暗号資産のスーパーサイクル:この先10年をいかに形づくるか【前編】

「スーパーサイクル」論とは、一連の技術的、外的要因のために、暗号資産は大衆への普及目前だという大胆かつ曖昧な考えだ。しかし、一部の人にとって「スーパーサイクル」は、マーケットメーカーのためのマーケティング用語にしか過ぎない。他の人たちにとっては、市場は「上昇するのみ」だという夢を象徴するものだった。

暗号資産は新しい「FANG」

2021年は2014年の再来で、暗号資産は当時の「FANG」に当たる。2014年以来、フェイスブック、アップル、ネットフリックス、グーグル4社の「FANG」株は好調で、それらに投資することは、実際に上手くいく「採用しないとバカな投資戦略」だった。マクロが素晴らしい利益をあげてくれるなら、ミクロのテーゼを考える必要はない。

皆があまりマクロになり過ぎると、ある時点で、魔法が効かなくなる。しかしそれまでは、この投資テーゼを形容するとしたら、「大勢に従うことは、今どきの逆張りだ」とでもなるだろう。

暗号資産のスーパーサイクルは懐が深く、すべての人に参加して、競争するよう呼びかける。誰でもが成長の可能性のある競合であり、成功できる。誰でもツイッターで暗号資産への支持を表明し、ミリオネアになることができる。

ピーター・ティール(Peter Thiel)氏が、ビットコイン(BTC)は新しいFANGだと言ったのは、ビットコインがこの先数年で、マクロに動かされるものになるからだ。私はこの主張を、ビットコインだけでなく、資産クラスとしての暗号資産にまで広げたい。

人工知能(AI)と同じように、暗号資産は抽象的なものだ。何を意味するか分かっている人は、もはや誰もいない。製品開発の際に、抽象を盾にして隠れることは、悪いこととみなされる。しかし、人々に製品を話題にして欲しい時には、現実を曖昧にすることは、有益にもなり得る。

外部の人たちは暗号資産を、内部関係者が自分たちに売りつけようとする不思議なコンセプトとして捉えている。今やすっかり、「未来」や「値上がり」といった、誘発的な言葉やフレーズへと凝縮されてしまった。

ある意味では、暗号資産は神に似ている。知っている人が少なければ少ないほど、将来的により多くの形態をとることができる。神が曖昧であればあるほど、他の人に押し売るのは簡単になる。そこから戒律の細かいニュアンスを持ち出してきて、宗教を結成する。そのニュアンスに同意しない人が現れると、別の宗派が生まれる。

暗号資産は一枚岩ではない。2021年の今、多くのエコシステム、ミーム、テクノロジー、信念を含有している。中でも分散型金融(DeFi)はここ数カ月で、暗号資産界で優勢なムーブメントの1つになっており、メインストリームに普及するという野望を抱いている。

機関投資家たちは、10年前にFANG株に寄せたのと同じ懐疑的姿勢で、DeFiを見ている。ベンチャーキャピタルが「重要なのはユーザーだ」と言っていたのに対し、ウォール街の有力ブローカーたちは、収益の少なさに信じられないという感じで首を振っていた。「フェイスブックがユーザーを抱えているのは良いことだが、どうやって利益を出すんだ?」なんともベビーブーム世代が言いそうなセリフだ。

広告収入が膨らみ始めると、かつて批判的だった人の多くが、FOMO(機会を逃すことへの恐怖)から投資に回った。幻の10倍の利益を出すには遅すぎた人たちもいた。投資家は、2度も同じ失敗を繰り返したくはないものだ。

DeFiもある程度、FANGと同じパターンをたどる可能性がある。DeFiの預かり資産(TVL)は、インターネット成長期の頃のユーザー数の水準に到達する可能性がある。ユーザー数はその後、キャッシュフローを生み出すマシーンとなった。DeFiアプリは実際、手数料収入や収益をあげている。何十億ドルもの資金を置いておく場所となりうるのだろうか?

