分散型金融システムについて論じられた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれた福岡市には、そのテクノロジーを体験できるバーがある。そう聞きつけた筆者は6月初旬、G20の取材を終えて「awabar」を訪れた。
ビットコインを保有している筆者は、スマートフォンにブルーウォレット(BlueWallet)という名のウォレットアプリをインストールし、そのバーに向かった。
ビットコイン(BTC)を送受信するには、秘密鍵が必要になる。秘密鍵を使って取引に署名することで、オープンなインターネットにおいて「このビットコインは自分のものである」ことを証明できる。ブルーウォレットは秘密鍵を自ら管理しないタイプのウォレットで、ライトニングネットワークの準備も比較的に簡単である。
ビットコインでのライトニングネットワーク決済手順
- ブルーウォレットでビットコインウォレットを作成
- ビットコインウォレットにビットコインを入金
- ブルーウォレットでライトニングウォレットを作成
- ビットコインウォレットからライトニングウォレットに入金
- ライトニングウォレットで決済
ブルーウォレットに入金
まず、ブルーウォレットで「ウォレットを作成」をタップする。ビットコインのウォレットを選ぶと、画面には24の英単語が現れる。「ニーモニック・フレーズ」と呼ばれているこの英単語を覚えておくと、アプリをインストールしたスマホが使えなくなっても、違うスマホでウォレットを復元できる。
作成したウォレットをタップして画面下の「入金」を選ぶと、QRコードとその下に34文字の英数字が出てくる。この英数字を「アドレス」といい、ユーザーが保有するビットコインの口座のようなものだ。取引所でビットコインを保有している場合、このアドレスにビットコインを送金すれば、ウォレット上でビットコインを使用できるようになる。
ビットコインを取引所の口座からウォレットに送金するには、一定の時間がかかる。取引はブロックチェーン上でブロックごとに承認されるためだ。ビットコインの場合には1ブロックを生成するのに約10分かかり、ブロックのメモリーにも上限がある。マイナーは基本的に、手数料の高い順に取引を処理していく。当然、処理量が急激に増えると時間はかかり、手数料も上がる。
ウォレットへの入金完了は数字で知らされる。画面下の「conf(承認)」の文字の下に数字が現れる。最初は「0」で、そのうちに増えていく。実はビットコインには「この時点で支払いが完了した」という基準はない。ただし承認数が6以上になると、「確率的にはその取引は覆せない」というおおよその合意がある。ビットコインのマイニング作業には、世界中から大量の計算能力が投入されているので、承認を6つ得たあとにブロックチェーンを覆すことは難しい。
ライトニングネットワークに入金
ビットコインをブルーウォレットのウォレットに送金したら、今度はライトニングウォレットに入金する。
ビットコインをライトニングネットワークで使うには、ブロックチェーン上で入金したビットコインを、ライトニングネットワークに入金する必要がある。
ライトニングネットワークとは、ブロックチェーンではなく、その上に支払いのための層(ペイメント層)を作って資金のやり取りを行うもの。そうすることで、ビットコインのブロックチェーンにあった10分ごとのブロック承認時間や、ブロックによる取引処理量の制限を解決できる。
まず、ブルーウォレットアプリでライトニングネットワーク用のウォレットを作る。
スマホの画面で「ウォレットを作る」をタップした後、Lightning(ライトニング)を選択したら、続いて「資金の管理」を選び、移動するビットコインの額を決める。
ライトニングウォレットへの移動は時に30分以上の時間がかかる。ライトニングネットワークへの入金処理は、ブロックチェーン上で行われるので、処理量が多いと時間がかかるのだ。この日、40分ほど経過すると、入金処理は完了した。
ライトニング決済のスピード
これでライトニングネットワークを使って、awabarでドリンクを注文できる。
スパークリングワインを注文した。バーの店員がその商品を示すQRコードをタブレットの画面に表示すると、筆者はスマホのライトニングウォレットから「送金」を選んで、QRコードを読み込む。続いて「Pay」をタップした。
ライトニングネットワーク決済はわずか1秒ほどで完了した。一杯のスパークリングワインを、92,436sats(約820円:6月14日現在)で購入した。ブロックチェーン上で入金処理を待っていた40分とは対照的だ。
「sats」とは、ビットコインの最小単位satoshiの複数形。1BTCは1億satsで、0.001BTCなら100,000satsとなる。この単位の由来は、ビットコインの創始者サトシ・ナカモト。
awabarのライトニング決済システム
awabarで6月10日昼までにライトニングネットワーク決済を利用して購入されたドリンクは33杯。awabarは6月30日までの実証実験として、この次世代型決済システムを開始した。ライトニングネットワーク決済システムの構築に携わったのは、地元福岡のスタートアップのNayutaだ。同社が開発したライトニングネットワークのソフトウェア「ターミガン(Ptarmigan)」が用いられた。
ブロックチェーン層の上にあるライトニングネットワーク技術を用いて、第3者を介さず、瞬間的に決済ができるようになった。
Nayutaでプロダクトエンジニアを務める中島佑氏は、「実際に使ってもらえるプロダクトを作れるのは嬉しい。ライトニングネットワークをつなぐチャネルの数とキャパシティが増え、よりスムーズに1,000円相当のBTCを送金できるようになった」と述べた。
関連記事:ビットコインで決済できるバーが福岡に登場。ライトニングネットワーク技術を試験導入
文・写真:小西雄志
編集:佐藤茂