米デジタル資産運用のギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)を経営するマイク・ノボグラッツ氏によれば、ビットコインは高価すぎるという。多くの人は1ビットコイン(BTC)の値段の高さから近寄ることができない。資金の少ない人たちを惹きつけるために、取引所はサトシ(ビットコインの最小単位である0.00000001BTC)建てで価格を表示するべきだろう。
It is time to switch to Satoshis. Too many people telling me at $58,000 $BTC too expensive. Which exchange will be first to quote in SATS? @cz_binance @brian_armstrong @SBF_Alameda @tyler
— Mike Novogratz (@novogratz) 2021年5月8日
サトシに切り替える時だ。5万8000ドルのBTCは高過ぎると言っている人があまりにも多い。サトシ建てで最初に取引を開始するのはどの取引所になるだろうか?@cz_binance @brian_armstrong @SBF_Alameda @tyler
サトシはビットコインにとってのセントのようなものだが、もっと小さい単位だ。1ドルが100セントなのに対して、1ビットコインは1億サトシである。これは、ビットコインシステムの元々のコードに定義されている。
ビットコインが生まれてまもなく、数セントしか価値がなかった頃には、誰もサトシを気にすることはなかった。しかし、ビットコインが5万8000ドルで取引されるようになったいまや、1ビットコインをまるまる買える人はそう多くはない。
ビットコインは富裕層向け?
ビットコインはボラティリティが高いことで有名だ。資金力があったとしても、投資の大半を失う可能性があるのに、1ビットコインをまるまる買いたくないという人もいるだろう。
価値の保管手段としてのビットコインの成功は、もろ刃の剣だ。初期の頃に投資した人には利益をもたらしたが、その過程で投資への新規参入の障壁は大いに高まり、より若くてより資金力に乏しい傾向のある遅れてきた参入者たちにとっては、買うのがますます難しくなっている。ビットコインは不動産と同じように、より年齢層が高く、よりリッチな人たちのための高利回り資産となり始めている。
しかし、不動産とは違って、1ビットコインをまるまる買う必要はない。1ビットコインの一部を買う傾向はますます強まっており、それはサトシで表すことができる。「サトシを買い集める(資産を築くために定期的に小口の投資を行うこと)」人たちはすでに、ビットコイン単位ではなく、サトシ単位で話をしている。0.02ビットコインを買うのではなく、200万サトシを買う。今日は何サトシ買った?という具合だ。
預金手段としてのサトシ
そのため、勘定単位としてサトシに切り替えることを検討するには十分な理由がある。ビットコインではなくサトシ建てで取引を行えば、あまりたくさんの資金がない人にも、ビットコインはその値段の高さにも関わらず、手の届くものだと安心してもらえる。銀行の預金口座よりも安全で利回りの高い場所に自らの資金を置いておきたいと考える普通の人たちにとって、サトシが預金手段となり得るのだ。
そこで、皆が少しずつ持てるほど十分なサトシは存在するのだろうか?理論的にはイエスだ。世界の人口は80億を少し下回るほど。1850万ビットコインがすでにマイニングされており、理論的には1兆8500億サトシが存在する事になる。つまり地球上すべての人が、それぞれ約23万1000サトシ持てる計算だ。これなら、皆が確かにサトシで預金できる。
もちろん、実際はそんなにシンプルではない。これまでにマイニングされた1億8500万のうち、20%は失われたか、それ以外の理由で回収不能と推計され、さらに1000万ほどは取引されたことがない。つまり、購入できるビットコインは約4200万しかない。では、実際に購入可能なビットコインの数を使って計算し直してみよう。1兆8500億サトシではなく、4000億サトシしか購入可能なものはない。そうなると、1人につき約50サトシだ。
ビットコインを分割する
ここに、再分割の限界が絡んでくる。何かをとても小さな単位へと分割できるからといって、そうすることが実用的とは限らない。ピザは原子レベルまで分割できるかもしれないが、だからと言って世界の飢餓は解消されない。生きるには一定量の食料が必要だからだ。
