コインベース株は投資家を魅了し続けられるか?──暗号資産市場が小休止状態

本来なら、米決済大手のスクエア(Square)が、ビットコインを利用した独自の分散型金融(DeFi)プラットフォームと思われるものを開発するという発表について書きたいのだが、このプロジェクトについての情報は現時点ではほとんど存在しない。プロジェクト名さえも未定だ。

米オープンソース企業レッドハット(Red Hat)の元スタッフ、マイク・ブロック(Mike Brock)氏が指揮をとることは分かっている。必要なスマートコントラクトすべてをネイティブにはサポートしてはいないビットコイン上でDeFiを開発するというアイディアは、エキサイティングかつ斬新であるが、率直に言って少し奇妙なものだ。しかし私は、スクエアのCEOであるジャック・ドーシー氏を信頼しており、詳細を聞くのが楽しみでたまらない。

詳細が分からない現状では、市場がこのゲームチェンジャーとなり得るニュースにかなり無関心であるように見えるということ、そして他の暗号資産企業、特に取引所にとってそれが何を意味するのかを考えてみよう。

ビットコイン(BTC)の値上がり幅は現在、きわめて小さく、その理由は、世間の人たちの関心が(パンデミックによる規制が解除になって)外出など別のことに向けられる中、「クリプト小休止」とでも言える時期に突入しているからだ。

取引高低迷の現状

「ビットコイン」と「イーサリアム」という検索ワードでの検索数はここ数週間で大幅に低下し、取引所での取引高も同様に大幅な落ち込みを見せている。2018年から2019年にかけての「暗号資産の冬」のような完全な弱気相場へと移行しないことを願うばかりだが、少なくとも少しの間は、スクエアの発表のようなニュースが、より多くの関心が注がれていた史上最高値近くの頃のような変化をもたらすことはないのかもしれない。

これはとりわけ、収益の大半が取引手数料から来る暗号資産取引所にとっては問題だ。過去には、取引の低迷が多くの解雇や戦略的縮小へとつながってきた。しかし今回は、考慮すべき新しい要素がある。取引低迷は、すべての暗号資産取引の中でも、特に上場している取引所にとって最も痛手となる可能性がある。

これまでのところ、長期間の取引停滞は暗号資産では典型的となっている。普及の波は潮の満ち引きのようなものだからだ。世間からの関心の高さが大きく揺れ動くことは、コインベースのような企業の収益にとって大いに好ましくない。収入が減るからだけではなく、ウォール街はそのような盛衰が内在する企業を上手く評価するようにはできていないからだ。

しかしまずは、状況がどれほど厳しいものかを見てみよう。デジタル資産に特したメディア、「ザ・ブロック(The Block)」のフランク・チャパロ(Frank Chaparro)氏はツイッターで、取引所の取引高は「崖から落ちるほど急激に落ち込んでいる」と語った。しかし、私なら崖から落ちた方がマシだと思うくらいに事態は深刻だ。

5月の市場のピーク時に比べて、取引高の合計は約60%減少。他の取引所と比べて、とりわけ取引高が大きく落ち込んでいる取引所もある。コインゲッコー(CoinGecko)のデータによると、バイナンスはおそらく法律関連のトラブルの影響から、取引高が85%近く減少。FTXでのデリバティブ取引高も同じくらい減少している。

これらの取引所での減少幅が合計のものより大きい理由は、新規の投資家たちが、これらのより有名なプラットフォームを使う傾向があったからかもしれない。小規模取引所が取引高をごかましている可能性もあり、どの取引所でも、大規模取引所と同じくらい取引高が減少しているのかもしれない。

私の計算によると、コインベースの取引高はさらに激しく、5月のピーク時から比べると92%も減少した。Webメディア「Decrypt」のジェフ・ロバーツ(Jeff Roberts)氏が指摘した通り、これはコインベース株にとってはかなり困った事態につながる。

ウォール街が嫌う業績の上下動

コインベースの第2四半期の収支報告が迫っているが、これは4月から6月の期間であるため、5月のピーク時の数字を含むことになる。つまりその収支報告はおそらく、素晴らしいものとなるのだ。しかしSEC(米証券取引委員会)による要件のために、収支報告には第3四半期の見通し、つまり、現在の事業の状況がひどいものであるという事実も含まれる。

これは、ウォール街が好むような業績ではない。ウォール街は数字が上がるのを好む。より着実に上がり続けるほど、良い。赤字の上場スタートアップだとしても、四半期毎に赤字を減らすこともできる。コインベースは、かなり長くゆっくりと大きなサイクルで動く市場に深くつながっているため、そのような期待に応えることは非常に難しいだろう。

コインベースの普通とは異なる市場でのポジションを考慮に入れて大目に見ようとする、知識豊富で寛容なウォール街のアナリストもいるかもしれない。しかし大半のアナリストはそうではなく、第2四半期の数字と、実際に発生している、目に見える現在の取引高を同じ日に目にすれば、「この株はひどい」と考えるだろう。

コインベース株について触れることに対する抵抗感もあるに違いない。アナリストの評判は、判断の正確性にかかっており、コインベース株の中期価格ターゲットを設定することは、手榴弾がどちらに転がるかを推測するようなものだからだ。(コインベースは、カストディサービスなど、取引所業務とは関係のない収益もあるが、取引手数料が収益の96%を占めている)

長期的な投資先として

それでも、チャンスも生まれるだろう。長年にわたって、ビットコインはそのボラティリティのために批判されてきたが、ビットコインファンたちは、普及が十分にすすめば事態は良くなると主張してきた。十分な数のコインが十分な人たちに広まれば、安定が生まれる、ということだ。

それが実現する兆候が見え始めているのだ。実際ビットコインはここ2カ月、3万ドルから3万4000ドルの比較的狭い範囲で値動きしており、これはいくつかの激しい値動きよりも、取引所の取引高にとってはずっと悪影響だ。

同様にコインベースは、暗号資産取引所での活動が多様化して深まることで、その収益の揺れ幅が平らになっていくのに賭ける長期的投資なのだ。ナスダックと、ニューヨーク証券取引所の親会社であるインターコンチネンタル取引所はどちらも上場企業であり、どちらも長期的にはかなり良い投資先となっている。

暗号資産市場がこの先、株式市場と並んで栄えると思うなら、コインベースは良い投資先だろう。しかし、利益が出始めるまでには数週間待つ必要があるかもしれない。多くの投資家はすでに、もう興味を失ってしまっており、それがコインベース株の価格が上場時よりもはるかに低い31%安となっている理由だ。しかし、現在の低迷状態がウォール街に完全に認知されるに従って、少なくとも短期的にはさらに下落する余地が残されている。

デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:rarrarorro / Shutterstock.com
|原文:Can Coinbase Keep Wall Street Happy During the Crypto ‘Pause’?