仮想通貨にも使用される分散型金融テクノロジーの広がりは、金融の規制・監督体制を進化させる必要性を強めている。福岡市で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議での議論は、金融ガバナンス体制をアップデートさせるための大きな一歩となった。
6月9日、G20の共同声明文には、新しい金融技術の導入が進む中で「広範なステークホルダーとの対話をどのように強化できるか」と述べられ、新たな体制をしくための基盤作りの必要性が認識された。
金融技術革新と共に、銀行を介さない分散型の金融の仕組みが生まれつつある。これまで金融サービスを受けられなかった人々に受益の機会を与える一方で、北朝鮮のハッカー集団による仮想通貨の盗難の可能性を指摘する国連報告書が発表されるなど、マネロンやテロ資金供与対策は急務となっている。
麻生太郎財務大臣は8日、G20のセミナーで「分散型台帳技術の更なる普及により、銀行なしに銀行の機能が提供されることが可能となるかもしれない」とした上で、分散型金融システムの下では、従来の規制を通じた金融安定性と利用者保護の実現は難しいと強調。遠藤俊英金融庁長官も、「規制だけに依存するアプローチが将来も持続可能であるかについて考えるべき時期にきている」と述べた。
米ジョージタウン大学の松尾真一郎教授によると、規制当局が公式に規制の限界を認めるのは異例という。
G20では当局による規制だけではなく、多様な参加者を含んだガバナンス体制の構築が求められるとして、8日には学者、技術者、中央銀行総裁などによるパネル討論が開かれた。
ビットコインの関連技術の開発を行うブロックストリーム社CEO(最高経営責任者)であり、著名な技術者であるアダム・バック氏は「信頼の最小化」という概念に言及。金融の仕組みを使うときに、他者を信頼せずともサービスが提供されるメリットを説明した。
例えば、銀行のサービスを受けるとき、銀行が破綻するリスクや銀行員による着服などのリスクは避けられない。現在のシステムには、リスクに応じた一定の利用者保護機能が組み込まれている。しかし、分散型金融の仕組みでは、銀行のような中間業者を介さなくとも、リスクを減らして金融サービスを受けられる。
「信頼の最小化」は、自律的に執行されるプロトコルによって成立する。他者を信頼するのではなく、プロトコルを検証することで、これまで必要だった信頼を不要にできる。
一方、金融安定理事会(FSB)副議長でオランダ中央銀行総裁のクラス・クノット氏は「完全な分散化は未だ実現していない」と述べ、規制当局の役割は依然として大きな役割を果たすと指摘した。技術的な視点と規制当局側の視点、双方の特徴が見られた討論だった。
FSBがG20の直前にまとめたレポートには、末尾に用語の定義がある。松尾教授は多様な参加者が議論するために用語の統一から始めたことを評価した。また、松尾教授はG20の会場で、金融当局に加えてブロックチェーン・エンジニアなどを含めたステークホルダーが今後、金融のルールを作ることになるだろうと話した。
文・写真:小西雄志
編集:佐藤茂