同様に、どれほどビットコインを分割できるかにも実際的な限界がある。1人につき50サトシでは、世界のすべての人がサトシで預金するには十分ではない。少額預金者の間でサトシが平等に分配されることもないだろう。現実的には、より多くの資金を持つ人がより多くのサトシを買い、それが値を吊り上げ、投資する資金が最も少ない人たちには高過ぎて手が出なくなる。つまりサトシは、普通の人にとって唯一の預金手段とはなれないのだ。
他にも限界がある。こちらはサトシの供給面での限界よりもずっとはやくその影響が出てくる。取引手数料だ。
ビットコインに対する需要が高まるにつれ、ネットワーク上のトラフィックも増加し、それが平均取引手数料を吊り上げる。少量のビットコインを売買する人たちや、そのために高い手数料を支払いたくない人たちは、取引が決済されるまでより長く待たなければならない。
取引手数料が高くなれば、実質的には少額の取引が市場から締め出されることになる。あまり資金に余裕のない人たちにとっては、ビットコイン投資への大きな障害となり得る。
「ダスト」と化すビットコイン
非常に小口の投資家にとっては、取引手数料はすでに障壁となっている。1ビットコイン=約5万8000ドルという現在の価格では、50サトシは3セント未満だ。ビットコインの取引手数料の平均は現在、約22ドルであり、60ドルほどだったこともある。
つまり、50サトシの購入は割りに合わない非常に高価な投資ということになる。さらに、50サトシ程度の非常に少ないビットコインは、売ることができない。保有者は取引手数料を支払うのに十分なビットコインを持っていないからだ。そのような少量のビットコインは「ダスト」と呼ばれる。平均取引手数料が高くなればなるほど、ビットコインエコシステムにはより多くのダストが溜まっていく。
小口取引をオフチェーンへと移動することで「ダスト」問題を解決しようとするのがレイヤー2ソリューションだ。しかし、普通の人たちの預金や取引には、お金持ちのものと同じ匿名性、セキュリティー、変更不可能性が必要ない理由が私には理解できない。損失があまり痛手にならない大口投資家の財産ではなく、お金を失う余裕のない普通の人たちの財産を保護するべきだろう。
このような再分割の限界は、ビットコインの性質に関する核心的な疑問を提起する。ビットコインコミュニティーは、ビットコインに何を望んでいるのか?過去の金本位制のように、新しい国際決済システムを支える準備資産となって欲しいのか?普通の人が好む安全な預金手段となって欲しいのか?
解消されないジレンマ
これは結局のところ、ビットコインコミュニティーが2015年〜2017年にかけて直面した「ブロックサイズ戦争」と同じジレンマだ。当時議論は、ビットコインは世界の取引を引き受けるべきか、単に新世代の取引システムを支えるベースレイヤーとなるべきかをめぐるものであった。
ベースレイヤーとなることを望んだ人たちが勝利を収めたが、根本的なジレンマは解消されなかった。それが、ビットコインは世界の預金を引き受けるべきかという議論の形で、再び姿を現したのだ。
サトシへの分割は、当面の間このジレンマを解消してくれるだろう。しかし、ビットコインが「ブロックサイズ戦争」の結果敷かれた道を進み続けるのだとしたら、ゆくゆくは取引手数料が高くなり過ぎて、普通の人がサトシで有意義に預金することはできなくなる。
ビットコインには取引だけでなく、預金のためにもレイヤー2ソリューションが必要なのだ。お金を失う余裕のない人たちが必要とするセキュリティーを提供できる新しい商品が。
暗号資産の世界は、極めてクリエイティブで革新的な場だ。このジレンマに対する解決策が見つかると私は確信している。それが貧しい人たちのことを第一に考えたものとなることを願うばかりだ。
フランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏は、銀行、金融、経済をテーマにしている。著書の『The Case for People’s Quantitative Easing』では、現代のお金の創出と量的緩和の機能を説明し、景気回復のための「ヘリコプターマネー」を提唱している。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Why Bitcoin Should Be Priced in Sats (and Why It Has a Divisibility Dilemma)