イーサリアム(ETH)は5月に最大64%のプラスと35%のマイナスを経験したが、終わってみれば3%のマイナスで取引を終えた。ビットコイン(BTC)が35%下落した大荒れ相場を、イーサリアムはほぼ無傷で乗り越えたことになる。
イーサリアムの大口投資家であるいわゆる「クジラ」の数も過去最高水準で高止まりしており、今後もイーサリアム相場を支える展開が続きそうだ。
イーサリアムは5月12日に過去最高となる4380ドルを記録。資金がビットコインからアルトコインに移動する、いわゆる「アルトコインの季節」の波に乗り、ビットコイン建てでは3年ぶりの高値となる0.0824をつけた。
米金融界から支持するコメント
5月は、米金融機関や投資家がイーサリアムする支持の発言が目立った。
米投資銀行のゴールドマンサックスが「有効な価値保存手段としてビットコインを追い抜く可能性が高い」と発言すれば、グッゲンハイム・パートナーズの共同創業者は、ビットコインより「高い実用性」があると話した。
米著名投資家で、NBA(全米プロバスケットボール)のダラス・マーベリックスを所有するマーク・キューバン氏は、「取引数と取引の種類の多様性に加えて、ETHの開発努力には勢いがあり、BTCを圧倒している。ETHの実用性の方がはるかに高い」と述べた。
実際、5月末時点で前月より30%多い520万ETHがステーキングされた。イーサリアムは「イーサリアム2.0」と呼ばれる大型アップグレードを進めており、その目玉となるのがPoS(プルーフ・オブ・ステーク)の採用だ。投資家は一定のイーサリアムを保有することで、ブロック生成プロセスに参加し、報酬を得る(ステーキングする)ことができるようになる。
一方、イーサリアムをはじめとするアルトコインの勢いに押され、5月にビットコインの仮想通貨全体の時価総額に占める割合(ドミナンス)は、一時3年ぶりの低水準となる40%まで下落した。
急増する“クジラ”
イーサリアムの保有数ごとにアドレスを分けてみると、1万ETH以上を保有する「クジラ」のアドレス数(赤)が急増したことが観察できる。過去最高となる1204アドレスを記録した後、月末にかけて若干減少したが、最高水準を保っている。
一方、10〜1万ETHを保有するアドレス(青、緑、水色)はすべて減少傾向にある。大口投資家がイーサリアムの可能性をより高く評価していると言える。
テクニカル的にも堅調
イーサリアムの歴史的な価格推移を対数回帰で分析し、レジスタンスとサポートを測る指標「イーサリアム対数回帰レインボー」を見てみると、イーサリアムの5月の最低価格1732ドルがBand4(1700ドル)と一致していることが分かる。かつてのレジスタンスがサポートとして機能した典型的なパターンだ。
例えば、もし2018年1月につけた過去最高値に沿った対数回帰の線(Band8)を辿ると、今回のサイクルの天井は1万6473ドル付近になることが分かる。
この勢いで仮にBand5(2900ドル)を上向ければ、次はBand6(5400ドル)が見えてくる。5月の取引終了の価格である2705ドルから、100%近い上昇になる。5月にイーサリアムのドミナンスは一時3年ぶりの高水準となる21%まで上昇した。2月から続く上昇基調の中で、機関投資家による期待が追い風が吹き続けば、さらなるシェア獲得につながるかもしれない。
千野剛司:クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)– 代表慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社。2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。
※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。
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