ミームトークン、3カ月連続の値下がりへ──人気とり戻すギミックはあるか?

犬をモチーフにしたミームトークンは全盛期を過ぎたのだろうか、それとも死んだフリをしているだけなのか?

柴犬をモチーフにしたドージコイン(DOGE)を筆頭としたミームトークンの最近の停滞は、市場の急落が多くの新規暗号資産投資家を怖がらせる中、個人投資家たちが暗号資産から撤退していることを示唆している。

しかし、コミュニティ主導で、遊び心満載のミームトークンへの関心が戻ってくるかに関して、アナリストやトレーダーたちの意見は割れている。

主要ミームコインの5・6月のパフォーマンス
出典:CoinDesk Research、CoinMarketCap

テスラのCEOイーロン・マスク氏の売り込みによって、ドージコインは4カ月にわたる値上がりを記録した。ドージコインに牽引されて、ミームトークンは今年、大幅に値上がりした。TradingViewによると、暗号資産取引所のFTXでのドージコイン価格は、4月だけで528.4%上昇。

ドージコインの値上がりを受けて、ドージコインを真似た柴犬コインをはじめ、無数のミームコインが立ち上げられた。世界的なミーム文化の流行も相まって、これらのミームトークンには大いなる関心が寄せられた。今年1月のゲームストップ騒動も、その人気に拍車をかけた。

「(ミームトークン)市場は、無意味なコインであふれている」と、アーケーン・リサーチ(Arcane Research)のアナリスト、ベトレ・ルンド(Vetle Lunde)氏は話す。

ドージマーズ(ELON)やドギー(DOGGY)など、犬をモチーフにしたコインは数多くあるが、この分野は単に、ドージコインの後追いトークンだけに限られている訳ではない。

大人向けのエンターテイメント業界向けのNFT(ノンファンジブル・トークン)を支えるトークン、CUMROKET(CUMMIES)や、中国における自虐的な文化を象徴するトークンであるルーザーコイン(LOWB)なども存在する。

「ミームトークンが流行していた時期に蔓延していた、リスクオンなフローの果敢な姿勢を浮き彫りにしている」と、投資会社Synergi Capitalのリサーチ責任者デニス・ビノコウロフ(Denis Vinokourov)氏は指摘する。「ファンダメンタルズの重要性はなかったり、あっても低く、最終的には非常に混み合った勢いに任せたトレーディングの場となった」

しかし、そのような勢いは消え去ってしまったようだ。CoinDesk Reseachがまとめたデータによると、ドージコインはすでに5月中に値下がりしていたが、より小規模なミームトークンはある程度値上がりしていた。

それからひと月たった6月には、CoinMarketCapに掲載された10のミームトークンのほとんどすべてが、ドージコインと同様にマイナスのリターンを記録した。

TradingVireとFTXによると、ドージ価格は7月のこれまでの時点で、35.3%減少。時価総額トップのミームコインであるドージは、7月を値下がりで締めくくることになりそうだ。

飽和状態のミーム市場

ルンド氏によると、一度は大いに白熱していたミームコイン市場は、「新たな個人投資家の参入の減少」を一因とした、より幅広い市場における5月の急落以降、これまでにない売り圧力に直面している。

暗号資産市場において個人投資家が支配的なアジアでは、中国における暗号資産取引やビットコインマイニングの取り締まりも、ミームトークンに打撃を与えている。

中国の取り締まりは「人々が新たに市場に資金を投入することをより困難にしており、中央集権型取引所に対するさらなる規制の噂が、さらなる投資への懸念を増大させている」と、分散型デリバティブ取引SynFuturesのCEO、レイチェル・リン(Rachel Lin)氏は指摘し、次のように続けた。

「アジアのミームコイントレーダーの多くはマイナーでもあり、彼らは取り締まりへの対応と、損失の挽回に追われている」

ミームトークンの流行は「しばらく前に終わっている」と、香港にある暗号資産金融サービス企業アンバー・グループ(Amber Group)のアナベル・ファン(Annabelle Huang)氏は語った。「そして今はマイニングの禁止と(中国からのマイナーの)『大移動』の話題で持ちきりだ」

