ブロックチェーン関連の開発・コンサル等を行うBUIDLは30日、取引所向けにアドレス追跡ソフトを開発したと発表した。仮想通貨を利用したマネーロンダリング対策が議論される中、日本企業が対策ソフトを開発するのは初めてという。
「SHIEDL」と名づけられたこのソフトは、トランザクションの流れや匿名化技術の利用状況などを分析することで、任意のアドレス(仮想通貨の送受信に用いる口座)のリスクスコアを算出する。入出金時のみではなく、継続的に関連アドレスを監視する。現在BTC(ビットコイン)、ETH(イーサリアム)、XRP(リップル)の3通貨に対応しており、他の通貨にも対応する予定だ。今回、事前登録の受け付けを開始する。
仮想通貨におけるマネロンやテロ資金への対策は、世界的に重要な課題となっている。国連安全保障理事会の専門家パネルは3月、北朝鮮のハッカー集団が仮想通貨取引所にサイバー攻撃を仕掛け、数百億円の資産を盗み出した可能性を示唆する報告書をまとめた。仮想通貨を狙ったサイバー攻撃で得られた資金が、複数回にわたり洗浄された可能性があると報告書は述べる。
仮想通貨のマネロンやテロ資金対策は、G20財務大臣・中央銀行総裁会議でも最重要事項の一つに挙がっているほか、6月には政府間会合のFATF(金融活動作業部会)が仮想通貨取引所(仮想通貨交換業者)を含む仮想通貨サービス提供業者に対する規制を発表する見込みだ。2月に公開された草案は、同提供業者に対してマネロンやテロ資金対策を強く求めるものだった。
BUIDL・バイスプレジデントの宇野雅晴氏は、「仮想通貨領域は、悪意のある組織によるハッキングなどの事故により悪いイメージがぬぐいきれない。今回のアドレストラッキングツールを使えば、不審な取引を検知できる」と述べ、業界の信頼性向上の一助になるとの見方を示した。
同社リサーチャーの橋本欣典氏は、「国外にも同様のサービスがあるが、①リスクの低いアドレスも分析してマーケティングに利用できる②日本の規制に合わせたものになっている」と同ソフトの特徴を強調した。
匿名化技術の進展
今後、ビットコインやイーサリアムには、トランザクションを匿名化する技術が実装されるとみられる。利用者はプライバシーを保護した形で、仮想通貨の送受信をできるようになる。
ただし分散型金融技術の進展は、利用者の利便性を向上させる一方で、マネロンなど反社会的な勢力による悪用も懸念される。橋本氏は「大半の日本人が匿名化技術を用いる状況は現実的ではない」と述べ、以下のように強調した。
「トランザクションを匿名化していても、匿名化技術を使っていることは判別可能だ。そのトランザクションに『匿名化する意図がある』ということは読み取れる。見ようとする努力を続けることが必要だ。どこまで技術的に可能なのかという問題に向き合う必要がある」
「技術で解決できることは技術で解決するべきだ」(宇野氏)としながら、一方で規制は無視できない。多様な利害関係者の協働が求められる。
BUIDLは、ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインとOmise創業者の長谷川潤氏が株式の50%ずつを出資して2018年に設立された。
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文:小西雄志
編集:浦上早苗、佐藤茂
写真:発表資料より
(編集部より:BUIDL設立時の株主構成を訂正し、記事を更新しました)