イーサリアムを基盤とした大人気ゲーミングプラットフォーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」。早くも空売りを始めるトレーダーが現れてきた。
データサイトのメッサーリ(Messari)によると、アクシー・インフィニティのガバナンストークンであるAXSの、年初以来の値上がり幅が7000%を超えていることを考えると、驚きかもしれない。ビットコイン(BTC)の年初以来の値上がりは約33%、イーサ(ETH)は212%となっている。
値下がりに賭けるトレーダーたち
アクシー・インフィニティはブロックチェーンベースのプロジェクトで、ファンダメンタルズもしっかりとしており、収益モデルも優れているにも関わらず、値下がりを期待するトレーダーの姿勢が、AXSトークンの価格に影響を与えるかもしれない。
「有頂天な群集心理が、評価額を極端に持ち上げたが、どんな過密な取引にも見られるように、アンワインドが起これば、価格変動は極めてボラティリティの高いものとなる」と、ロンドンにあるクオンツ金融管理企業Synergia Capitalのデニス・ビノコウロフ(Denis Vinokourov)氏は語る。「問題はマーケットのタイミングだ。市場の頂点のタイミングを見極めるのは、ひどく難しい」
各暗号資産取引所からのデータによれば、先物トレーダーたちは積極的にAXSでショートポジションを取り、AXS価格の値上がりは、まもなく下方圧力に直面すると見込んでおり、AXSの無期限先物市場は一貫してマイナスの資金調達率を見せている。
資金調達率とは、ある資産の無期限先物市場でロング/ショートポジションを持つコストを意味する。この数字は、無期限先物を提供する取引所が、市場のバランスを取り、無期限先物価格をスポット価格に導くために使われる。
プラスの資金調達は、市場が強気に傾いていて、ロングがショートに対してポジションをオープンにしたままにするために支払いをしていることを意味する。一方マイナスの場合には、無期限先物と結びついたトークンに対する弱気の心理を示唆する。
主要暗号資産取引所FTXと、バイナンスにおけるAXSの無期限先物の資金調達率は、マイナスだ。当記事執筆時点では、FTXのデータによれば、AXS無期限先物の1時間平均資金調達率は年率換算でマイナス42.92%。バイナンスでのAXS/USDT無期限先物の8時間ベースの資金調達率は、少なくとも14日間マイナスが続いている。
果敢な攻めの姿勢
アクシー・インフィニティが市場から良好な反応を受けていることを考えると、暗号資産トレーダーによるこのような値下がりを期待する姿勢は、奇妙に思える。同プロジェクトは、イーサリアムブロックチェーン上ではやくも収益トップのプロトコルになっているのだ。
Token Terminalのデータによると、アクシー・インフィニティはここ30日間でブロックチェーンベースプロジェクトすべての中で最高の収益を記録した。その収益は約1億4870万ドルと、1億7280万ドルのイーサリアムブロックチェーンそのものに次ぐ。
アクシー・インフィニティは「CEOを伴った会社であり、未公開会社を親会社に持つ。本物のビジネスモデルがあり、収益は急速に拡大中だ。AxieがAXSトークンを発行する前から、このような状態であった」と、投資運用会社アルカ(Arca)の最高投資責任者、ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏は述べ、次のように続けた。
「AXSトークンは、会社の成長を自力で促進するために発行されたもので、ほとんどすべての顧客やファンは、成長の初期にこのトークンを買うチャンスがあった」
TradingViewによる、バイナンスのAXS/USDTのデータでは、AXSトークンは5月19日の幅広い市場での急落からも回復している。
アナリストらは、AXSを見る暗号資産トレーダーと、アクシー・インフィニティプロジェクトに盛り上がる人たちとの考え方のかい離は、特に5月の市場暴落の後では、予想外ではないと話す。トレーダーたちは、リターンを最大化することを目指し、より攻めのトレーディング戦略を取る傾向があるからだ。
「暗号資産市場でも最も過酷な暴落の1つを目の当たりにしたばかりだった」と、ブロックチェーンリサーチ企業デルフィ・デジタル(Delphi Digital)のアシュワス・バラクリシュナン(Ashwath Balakrishnan)氏。「正直に言って、AXS価格が上がり始めた今月はじめには、みんな信じられないという感じだった。トレーダーの多くは、脈絡もない市場の動きに過ぎないと考えていた」
AXSの価格ピークを何度か逃した暗号資産トレーダーたちは、AXSがここまで急速に成長したことが「信じられない気持ち」と、「逃した分をすべて取り返してみせる」という考え方のバランスを取ろうとしていると、バラクリシュナン氏は指摘する。
「資産が放物線を描いて変動する時、多くの人たちは高値で空売りをしようとする。そこで新たな高値の度に空売りし始めるのだ」と、バラクリシュナン氏。「損失を出したり、未確定の利益を失った後であることを考えると、さらに多くを賭けて、より果敢に空売りをしたのだろう」
機関投資家 vs 個人投資家
暗号資産取引所オーケーエックス(OKEx)のレニックス・ライ(Lennix Lai)氏は、バイナンス、FTX、オーケーエックスにおけるAXSのアクティブ購入高とアクティブ売却高の間のロングとショートの比率が比較的均衡していることから、個人投資家よりも多くの機関投資家が、AXSにショートポジションを取っている可能性があると指摘する。
「ショートアカウントよりもロングアカウントの方が多い場合には、資金調達率はマイナスになるはずだ。ロングアカウントは個人投資家の、ショートアカウントは資金をヘッジする機関投資家のものだからだ」とライ氏は説明した。
マイナスの資金調達率が「予測不能な変動」につながる可能性があると語ったビノコウロフ氏とは異なり、ライ氏はロングポジションを取る個人投資家が、AXSの値上がり継続を助ける可能性を示唆した。
「アクシー・インフィニティは消費者主導のプロジェクトであるため、個人投資家からの大きな反応を見込んでいる」とライ氏。「ファンドがいくつかのショートアカウントを保有していたとしても、多くのロングアカウントによってAXSが上回る可能性があり、ロング-ショート率はプラスで、資金調達率はマイナスになるかもしれない」
オーケーエックスは7月28日、AXSマージン、預け入れ、USDTマージンの無期限先物を含む商品を立ち上げたと、ライ氏は語った。
しかし、市場はまだ初期段階にあることを一因として、さらなるデータがなければ、アクシー・インフィニティが現在の高いレベルで収益を生み出し続けるかどうかを見極めるのは難しいと、ビノコウロフ氏は指摘する。
市場参加者らは「大人気のものから別のものへと飛び移ることを、躊躇することなく行うだろう。今年初期のイールドファーミングブームと同じことだ」と、ビノコウロフ氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Ira Lichi / Shutterstock.com
|原文:Traders, Unswayed by Axie Infinity Hype, Are Aggressively Shorting AXS