DeFiは、無限の資金で動く経済にとっては完璧なプロダクトマーケットフィットだ。DeFiの収入は利己的なものだが、現代の通貨政策も同じことだ。金利が低い限り、上限はない。インフレ予測が金融における体制の移行を促し、新しい経済は、古い経済の出口戦略となる。

2021年へようこそ

スーパーサイクルの議論を、市場における過度の楽観の症状と見る人も多くいる。しかし、それ以上のものかもしれない。

暗号資産市場は、周期的なものであり続ける可能性が高い。ボラティリティの高い期間は、10年先、さらにその先も残り続けるかもしれない。アプリや暗号資産のプロダクトマーケットフィットの兆しが見えているならば、それをめぐる憶測はストレステストのメカニズムとして機能する。特にそのプロダクトの目指すところが、古いテクノロジーに取って代わることの場合には。

2016〜2017年にかけての強気市場は、暗号資産界で多くのスタートアップ誕生につながった。それから4年経ち、漠然としたホワイトペーパーは、配備、テスト、使用できるプロダクトへと変容した。ユーザーとプロダクトが存在し、プロダクトマーケットフィットが生まれている。

2017年には、プロダクトは1つだった。世界的な非許可型資金調達メカニズム、またの名を新規コイン公開(ICO)だ。2021年には、非許可型取引・貸付、デリバティブを生み出す力、そしてより一般的に、自宅のベッドルームにいながら金融商品を展開し、銀行家になる力など、ずっと多くなっている。

マクロとミクロの両方の要素が、暗号資産に都合よく動いている。投機は世界を食い物にし、ゲームストップ vs ウォール街の騒動は私たちに、金融民主化の新しい側面を見せた。人は資本を欲しており、そこにアクセスするための新しい方法を見つけ出している。

古い経済は人たちを、大学や銀行などの機関へと向かわせる。これらの機関は、分配によって資産を獲得するための方法だ。その反対には、非許可型金融がある。「経済分散化のデバイスを革新し、より多くの人がより多くの市場に、より多くの方法でアクセスできるようにする」というのが先へ進む道だと、哲学者の炉バルト・マンガベイラ(Roberto Mangabeira)氏はかつて、ピーター・ティール氏に語った。

人は資本を忌み嫌ってはいない。多くのジャーナリスト、学者、政治家は、階級不満という誤ったナラティブを追いかけている。その反対が真実だ。人はもっと多くを欲している。もっとお金が欲しいのだ。

次なる偉大な切り離し

市場で価値を捉えるには2つの方法がある。まとめるか、バラバラにするかだ。アナリストのベン・トンプソン(Ben Thompson)氏は、インターネットが統合の新しいポイントを生み出すことで、メディアコンテンツの分配をディスラプト(創造的に破壊)したと説明している。

インターネットは、新たな統合ポイントを生み出すイノベーションに基づいた新しいバリューチェーンの構築を可能にする。皆がこの新たな中心点に集まる。勝者はまとめ、皆がそのまわりで分割するのだ。

インターネットによって、メディア分配コストはゼロになった。コンテンツの分配と広告における古いメディアの独占は打ち砕かれた。これは、イノベーションを持たない現状維持組織が最適化され、移動コストが低くなった例だ。イノベーションが解き放った市場の力が、新しいまとまりを生み出したのだ。

フェイスブックは消費者と広告を統合することで、「分配を基盤とした顧客の関心の独占」を壊し、新しいまとまりと、関心の新たな独占を築いた。

暗号資産、特にDeFiも、新たな統合ポイントを生み出した。イーサリアムなどのブロックチェーンは、消費者が新しい通貨体制に直接参加できるようにした。中央銀行に独占的にアクセスできる銀行は必要ない。

DeFiの分散型アプリ(Dapp)は、銀行がすることの全てを可能にする。サービスの一部は分散型ではないが、分散型金融システムの上で運用されることになる。

「レボリュート(Revolut)」や「ロビンフッド(Robinhood)」といったアプリにとっては、DeFi金融への参入は統合の問題に過ぎない。バックエンドが、古い経済のものからDeFiのものへとアップグレードされるのだ。このようにして、金融機関は新しいパラダイムへと順応する。これがスーパーサイクルだ。

マッティ・ガグリアルディ(Matti Gagliardi)は、ベンチャーキャピタルのジー・プライム・キャピタル(Zee Prime Capital)でパートナーを務める。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Supercycle: How Crypto Could Shape the Decade Ahead