米ゲームストップはもはや、ただのビデオゲーム小売業者ではなくなってしまった。今年1月、米人気掲示板レディット(Reddit)で集結したトレーダーたちが、同社株の価格を吊り上げ、長年低迷していた実店舗型のゲームストップは、手数料ゼロのトレーディング、ソーシャルメディア、そしてパンデミック給付金による広範な投資市場の変容を象徴する存在になった。
このストーリーの劇的要素は主に、ゲームストップの穴馬的地位にかかっていた。デジタル製品(ビデオゲームソフトウェア)を実店舗で小売りする会社として、同社は資本主義に淘汰されてしまうことは避けられないように見えた。
だからこそ、多数のプロの投資家が、値下がりに賭けるような投資をしたのだ。小口トレーダーたちが同社株を支えるために一致団結し、機関投資家たちの空売りを機能不全にした時には、小さな者が大きな者を打ち負かす武勇伝のような輝きが、投資による利益に添えられた。
ゲームストップやその他のいわゆる「ミーム株」(や「ミームコイン」)が投資情勢にとって何を意味するのか、はっきりとしたことはまだ分からない。ウォール・ストリート・ジャーナルによる新しいポッドキャスト『To The Moon』のミニシリーズは、そこに力強く初めて挑んでいる。
『To The Moon』は先日、5つのエピソードからなるシリーズの最終話を公開した。司会のアン・マイノット(Ann Minot)氏は、20人を超えるミーム株トレーダーに取材し、歴史も掘り下げている。
ミーム株トレーダーたちの実態
私はマイノット氏に先週取材を行い、このポッドキャストや、ミームトレーディングの行く末について話を聞いた。彼女がポッドキャストの制作過程で学んだことは、「WallStreetBets」(またはWSB)と呼ばれるレディットのサブチャンネルのユーザーたちに対する一般的な思い込みを覆すものである。
ゲームストップ騒動の背後にいた人たちに対する、マイノット氏の意見に私は最も驚かされた。金融のプロの大半が想定しているより、責任能力があり、合理的な人たちだと、マイノット氏は考えているのだ。
WSBのユーザーたちはおおむね、YOLOトレーディングと呼ばれる投資を愛するのが特徴だ。YOLOトレーディングとは、「You Only Live Once(人生は一度きり)」を表す略語を使ったもので、人生を一変させる利益の可能性もありながら、無責任なほどの損失リスクも伴う大きな賭けのような投資のことだ。
私は常々、YOLOトレーディングの台頭は、アメリカのますます博打的な経済の産物だと考えていた。つまり、時に様々な形態のギャンブルが、成功のための唯一のチャンスのように見えるような経済のことだ。しかしマイノット氏が出会ったのは、捨て身の賭けではなく、計算尽くされた投資を行なっている人たちだった。
「『私は若いから、リスクを取るのだとしたら、今リスクを取っておく。今20代半ばで、将来的には9時5時の決まりきった仕事をする見通しだ』と、どれくらい多くの人が語ってくれたか言い尽くせない」とマイノット氏は言う。
ゲームストップ株を買った人たちから連想していた、富と貧困の陰鬱な二極化とはほど遠い。マイノット氏が取材したトレーダーの大半は、若くてお金に余裕があった。「自暴自棄になってYOLOトレーディングをしてた人を思い出すことはできない」とマイノット氏は話す。
「多くのトレーダーが、もっと歳をとっていたり、家族がいたらこんなことはしていないと語ってくれた。『これは失っても大丈夫なお金』と言う感じがあった」
過去からのつながり
しかし、彼女のポッドキャストが追ったより大きな歴史的力は、さらに興味深い。特に重要なのは、1970年代に手数料の低いインデックスファンドや長期的なパッシブ投資の第一人者となった”ジャック”・ボーグル(Jack Bogle)氏のストーリー。幅広く大衆が、資本を蓄積できるようにした人物だ。
マイノット氏は、ボーグル氏から投資アプリのロビンフッド(Robinhood)につながるはっきりとした系譜を見ている。手数料ゼロ、または低手数料の取引を、動きの遅いインデックス投資から、アクティブな株式投資へと拡大させる先駆者となった。
両者が後世に残す遺産も同じようになるかは、もちろんまだ分からない。アクティブなデイトレーディングは通常、損失を出すのに格好の方法だからだ。少なくとも、どちらの勢いも民主的なようだ。一方は主に、お金を失う自由を与えてくれるものだとしても。
小さき者たちの結集
テクノロジーによって、ロビンフッドの手数料ゼロ取引が可能となったが、ソーシャルメディアの台頭は、おそらくより重要だろう。組合によって、大きな富を持つ単独の組織に対して、自らの利益のために多くの人々が組織化することが可能になるのと同じ様に、レディットやツイッターで組織化されるトレーディング連合によって、小さき者たちが大きな者のように振る舞うことが可能になる。
レディットによるゲームストップ株価吊り上げの中心となった「ショートスクイーズ」は、その代表例だ。そのような連合はほぼ間違いなく、時間と共により組織化され、高度なものになっていくだろう。
しかし、経済的不平等に対する広範な不満がなければ、テクノロジーや組織化も意味をなさなかったかもしれない。マイノット氏が突き止めたことはここでも、短絡的な想定を覆すものである。
2020年後期に明確なテーゼに基づいてゲームストップ株を買っていた人たちと、メディアが報道を始めた後に買った人たちとの間には大きな乖離があると、マイノット氏は指摘する。
「1月の大幅な値上がりに近い頃に飛びついた人たちと話すと、利益を得るためのチャンスというだけではなく、ウォール街の損失から儲けを得るチャンスと考えていたことが分かった」とマイノット氏は述べる。
これはもちろん、ある意味心配な点である。感情主導で事実を軽視したあらゆる投資パターンと同様、「思い知らせてやろう」的なトレーディングは、操作の格好の標的となりそうだ。イーロン・マスク氏の残酷なほどのドージコインへの熱の入れようで目の当たりにしている通り、小口トレーダーを崖から落としても構わないような、言葉巧みな人たちはたくさんいるのだ。
対策を迫られるヘッジファンド
しかし、ソーシャルトレーディングの最も大きなリスクは、ヘッジファンドやその他の大口機関投資家に対するものだろう。彼らは通常、長期的トレンドやデータに基づいた複雑なモデルを採用しており、WSBユーザーたちの気まぐれを考慮することなどできないのだ。
もちろん、人々は何世紀にもわたって投資を行なっているが、デジタルソーシャルメディアのスピードと開放性は、根本的な分岐点と捉えるに相応しいだろう。まったく新しいものなのだ。
現行のデフォルトモデルは、すばやく組織的な動き、特にファンダメンタルズに基づかない動きを組み込んではいない。ヘッジファンドは、よく組織化されたアマチュアに対しても大いに有利なのは確かだ。しかし、ヘッジファンドが戦略を見出すまでには、メルビン・キャピタル(Melvin Capital)のような壊滅的損失を被る企業がまだまだ出てくるだろう。
機関投資家は間違いなく、何らかの作戦を見出す必要がある。今でもWSBをチェックしているマイノット氏は、このトレンドが終息するとは考えていない。
「(ゲームストップ騒動の仕掛け人であった)RoaringKittyが登場する前にも、WSBユーザーは存在していたし、今でもいる。(中略)ゲームストップにAMC、毎週新しい名前が出てくる」
デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:WallStreetBetsのページを表示したスマートフォン(Hanson L / Shutterstock.com)
|原文:Understanding the Meme Stock Barbarians at Wall Street’s Gates