネットワーク上でのトランザクションを一段と安価、柔軟、プライベートなものにする。ライトニングネットワークは、より高速でスケーラブルな支払いを可能にするレイヤー2のソリューションであり、スピードと潜在的スループットを高めつつ、最終的にビットコインにセキュリティをもたらす。
意義あるステップ
上記のようなメリットを伴うタップルートは、2017年のブロックサイズ拡大以来、ビットコインネットワークへの最も重要なアップグレードである。ビットコインのアップグレードが比較的まれであることは、その主要な特徴の1つを浮き彫りにしている。堅固さだ。
ビットコインに修正を加えることは困難だ。どの変更を実行するかを決定できる「責任者」は存在しない。非常に多様で分散した参加者の間でコンセンサスに至るのは、控えめに言っても難しい。タップルートがおおむね全会一致で支持されているということが、このアップグレードの重要性を物語っている。
しかし、議論を引き起こしたのはアップグレードの方法だ。3月、タップルートへの支持を表明するために2週間ごとの期間をマイナーに与える「スピーディー・トライアル」という形で妥協が図られた。
スピーディー・トライアルは、最新の難易度調整と並んで5月1日に開始された。その時点から次の難易度調整(2週間後)までに、ビットコインマイナーたちはマイニングしたブロックの中でタップルートへの支持を表明することができる。処理されたブロックの90%が支持を表明するものとなった場合には、アップグレードは11月の起動に向けて「ロックイン」される。
しかし4日には、今回のラウンドは失敗に終わることが明らかとなった。その日の半ばまでに、2週間分のブロックの約25%が処理されたが、そのうちの20%が支持を表明するものではなかったため、90%という基準を達することは不可能となった。
これは大したことではない。アップグレードへの反対というよりは、必要なステップをまだ理解していないか、そのためのソフトウェアの微調整を完了させていない可能性が高い。支持を表明するための次の2週間の開始が近づいており、それが失敗に終わっても、ネットワークはまた挑戦し、それが8月11日まで繰り返される。その日までに90%の支持表明が達成されない場合には、タップルートは振り出しに戻る。
本当のメリット
タップルートはビットコインの機能性を高め、その市場を広める可能性もある。それはビットコインの将来や評価にとっては良いことだ。
しかし、投資市場全体に対する最も大切な影響は別にある。ビットコインはテクノロジーであるということを、思い起こさせてくれるのだ。
多くの投資家たちはビットコイ(BTC)を、価値の保管手段として捉えている。そのボラティリティに惹かれている人もいる。しかし大半の人は、最も特徴的な点を見過ごしがちだ。ビットコインは比較的新しいテクノロジーであり、それが意味する多くのメリットを伴っているのだ。
金を買う時には、金庫に保管している間にどのように進化するかなどと考えないだろう。一方ビットコインは、確かに進化するのだ。2017年にも進化したし、今年にも再び進化する可能性が高い。
しかし、「テクノロジー」にはリスクもつきまとう。
調子が狂うこともあれば、コードにバグがあったり、意図しない結果がもたらされることもある。だからこそ、ビットコインのアップグレードはまれであることが大切なのだ。アップグレードは慎重に吟味、テストする必要があるからだ。さらに、ビットコインのアップグレードについて決断を下す中央組織が存在しないため、すべての主要の利害関係者が合意する必要があり、コンセンサスの達成は常に極めて困難だ。
しかし、これは良いことでもある。ビットコインネットワークには現在、1兆ドルを超える市場価値が乗っかっており、さらにはネットワークをサポートするために築かれたあらゆるビジネスの評価額は言うまでもない。だから、リスクはほぼ無視できるような水準まで最小化する必要がある。
ビットコインは素晴らしい価値の保管手段かもしれず、投機家に優れた利益をもたらすかもしれないが、変革を起こすようなテクノロジー投資に早めに参加するチャンスも象徴しているということを、タップルートは痛感させてくれる。話題のスタートアップに早めに投資するのと似ているが、流動性はずっと高く、手続きに必要な書類は少ない。
タップルートはビットコインの使い勝手を向上させ、結果としてその市場を広げ、結果としてその価値も高める可能性がある。それだけではなく、最近支配的となっている市場主導のナラティブの中でかき消されてしまった、ビットコインの核心的な特徴の1つも思い起こさせてくれる。
ビットコインはいまだに新しいテクノロジーであり、その潜在的メリットはその供給スケジュール、耐インフレ性、分散化以上のものなのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Why Bitcoin’s Taproot Upgrade Matters