次なる大物を狙う投機的トレーダー

一部のアナリストは、ブロックチェーンゲーム「Axie Infinity」のここ数週間での台頭に見られる通り、ミームトークンの高リターンを一度は楽しんでいた投機的トレーダーが、次なる話題のプロジェクトへと移ったことは明らかだと考えている。

「今年の夏はこれまでのところ、暗号資産ゲームプロジェクトの夏となっている」と、ルンド氏。ゲーム分野も、ミームトークンと同様に過熱市場に直面している、あるいはこれから直面する可能性があると警告した。

Axie InfinityのトークンであるAXSは、先週のピーク時には時価総額が10億ドルを超えた。一方、フランスのビデオゲーム企業ユービーアイソフト(Ubisoft)の時価総額は約70億ドルだ。

「現時点で、強気筋は少し楽観的過ぎると言っていいだろう」とルンド氏は語った。

データサイトのメッサーリ(Messari)によれば、当記事執筆時点でAXSは、7月15日に記録した史上最高値の28.66ドルから46.3%安の15.4ドル付近で取引されている。

Synergia Capitalのビノコウロフ氏は、ひと月のビットコイン先物契約を使ったビットコインのキャリー取引がバックワーデーション(Backwardation)へと向かっていることを引き合いに出しながら、暗号資産に投資する代わりに、より多くの投資家は今のところ様子見状態になっていると語った。

先物価格と、年率換算でのスポット価格の違いが最近では著しく小さくなっているため、キャッシュ・アンド・キャリー取引は、トレーダーにとって魅力的ではなくなってきている。

キャッシュ・アンド・キャリー取引は、先物価格とスポット価格の差から利益を得ようとする裁定取引で、スポット(現物)市場で資産を購入し、先物市場が現物市場よりも大幅に高い価格(プレミアム)で取引されている時に先物市場で売り待ちポジション、つまりショートポジションを取る。

月ベースのBTC先物ローリングリターンの年率換算したものを示すグラフ
出典:Skew

ミームトークンが復活するには、暗号資産市場にはるかに力強い「リスクオン」ムードが必要となると、ビノコウロフ氏は指摘した。

遺産(そしていくらかの希望)を残して

しかし、ミームトークンの今後について皆がそれほど悲観的な訳ではない。

「これらのミームコインは投機以外にも、より幅広い暗号資産エコシステムにおいて、特にソーシャルメディアでのコンテンツに対するチップとしての使用で、大いなる勢いを見せている」と、暗号資産取引所オーケーエックス(OKEx)のCEO、ジェイ・ハオ(Jay Hao)氏は語った。「特に、ミレニアル世代とミームコインの関わりが興味深い」

ミームトークンのクリエイターとコミュニティーがより良いインフラを構築するのに貢献できれば、ミームトークンは単なるジョークや、トークンが象徴する文化を超えた「堅固なユーティリティトークン」になる可能性を秘めているとハオ氏は語った。

例えばドージコインコミュニティーは、期待外れの価格にも関わらず活発なままだ。ドージコインのコア開発者たちは5月末、取引総コストを下げるために、新しい手数料の仕組みを提案。

「ソーシャル」トレーダーやトレーディング初心者を主にターゲットとした取引所のeToroは先週、上場から2カ月足らずで、ドージコインが同取引所での保有数で第5位となったと報告した。

ドージコイン急騰の立役者であったマスク氏は今月、ドージコインにまつわるいくつかのツイートを発信したが、ドージコイン価格を押し上げる彼の力は、かつてほど強力ではない。

オーケーエックスのハオ氏は、暗号資産投資へのアクセスが限られていることは、ミームトークンに惹きつけられた暗号資産の初心者が投資を続けることに対して大きなハードルになると指摘した。

「(ETFなどの)伝統的手段を使ったり、銀行がカストディアンとなれば、より簡単な最初のステップとなるのだが」とハオ氏は語り、次のように続けた。「そうすれば、リターンは一晩ではもたらされず、長期戦によって利益を得られると理解した個人投資家が(中略)新進気鋭の(代替トークン)や(DeFi)に投資を続けることになる」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Chinnapong / Shutterstock.com
|原文:Meme Tokens Set for Third Straight Monthly Loss as Retail Traders Flee Dogecoin Copycats