IPコンテンツ・100年時代──NFTが新たな可能性を開く【イベントレポート】

世界中で注目を集めるNFT(ノンファンジブル・トークン=Non-Fungible Token)──日本でもアニメやゲーム、アートなどのコンテンツを有する大手企業がNFT事業への参入準備を進めるなか、この領域の最前線で事業開発をリードするキープレイヤーたちが6月、イベント「NFTがもたらすIPビジネスの革新──アート・ゲーム・アニメの新たな可能性を考える」で未来を語った。

コインチェックでNFT事業責任者を務める天羽健介執行役員、国内NFTゲームの先駆者であるdouble jump.tokyoの上野広伸CEO、クリプトアート事業を立ち上げたスピーディの福田淳社長が、NFTビジネス創出の舞台裏やスピード感、大手IP事業者の温度感などを語り合った。

モデレーターは日本のアニメオタク文化を世界に発信するTokyo Otaku Mode共同創業者で、ブロックチェーン技術を用いたコミュニティ通貨「オタクコイン」立ち上げの中心的役割を果たした安宅基氏。イベント主催はブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」で、coindesk JAPANがメディアパートナーを務めた。

本イベントの動画は、同サイトで無料視聴できる(要・会員登録)。

NFTビジネス、最先端の現状は?

イベントではまず、3人のスピーカーが、NFTビジネスの最前線で行っている取り組みについて報告した。

天羽氏によると、コインチェックがNFT事業への参入を決めたのは、およそ1年前で、今年3月に「Coincheck NFT(β版)」をオープンした。同社は、2月に買収した「miime(ミーム)」と合わせて、2つのNFTマーケットプレイスを運営している。

「Coincheck NFT(β版)」は暗号資産取引所と一体化しており、「取引から保管まで一気通貫で行える」のが強みだ。天羽氏は「暗号資産とNFTの両側面で、事業者を支援していきたい」と話す。同社は7月、トークンを利用した資金調達手段「イニシャル・イクスチェンジ・オファリング(IEO)」を国内で初めて実施。最初の事例となったのも、NFT特化ブロックチェーン「Palette」の案件だった。

上野氏のdouble jump.tokyoが手掛けたゲーム「マイクリプトヒーローズ」は、イーサリアムベースのブロックチェーンゲームとして取引高・取引量・DAUで世界一になった。上野氏は「タイミングがよかったこともあるが、NFTの取引実績としては、現時点で国内ダントツナンバーワン。その知見を生かして、NFT販売事業や、ブロックチェーンゲーム販売支援事業をしている」という。

double jump.tokyoは今年、スクウェア・エニックスやセガの大手IPホルダーとNFT事業で提携すると発表した。世界各地でNFTの話題が増えたタイミングと重なったが、上野氏は「IP事業者は、既存のビジネスとの関係や、版権についての課題もあり、NFTが流行ったからといって、すぐに飛び込めるわけではない」とした上で、今回の提携は1~2年前から水面下で進めてきたと語る。他社のNFT事業についても同じく、「以前から話し合ってきた結果、リリースできるようになったのがたまたま今年だったのだろう」とコメントした。

「IP100年時代」に突入

国内の大手IPホルダーが、積極的にNFT事業に参入するのはなぜか。コンテンツの寿命が長くなり、「IP100年時代」とも言われるようになったことが背景にあると上野氏は解説する。

例えば、スクエニのゲーム「ファイナル・ファンタジー」はシリーズ30周年を迎えたが、いまでも続編が発表され、ファンを増やしている。「ドラゴンボール」の漫画連載は1995年に終了したが、それ以降もアニメ・ゲーム化で大ヒットを続けている。同タイトルのゲームを手掛けるバンダイナムコは2020年3月期にドラゴンボール関連だけで1350億円を売り上げた。このように何度もリバイバルされ、何十年も人気を保ち続けているコンテンツは数多く存在している。

「仮に何かのサービスが10年続くとしても、IPはそれより遥かに長い寿命を持っている」と上野氏は語る。「あるキャラクターを所持した人が、また30年後に良いお客さんになるかもしれない」

そういう人とコンテンツの結び付きを実現できるのが、NFTというわけだ。「NFTは特定のサービスに結びついておらず、オープンで長寿命だ。IPホルダーは、そこにビジネスとしての将来があると考えていると思う」(上野氏)

アート業界では?

