企業がその価値を上げてグローバル市場で勝ち抜くためには、自らをデジタルに変身させることは不可欠だ。成長を速める世界のトップ企業の多くは、新たに生まれたテクノロジーを巧みに使ったデジタルトランスフォーメーションを進めている。
一方、多くの日本企業は確立された技術の検証や議論に明け暮れ、世界の潮流から取り残されるリスクに瀕していると、世界4大会計事務所の1社であるデロイトトーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)は、5月に発表した報告書の中で警鐘を鳴らす。
デロイトは報告書「Tech Trends 2019」で、これまでの技術革新の根幹を形成してきた9つのテクノロジーは今後さらに進化を続け、その技術を組み合わせることでそれぞれをさらに変革させる可能性があると強調する。米国ではこの技術を複合的に活用して、企業の価値向上に挑む企業は少なくないという。
今の日本企業はどの位置にいるのか?
デロイト執行役員・パートナーの安井望氏は、同氏が目にする多くの日本企業は、およそ1年前よりもさらにグローバルとの差が開いていると、報告書の中でコメントしている。ブロックチェーンを例にとると、日本ではその技術検証や活用目的の模索が続いているのに対して、海外ではブロックチェーンが基礎技術として活用されており、その技術に対する議論は皆無になっていると話す。
9つのテクノロジー
デロイトは、9つの強い力を持つ技術トレンドを「テクノロジーマクロフォース」と呼んでいる。
クラウド、アナリティクス、デジタルエクスペリエンス(ウエブ、ソーシャル、モバイルをマーケティングやセールス目的に制限せず、従業員やサプライヤーなどとのあらゆる取引や処理をデジタルに支える意味)の3つは、過去10年にわたりビジネスモデルや市場に影響を与えた。
ブロックチェーン、デジタルリアリティ(拡張現実のAR、仮想現実のVR、モノのインターネットのIoTなど)、コグニティブ(機械学習や自然言語処理、広い意味での人工知能テクノロジー)は大きい影響力を示している。
企業が現状のビジネスを続けながら、イノベーション活用することを可能にするテクノロジートレンドとして、「コアモダナイゼーション(Core Modernization)」、「ビジネスオブテクノロジー(Business of Technology)」、「セキュリティ」の3つが報告書の中で挙げられている。
コアモダナイゼーションとは、旧型のシステムに多大な投資を行う企業がいかにそのシステムをイノベーションの基盤として、より高い価値を引き出すことができるかを解き明かすことだと、デロイトは説明する。
ビジネスオブテクノロジーは、企業がテクノロジーと戦略を融合させ、IT組織を再編・再定義し、コスト効率良く生き残る考え方を示す。また、サイバー攻撃の脅威が増大する中、サイバーセキュリティーは企業全体で取り組まなければならないテーマだ。
先を行く小売りの巨人ウォルマート
デロイトは、このテクノロジーマクロフォースを取り込み続けている企業として世界最大級の小売り企業、ウォルマート(Walmart)を挙げる。
ウォルマートは基幹システムを刷新し、サプライチェーンや商品企画、店舗システム、POSシステム、eコマースとさまざまな分野での効率化と迅速化を行い、デロイトが言うコアモダナイゼーションを実現させたきたという。
また、ウォルマートは2017年にVRを使った店舗スタッフ教育を始めると、翌年にはその実績数を2倍に伸ばしたと、報告書は述べる。モバイルを活用して、店舗スタッフに顧客データや分析情報を与え、サービスを向上させる一方で、在庫、購買、販売、セキュリティー管理機能を上げるため、クラウドも自前で構築している。
日本で長く続く技術検証と活用方法の模索は「多くの日本企業において、既に海外で確立された技術・活用方法をうまく取り入れ、デジタルトランスフォーメーションを加速させるアプローチが取られていないことの弊害と言えるだろう」と安井氏。「スピードが求められるデジタル時代で、昔ながらの自前主義を貫き、同業他社の動向を気にする多くの日本企業にとって、変革の時が来ていることを感じ取ってもらいたい」
文:佐藤茂
編集:浦上早苗
写真:Shutterstock