S&P500種株価指数のインフレ調整後リターンがマイナスに転じ、投資家が高利回りの投資先を探し求める動きが強まる可能性がある。短期的には、ビットコイン(BTC)の展望は明るくないのかもしれない。
投資メディアのバロンズ(Barron’s)によると、S&P500に投資した資金に対するインフレ調整後の利益、実質リターンは5月初旬にマイナスに転じ、先週にはマイナス0.81%となった。
「株式市場における実質リターンがマイナスとなったことを受け、代替投資となるターゲットを探す動きが加速するかもしれない」と、バイトツリー・アセット・マネジメント(ByteTree Asset Management)最高投資責任者のチャーリー・モリス(Charlie Morris)氏は話す。「ビットコインは必ずしも好位置にあるとは言えないだろう」
S&P500の失速
一部の暗号資産アナリストらは、ビットコインをインフレヘッジとして売り込んできた。マイニング報酬の半減期を通じて、4年ごとに供給拡大のペースが半分に減少するからだ。
ビットコインは2020年10月から2021年3月にかけて、6倍近い値上がりを記録。マイナス利回り債券が世界中で増え続け、投資家がリスクの高い資産クラスへと突き動かされる中、ビットコインは各種従来型資産をはるかにしのぐパフォーマンスを見せてきた。
大手アメリカ企業株から成るS&P500インデックスが、インフレ調整後の実質ベースでマイナス益回りを出す中、理論的には、さらに多くの資金が暗号資産市場に流れ込み、ビットコインを史上最高値まで押し上げることが期待されるかもしれない。
しかし、大きな利益はしばらくの間は手に入り難いのかもしれない。ビットコインの市場センチメントはここ数週間、暗号資産のマイニングによる環境負荷への注目の高まりと、中国における取り締まり強化のために、弱まっている。
「ビットコインは、規制に関する懸念に苦しんでいる」とモリス氏。陰気なムードはオンチェーンアクティビティにも反映されていると続けた。
量的緩和の段階的解除
FRB(米連邦準備制度理事会)が、インフレ抑制のために量的緩和政策をまもなく緩めるだろうとの懸念から、投資家はビットコインに投資することを躊躇する可能性がある。先月公開されたFRBの4月会合議事録では、FRBが金融市場に流動性を注入するための1200億ドル(月間)の国債購入を徐々に減らしていくことを検討し始めていることが判明した。
議事録によると、「参加者の多くが、経済がFRBの目標に向けて急速に前進を続けた場合、この先の会合のどこかで、国債購入のペース調整のための計画を議論し始めるのが適切かもしれないと提案した」
データサイト、メッサーリ(Messari)のアナリスト、ミラ・クリスタント(Mira Christato)氏は、量的緩和を徐々に解除することは、ビットコインにとってリスクだと語る。
「法定通貨を中心とする機関投資家は、ビットコインをリスクが最高に高い投資と考えている」と、クリスタント氏は最近の記事で述べている。「ビットコインは、量的緩和、無責任な財政・金融政策の状況の中で上手く機能し、量的引き締めは好まない」
クリスタント氏は、FRBが近いうちに量的緩和を止めるとは考えていないが、徐々に解除されることへの懸念は、しばらくの間続くと見込んでいる。
「暗号資産投資家は、これからのデータに特に注意を払う必要がある。暗号資産という新しい資産クラスへの投資は、素早い利益目当てのものが多く、強気でも弱気でも、過剰に反応する傾向がある」と、クリスタント氏は指摘した。
S&P500とビットコインの相関
マイナスの益回りが、評価が過剰に引き伸ばされていることを示唆する中、株式市場では、引き戻しの機が熟し切っているように見えるかもしれない。ビットコインは時に株式と並んで取引されるため、それが下方リスクを生む可能性もある。
ロベコ・マルチアセット(Robeco Multi-Asset)ファンドのポートフォリオマネージャー、イェルーン・ブロックランド(Jeroen Blokland)氏が提供したデータに基づいて、過去を振り返ると、マイナスの実質益回りは、株式市場での修正に道を開いてきた。
株式市場におけるリスクオフ・ムードの可能性が、ビットコインに直ちに弱気の影響を与える可能性もある。これは、ビットコインは金(ゴールド)のような安全な避難先資産であり、緊張状態の時に好まれる資産でもあるという、人気のナラティブには反するものだ。
「ビットコインは時に『デジタルゴールド』と呼ばれるが、金は安全な避難先の静かな資産であるのに対し、ビットコインはリスクオンの成長資産である」と、メッサーリのクリスタント氏は指摘した。
ゴールドマン・サックスのコモディティ担当責任者、ジェフ・カリー(Jeff Currie)氏も1日、米テレビ局CNBCとのインタビューで同様の意見を述べた。「デジタル通貨は金の代わりにはならない。もし何かの代わりになるとしたら、銅だ。プロリスクのリスクオン資産である」
「リスクオフのインフレヘッジではなく、リスクオンのインフレヘッジに代わるものだ」とカリー氏は続けた。
ビットコインは2020年3月、急激に値下がりし、2021年4月末まではS&P500とほぼ歩調を合わせて動いていた。先月、環境面での懸念からビットコインが値下がりし、上昇を続ける株式市場とは別の道をたどっている。
ビットコインは短期的に厳しい時期を経験するかもしれないが、最終的には回復すると、モリス氏は自信を持っている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Analysts Seek Alternatives to Low-Return S&P 500, but Is Bitcoin the Place to Be?