中国での暗号資産に対する新たな警告は、過去の通告と同様に思われるかもしれないが、暗号資産関連企業にフレンドリーな態度を示してきた商業銀行や決済企業に対しては、とりわけ厳しいメッセージを発している。
中国銀行業協会、中国インターネット金融協会、そして中国支付清算は5月18日、所属する金融機関は暗号資産関連の取引や投資ファンドに関わるサービスを提供するべきではないとする通告を発した。このニュースは19日、暗号資産市場全体で1兆ドル近くが失われる中、暗号資産の売却を後押しする一因となったようだ。
「通告はおおむね、過去のものと同じように見えるが、とりわけ中国の銀行や決済企業にとっては、より明白な警告となった」と、北京豊台区の元弁護士で、グローバル・ブロックチェーン・コンプライアンス・ユニオン(Global Blockchain Compliance Union)のチーフコンサルタント、タオ・ルオ(Tao Luo)氏は説明した。
2013年に始まった中国の暗号資産規制
中国の中央銀行は早くも2017年には、金融機関や決済企業が暗号資産やICO(新規コイン公開)に関連するサービスを提供することを正式に禁止した。しかし、一部の銀行のコンプライアンス要件の緩さから、主要暗号資産取引プラットフォームの中にははいまだに取引を処理できているところもあると、ルオ氏は指摘。
今回の通告により、中国の金融機関はより厳格なコンプライアンス要件を導入したり、少なくとも短期的には、暗号資産トレーダーに提供する基本的なバンキングサービスをさらに制限する可能性もあると、ルオ氏は見ている。
この通告は、禁止されるバンキングサービスを具体的に明示することによって、より明白に銀行を標的としているようだ。今回の通告に含まれていた一部のサービス、例えば法定通貨での暗号資産の購入や暗号資産ファンドの組成などは、金融機関による暗号資産および新規コイン公開(ICO)関連のあらゆる取引、清算、決済、保証を禁じた2017年の禁止には含まれていなかった。
中国における最初の暗号資産関連の禁止は、2013年にまでさかのぼる。金融機関によるビットコイン(BTC)関連のサービス提供を禁止するものであった。
「規制は厳しくなっているようだ」と、中国に数百万ドル規模の複数の暗号資産ファンドを抱える、米暗号資産投資企業の幹部を務める北京在住の人物は語った。「利用できるサービス提供業者の数は減少した」と指摘するこの人物は、中国では一部違法となっているOTC(相対取引)の機密性を理由に、匿名での取材を希望した。
警告の発信源
「時には、メッセージの発信者はメッセージそのものと同じくらい重要だ」と、ルオ氏。今回の警告を発した3つの協会は、中国のバンキングとオンライン決済サービスを監視する中国の中央銀行に当たる中国人民銀行を除けば、最重要の監視機関である。
これら3つの協会に所属する機関は、主要な国営商業銀行から、アリペイ(AliPay)やウィーチャットペイ(WeChat Pay)などの決済大手まで多岐にわたる。
「通告がこれらの『準公的』協会によって発せられたという事実が、規制当局は銀行に注意喚起したいと考えているだけという可能性を示唆している」と、韓国の暗号資産ベンチャーキャピタル、ブロックウォーター・キャピタル(BlockWater Capital)でパートナーを務めるアリエス・ワン(Aries Wang)氏は話す。「中央銀行からのものであれば、より深刻な影響があるだろう」
2013年と2017年の禁止令を発したのは、中国人民銀行と中国証券監督管理委員会(China Securities Regulatory Commission)、中華人民共和国工業情報化部を含むその他の政府機関だった。
中国の金融規制当局は、不動産やアメリカの株式など、他の資産クラスへの投資を制限する上でも同様のアプローチをとってきたとルオ氏は説明する。
中国のバンキングシステムは暗号資産に関連するいかなるサービスも公式には提供できないことになっている。一部の中国の銀行は、マネーロンダリングに関与していない限り、暗号資産取引企業が個人の銀行口座を利用して取引事業向けの現金を預け入れることを許可している。一方で、暗号資産関連企業と取引をしていると知らずにサービスを提供する金融機関もあるとワン氏は指摘。
OTCデスクが取り締り強化の発端か
多くの暗号資産取引企業にはOTC(相対取引)デスクがあるが、中国人トレーダーにとっては、そこが暗号資産の売買の主要な場である。
OTC取引サービスは、中国人投資家が暗号資産市場に参入するための2つの主要な方法の1つだ。投資家は、法定通貨を使って暗号資産を購入したり、保有する暗号資産を換金できるコインベースなどの海外の取引所でアカウントを開設することもできる。
しかし、多くの中国人投資家は、取引所のコンプライアンス要件を理由に、海外に行ってそのようなアカウントを開設することはできない。そのために、中国人トレーダーにとっては、OTCの方がより一般的な取引プラットフォームになっているのだ。
「中国の規制当局が、暗号資産企業に関連する銀行口座を完全に閉鎖したら、OTCデスクなど、中国での取引に対する影響は壊滅的だろう」とワン氏は語り、実際に規制当局がそのようなすべての取引を禁止することはおそらく不可能だと付け加えた。
マネロン疑惑
暗号資産取引に対する取り締まり強化の一因は、OTC取引デスクがマネーロンダリングに関与している可能性が疑われているのかもしれない。
今回の通告が発せられたのは、電気通信詐欺の増加を原因とした、バンキングシステムにおけるマネーロンダリングの増加を中国が全国的に取り締まっている最中であった。
何万にも及ぶ自分たちの銀行口座が中国の警察によって閉鎖されたため、一部の詐欺師たちは、暗号資産OTC取引デスクを利用する傾向にあるのだ。著名な中国人OTCトレーダーのジャオ・ドン(Zhao Dong)氏は昨年以降、マネーロンダリング関与の疑いで警察に身柄を拘束されている。
今回の通告を促したもう1つの理由は、暗号資産市場の過熱かもしれない。
通告では、暗号資産市場の極めて高いボラティリティが、中国の金融安定性や国民の資産への著しい脅威と形容されている。「暗号資産でますます劇的な値動きが見られる中、より頻繁に取引やマーケティングが行われている」と、通告は指摘。
ドージコイン(DOGE)をまねたSHIBコインのアメリカでの成功を受けて、中国でも多くのミームコインが発行されている。現在市場には、DOGEから派生した新しいコインが60以上も存在する。一般的な暗号資産投資家が参加するには複雑過ぎると言われる分散型金融(DeFi)とは異なり、ミームコインは小規模取引所で簡単に取引可能だとワン氏は指摘した。
今後の中国市場の行方
今回の取り締り強化を考慮しても、中国の暗号資産市場は今後、長期的には持続可能と言えるだろう。
暗号資産ヘッジファンド、トレード・ターミナル(Trade Terminal)のCOO、リンシャオ・ヤン(Lingxiao Yang)氏は、「トレーダーたちはおそらく、短期的な向かい風に直面する」とした上で、「以前にも何度も取り締まりの波を経験しており、今回も過ぎ去るのを待つことになるだろう」
中国においては、暗号資産取引は法律上曖昧な分野だ。同国の暗号資産市場が過熱したり、深刻なコンプライアンスの問題が浮上すると、規制当局は取り締まりを強化する傾向にある。
中国の暗号資産コミュニティーはここ10年、2013年と2017年の2度にわたる大規模な取り締まりを経験している。それでも中国から暗号資産取引が無くなることはなかった。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Beijing’s Crypto Crackdown Is Not New but Don’t Dismiss It