NFTアートの販売を手掛ける福田氏は、「最初にソニー・ピクチャーズに入って以来、徹頭徹尾コンテンツの販売をしてきた」と語る。スカパーの立ち上げやNTTドコモの携帯電話向けサービス「iモード」向けコンテンツの販売などにも携わったが、それらは「コンテンツを表現するための、時代の手段」で、暗号資産(仮想通貨)もNFTアート販売も「その流れ」で捉えているという。

いま、福田氏は「デジタルとリアルの接点になるようなNFTの使い方」を模索している。ひとつの例が、建築や家具の図面をNFT化する取り組みだ。「パリのポンピドゥー・センターは、日本の近代建築の図面をアートとして買っている。NFTはそうしたものを債券化して売るのにも向いている。まだ名前はオープンにできないが、世界的に有名な建築家とも一緒に取り組んでいる」

NFTは「当たり前」の存在に…

同イベントの後半は、コーディネーター安宅氏の「NFTの未来はどうなる?」という問いかけから始まった。

天羽氏は「不動産やファッションなど、幅広い分野で当たり前に使われる世界になるだろう」と予測する。福田氏も、SNS上でのコミュニケーションなど、デジタル生活が重要になっている点に触れつつ、「NFTの未来は明るい以外ない」と強気だ。

「みんな気づいていないが、パラダイムシフトはもう起こっている」と話すのは上野氏。リアルに起きたことをデジタルに記録するという話は過去のもので、いまは「デジタルに記録されたことが事実」だと認識される世の中になってきているという。

「たとえばツイッターでは、(他人のツイートを盗用する)『パクツイ問題』が起きたら、オリジナルのツイートはこれだという指摘がされる。実際には、そのツイートだって、自分で思いついた発言ではなくて、リアルで誰かから聞いた話を書きこんだだけかもしれない。それでもツイートが『オリジナルだ』とみなされている」(上野氏)

そういう世界で、NFTにはどのような役割があるのだろうか? 上野氏は「書き込んだことが事実になる世界だと、書き込む先はどこかの会社のデータベースではなくて、改ざん不可能で長寿命なブロックチェーン上の方が良いだろう」と語る。

ビジネスの「スピード感」は?

会場からは「NFTビジネスのスピード感」についての質問があった。

上野氏はゲーム業界でのスピード感について、「アーリーアダプター層には、早いうちに広がっていくと思うが、その先にちょっとキャズム(溝)がある」という。

現状では暗号鍵の管理などで使いやすさに課題があり、誰もが使いやすいUI/UXにたどり着くまでには「年単位の時間がかかる」と予想する。ただ、ゲーム業界は規模も大きく、ゲーム会社がアーリーアダプター層までリーチできれば、それで「上場クラスになれる可能性もあるレベル」だという。

アート業界について、福田氏はアーティストの参加者がまだ少ない状況だという点を踏まえて「スピード感はわからない」とするものの、「将来については楽天的に考えている」と述べた。

NFTマーケットプレイスの観点からは、天羽氏がLINEやメルカリ、GMOなど大手の参入も相次いでいることを踏まえ、「コインチェックは、先行している分、なるべく早く、商品の質・数を追求していきたい」と語った。ただ、そのためには、NFT事業に参入するIP事業者に、ハードルを乗り越えてもらわなければならない。

IP事業者にとって、参入ハードルのひとつになっているのが、NFTの法的性質が国内法できっちり定義されていないことだ。

日本暗号資産ビジネス協会NFT部会長として、NFTビジネスのガイドライン策定に関わった天羽氏は、こう話す。

「金融商品取引法などに抵触しないよう、暗号資産や有価証券、交通系ICカードSuicaのような前払式支払手段などに該当せず、イーサリアムのERC721のような規格で発行されたものが、いわゆるNFTだという形でガイドラインを書いている。われわれがリーガルコストをかけて問題整理をして、その知見を共有することで、なるべくライトにNFTビジネスに参入できるような状態をつくりたい」

「参入する事業者が増え、コンテンツに魅力に感じたユーザーが増え、そしてまた事業者が増えていく。そんなスパイラルを作っていきたい」

|文:coindesk JAPAN
|写真:N.Avenue提供