アメリカの政治家たちは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に乗り気になってきているのかもしれない。しかし、9日の上院銀行委員会の公聴会において、CBDCがある程度の関心を集めたものの、議員たちからはるかに大きな注目を浴びていたのは、ビットコイン(BTC)をめぐる問題だった。
その先頭に立っていたのは、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)だ。
ウォーレン議員が委員長を務める経済政策に関する小委員会は、暗号資産(仮想通貨)分野についてさらなる公聴会を開く可能性が高いと、ある議員はブルームバーグに語った。
エルサルバドルのような小国がビットコインを法定通貨として受け入れようとする中、今回の公聴会では、アメリカの議員からこれまででも最大級に厳しいビットコインへの批判が寄せられた。
ウォーレン議員の姿勢は、この先の公聴会でビットコイン関連の問題がどのように議論されるかの先触れとなる可能性が高い。下院では来週、同様の公聴会が開かれる予定だ。
メリットとデメリット
「誰かにお金を送りたければ、デジタル通貨の方がより簡単でより速い」と、ウォーレン議員は公聴会の冒頭で述べた。「しかし、そのようなメリットを実現するためにはデジタル通貨は安全で安定し、どこでも受け入れられる必要がある」
それに対し、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデジタル通貨イニシアティブ(DCI)ディレクター、ネハ・ナルラ(Neha Narula)氏は、最近の約40%の値下がりを引き合いに出して、ビットコインの価値は安定していないことを指摘した。
ウォーレン議員は暗号資産を、各銀行が自由に紙幣を発行していた19世紀半ば頃の「ヤマネコ」銀行券になぞらえた。
Sen. Elizabeth Warren says cryptocurrencies need more regulation.
— Bloomberg TV (@BloombergTV) 2021年6月9日
“What’s happening right now…it’s a Wild West out there,” she tells @TheStalwart https://t.co/hytD79iSTX pic.twitter.com/umEmcQ7la9
「ウォーレン上院議員は、暗号資産にはより多くの規制が必要と発言。
『今起こっている事態は(中略)開拓時代のワイルドな西部のような感じだ』と、ブルームバーグのJoe Weisenthalに語った」
ウォーレン議員は、先月金融イノベーション党員集会を立ち上げた親ビットコイン派の共和党シンシア・ルミス上院議員(ワイオミング州)とは対照的だった。
ルミス議員は、ビットコインを法定通貨として採用するエルサルバドルの法律を引き合いに出して、ビットコインを活用する国々と、アメリカのアプローチの可能性を対比させた。
一方のウォーレン議員はさらに、ビットコインやそれ以外のプルーフ・オブ・ワークを採用する暗号資産が環境に与える影響にも批判の矛先を向けた。オランダ一国と同じくらいのエネルギーを消費し、年末までには地球上のすべてのデータセンターと同じくらいのエネルギーを消費する可能性があると指摘。(ビットコインが他のテクノロジーや通貨システムと比べて、本当にエネルギーを過剰に消費するかどうかは、激しい議論の的となっている)
CBDCへの期待
今回の公聴会に出席した証人は、ナルラ氏、コロンビア大学ロースクールのレブ・メナンド(Lev Menand)氏、スタンフォード大学のダレル・ダフィー(Darrell Duffie)氏、デジタルドル財団(Digitl Dollar Foundation)のディレクター、クリストファー・ジャンカルロ(Christopher Giancarlo)氏の計4名。全員が、しっかりと作られたデジタルドルは、アメリカにとって有用となるだろうと主張した。
上院銀行委員会の委員長を務める民主党のシェロッド・ブラウン上院議員(オハイオ州)は9日、FRB(連邦準備制度理事会)が発行するCBDCというアイディアへの支持を表明。自らが提案した手数料無料の銀行口座計画を補完するものとなると主張した。
「アメリカ国民は、自らが稼いだお金を使うためだけに、法外な手数料を支払うべきではない。(中略)中央銀行デジタル通貨は、手数料無料の銀行口座と並んで、勤労者世帯の支払いシステムへのアクセス、アメリカ経済への完全な参加を確保することができる」と、ブラウン議員は語った。(同議員は先日、暗号資産ネイティブの企業に与えられた暫定的な信託認可に激しく反対していた)
CBDCに賛成の意見は様々であった。メナンド氏は、大企業に価値を保管する新しい手段を提供すると主張した。
「デフォルトしないお金を数量無制限で提供することは、人々が考えもしなかった形で、アメリカの金融システムを安定させるものとなるだろう」とメナンド氏は述べ、次のように続けた。
「デフォルトしない形で非常に大量のキャッシュを保有することができれば、大企業にとって非常に有用だろう。さらに、大企業が現在使っている、安全性と安定性を欠く代替商品を締め出すことにもなる」
大きくそびえる中国の存在
デジタルドルは、アメリカが中国に後れを取らないようにするためにも有用かもしれない。中国は独自のブロックチェーン・サービス・ネットワーク(BSN:Blockchain Service Network)と、CBDCに当たるデジタル人民元に精力的に取り組んでいる。
ジャンカルロ氏は、中国の取り組みを指摘しながら、CBDCが世界的な準備通貨としてのドルの地位を維持する助けとなると主張した。
「中国が最新のブロックチェーンテクノロジーと、新しいデジタル通貨、そして先物市場を組み合わせるのも時間の問題だ」と、ジャンカルロ氏は警告した。
ジャンカルロ氏の発言の前日には、上院で「Endless Frontier Act」が可決された。この法案は、ルミス議員が起草者の1人となっている修正条項によって、そのままの形で施行されれば、デジタル人民元がアメリカ国家に与える国家安全保障面での影響を研究することを、連邦政府に義務付けることになる。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:エリザベス・ウォーレン上院議員(Shutterstock)
|原文:Elizabeth Warren, US Lawmakers Put Bitcoin on Trial in Senate CBDC Hearing