有数の派生暗号資産であるビットコインSV(BSV=Bitcoin Satoshi Vision)は、激動の数週間に揺れ動かされた。
ネットワークへの攻撃
まず、6月24日、7月1日、6日、9日に、ネットワークに対して一連の攻撃が仕掛けられた。ユーザーの資金が失われたかははっきりとしないが、何者かがコインの二重支払いに成功したという事実が、市場参加者たちに動揺を与えた。
その数日後、ロンドンにあるブローカレッジのグラビティ(Gravity)は、「複数の大型取引所」における預け入れと引き出しの停止によって、流動性プロバイダーがBSVでのマーケットメイクを止めることを余儀なくされたとして、BSVの取引を一時停止。その後、グラビティでのBSV取引は再開されている。
7月20日には、バイナンスがBSVマイニングプールを月末で停止すると発表。バイナンスのBSVマイニングプールは、ネットワーク全体の8.2%に当たる、1秒につき0.044エクサハッシュ(EH/s)の演算能力を提供していると推定されている。バイナンスの撤退によって、BSVネットワークの取引を認証する演算能力が減少し、攻撃が一段と容易になる。
これら一連の事態は、BSV価格に大きく影響を与えているようだ。BSVは5月に記録した461ドルから73%も値を下げた。
各取引所の対応
BSVを立ち上げたのは、長年にわたって自らがビットコインの生みの親サトシ・ナカモトであると主張している、オーストラリアの実業家クレイグ・ライト氏だ。
一連の攻撃のずっと前から、ここ2年にわたって、クラーケン、オーケーコイン、コインベース、バイナンス、インデペンデント・リザーブ(Independent Reserve)とシェイプシフト(ShapeShift)の5つの取引所は、BSVの上場を停止していた。その理由はおおむね、ライト氏の行動、特に自らに批判的な人たちに対する訴訟であった。
nChainという会社の最高科学責任者を務めるライト氏は、取引所によるBSCの上場停止にも関わらず、訴訟を続けた。今年の6月には、Bitcoin.orgというウェブサイトに対してロンドンで起こしていた著作権をめぐる訴訟に勝訴。
自らが記したとライト氏が言い張る、サトシ・ナカモトによるホワイトペーパーを同ウェブサイトが掲載したというのが、提訴の理由であった。勝訴の一因は、サイトのオーナーCobraが出廷を拒否したことにある。
一方で、一部の取引所はBSV関連サービスを提供し続けている。ビットトレックス(Bittorex)では、BSVと法定通貨を交換することが可能であり、オーケーエックス(OKEx)とフォビ(Huobi)も、BSVとステーブルコインやその他の暗号資産との取引サービスを提供している。
BSVの開発と、BSV中心のスタートアップや企業をサポートする、スイスにある非営利団体、ビットコイン協会(Bitcoin Association)は、各取引所と活発に連絡を取り合い、「BSVの預け入れ、引き出し、関連機能の可能な限り早期の再開」をサポートしようと尽力中だと語った。
BSVとは?
BSVは、(ビットコインからハードフォークとして生まれた)ビットコインキャッシュ(BCH)からハードフォークした暗号資産で、そのブロックサイズは固定ではなく、市場の力によって決定される。
2017年の強気相場の頃、ビットコインネットワークでの取引手数料が高騰し、一部の取引は何日も処理されない状態となっていた。その一因は、マイナーに対する手数料を競わせることで、取引がブロックスペースをめぐって互いに競争するような、ビットコインの手数料の仕組みにあった。
これがビットコイン(BTC)の「スケーラビリティ問題」と呼ばれるものである。ネットワーク全体での使用量が高まると、手数料も高騰するのだ。
そこで、ビットコインコミュニティー内の一団が解決策を提案。ブロックサイズを大きくすることで、マイナーは各ブロックにより多くの取引を入れることが可能となり、それによって手数料が低く抑えられ、10分ごとに処理できる取引の数も増えると主張した。
しかし、この解決策は激しい反発を受け、ブロックサイズをめぐる議論は、ビットコインコミュニティー内の内戦に発展。最終的にはブロックサイズの維持を主張する勢力が勝利を収めた。
そこで2017年8月1日、ビットコインキャッシュがビットコインネットワークからハードフォークで分岐。ブロックサイズはそれまでの1メガバイトブロックから、8メガバイトブロックとなった。
しかし、分派したグループ内においても、変更の度合いについて意見が分かれた。ライト氏を筆頭とするグループは、BCHのブロックサイズでも十分ではないと考えたのだ。
そこで、ビットコインキャッシュからさらにハードフォークしてBSVが誕生。アップデート「クエーサー(Quasar)」によって、ブロックサイズは最終的に2000メガバイトブロックとなった。
新たに分派したBSVコミュニティー内の、多くの自由市場志向の人たちは、ビットコインから継承されたブロックサイズの性質について、次のように考えた。「ビットコインにはこれだけ多くの自由市場的性質があるのだから、ブロックサイズも自由市場の力によって決定したらどうか?」こうして、BSVにおいてブロックサイズの上限が完全に撤廃された。
攻撃の影響
ビットコイン協会によると、6〜7月にかけての一連の攻撃による被害の程度は明らかとなっていない。
「BSVの二重支払いがあったが、それがその他の参加者に被害をもたらした証拠はない」と、ビットコイン協会は主張。「攻撃者は自らの取引で二重支払いを行なった可能性もある」としている。
つまり、二重支払いによる「被害者」は名乗りを上げておらず、攻撃は金目当てのものではなく、単に混乱を与えることを目的としていた可能性があるのだ。
「損害は出ておらず、誰も何も盗まれてはいない。2021年7月9日以来、攻撃は起こっていない」と、ビットコイン協会は説明しているが、同協会は攻撃を一切容認せず、今回の攻撃の詳細な検証を続けているとしている。
「ビットコインSVのインフラチームは、攻撃に関連するアドレスの1つが、BTC、BCH、BSVに対するランサムウェア攻撃やその他の攻撃に長年関わってきたものであることを特定した」と、ビットコイン協会は説明した。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:What Is Going On With Bitcoin SV?