JPモルガン:JPMコインは金融をどう変える?【インタビュー】

米銀最大手のJPモルガン・チェースが、独自デジタルトークンの構想で見出しを飾ってから2年。世界的なメガバンクは、デジタル通貨が秘める大きな可能性の1つを実現させようとしている。プログラミングが可能という強みだ。

昨年10月に正式にスタートした「JPMコイン」は今のところ、JPモルガンの企業顧客が米ドル預金口座をブロックチェーン上に持っているようなものだと、JPモルガンの子会社オニキス(Onyx)で一連のアプリケーション責任者を務めるウマル・ファルーク(Umar Farooq)氏は語った。

当然、企業顧客間のお金の移動は24時間365日、いつでも可能となる。最近では暗号資産の強気市場にかすんでいるが、JPMコインは400の銀行が参加する決済ネットワーク「Liink」と連動し、JPモルガンの顧客ベース全体で(レポ取引における)証券決済などを支えている。

ファルーク氏によれば、これは始まりに過ぎない。ドルにペグされたステーブルコイン、ひいては暗号資産全般を真似てそれらと競い合うことは、最初からJPMコインの狙いではなかった(ちなみにJPMコインは、個人投資家には利用できず、暗号資産取引所での取引もできない)

「JPMコインのプログラミング可能性に向けて着手している」と、ファルーク氏はインタビューで語った。

「お金が顧客のためにできること、条件付きの支払いや、税金の査定などを実際にプログラミングすることだ。それらはすべて、ルールに基づいたものであり、過去には、JPモルガンなどの銀行に特定の指示を送らなければならなかった。私たちはこれらのことを、顧客がプログラミングできるようにして、実際にお金に何をするか指示できるようにしていきたいと考えている」

JPモルガンが5年前、様々なブロックチェーンプロジェクトをイーサリアム(カスタムメイドのバージョンではあるが)上で開発したことも、このような狙いを理解すれば腑に落ちるだろう。

ネイティブトークン、イーサ(ETH)の時価総額は業界トップ2となっているイーサリアムは、複雑な「この条件ならば、それ」といったプログラム(スマートコントラクトと呼ばれる)を可能にするために特別に作られた。一方、デジタルキャッシュをAからBへ動かすという、シンプルなタスクのために作られたビットコイン上では、複雑なスマートコントラクトの実行は困難である。

「イーサリアムとそれ以外のオプションを比較した時に、スマートコントラクトの機能に非常に惹かれた」とファルーク氏は言う。「イーサリアムのプラットフォーム上では、1次元的な価値の移動だけにとどまらない、より多くのことができるという点だ」

DeFiを注視する世界のメガバンク

イーサリアムには、ブロックチェーン界で最大の開発者エコシステムに適したサポートも伴っている。急速に拡大するパブリック暗号資産の分野に関しては、JPモルガンのような銀行にも、門戸を開いたままにしている。

イーサリアムをめぐる最近の大きな話題は、分散型金融(DeFi)と呼ばれる、管理者不在の匿名での取引や貸付の場だ。

オランダにあるINGなどの銀行がすでに、この新しいパラダイムから学べることを検討するなど、金融機関はゆっくりだが確実に、DeFiといった分野へと向かう取り組みを進めている。

JPモルガンにとっては幸運なことに、イーサリアムテクノロジーの許可型バージョン「Quorum」のおかげで、パブリックブロックチェーン分野のイノベーションに関してJPモルガンは、ファルーク氏が呼ぶところの「最前列」に位置している。

「DeFiの進化を注視している」とファルーク氏は語る。

「現在はパブリック暗号資産の分野にかなり入り込んでいるが、ブロックチェーンに他の資産が流れてくるようになれば、DeFiには明らかに将来性がある。許可型となるか、完全にパブリックなものになるか、それはこれから見えてくるだろう」とファルーク氏。

DeFiの魅力と並んで、イーサリアムのようなネットワーク上に、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)が登場することによって生まれる可能性に注目している銀行もあると言われる。マイニング機器などに投資し、トランザクションを検証することで報酬を獲得するビットコインのマイニングプロセスに代わる、エネルギー効率性の高いシステムがPoSだ。

「ETH2.0のステーキングは、非常に興味深い展開になるだろう」とファルーク氏は述べる。「イーサリアムのエコシステムに関わるための、より多くの扉が開かれるかもしれない」

米コンセンシス社との関係

JPモルガンとイーサリアムの間の揺るぎなく「熱烈な関係」という見方、ファルーク氏は否定する。しかし、JPモルガンのQuorumエンジニアリング担当責任者、サメール・ファラ(Samer Falah)氏などによるものなど、イーサリアムへのサポートは非常に初期の頃から存在していたことを認めた。

確かに、JPモルガンとイーサリアムの関係は長く、変化を伴うものであった。2017年のエンタープライズ・イーサリアム・アライアンス(Enterprise Ethereum Alliance)の結成で正式なものとなったそのつながりは、JPモルガンが昨年、Quorumの日々の運営を、イーサリアムの共同創業者ジョセフ・ルービン(Joseph Lubin)氏が指揮を執るニューヨークのソフトウェア企業、コンセンシスへと引き渡したことで強化された。JPモルガンは、コンセンシスの6500万ドルの資金調達ラウンドも主導した。

「私たちはジョー(ルービン氏)のことを長く知っている」とファルーク氏。「だから私たちの考えは、コンセンシスの一部とすれば、進化という点でイーサリアムと私たちが近くに居続けることができ、最前列のような位置にいられるというものだった」

JPモルガンはソフトウェア企業ではないため、Quorumにとってよい居場所を見つけたとも言えるだろう。Quorumの日々の運営が、JPモルガンにとっては悩みの種となっていたとも言われている。

「隅っこで行われる小さなものである限りは、問題なかった」とファルーク氏は語る。「拡大を始めた途端、最大規模の顧客たちから『Quorumで開発を始めようと思うんだ。管理されたサービスのサポートをしてくれないか?』といった電話を受けるようになった。そこで、QuorumがJPモルガンの外で成長を続け、成功していけるようにするための戦略的オプションを検討し始めた」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|写真:JPモルガン子会社・オニキスのウマル・ファルーク氏(coindesk JAPAN/2019年東京で撮影)
|原文:Remember JPM Coin? Next Step Is Programmable Money, Bank Exec Says