イーロン・マスク氏、ジェフ・ベゾス氏、リチャード・ブランソン氏が地球を飛び出そうとする中、マーク・ザッカーバーグ氏は別の脱出計画に目をつけている。
米メディア「Verge」とのインタビューの中でザッカーバーグ氏は、「メタバース(仮想空間)」への貢献というフェイスブックの計画を語った。同社のバーチャルリアリティ部門「オキュラス(Oculus)」に根差しながらも、ソーシャルネットワークやアイデンティティという同社のDNAにも結びつく展開だ。
インタビューの中から、特に興味をそそる部分を紹介しよう。
「人々が使いたいと思うものを開発するだけでは不十分だ。チャンスを生み出し、経済的機会という点、社会的に皆が参加できるもの、包括的なものであるという点で、社会にとって幅広くプラスのものでなければならない。(中略)
製品を開発するというだけではない。エコシステムとなる必要がある。私たちが連携するクリエーターや開発者たちは、自分たちを支えるだけでなく、多くの人を雇用できるようにならなければいけない。
ゆくゆくは、何百万人もの人々が取り組み、そのためのコンテンツを生み出すものとなっていくことを願っている。エクスペリエンス、空間、バーチャルグッズ、バーチャルウェアなどを生み出したり、人々がキュレーションするのを助けたり、そういった空間を人々に紹介したり、そのような空間の安全を維持したりといったことだ」
ザッカーバーグ氏によれば、メタバースとはより統合されたメディアインターネットのことだ。小さなスマートフォンの中に生きたり、平らなZoomのスクリーンを見つめるのではなく、テクノロジーがあなたの頭の中に生み出すソーシャル空間を体現し、そこに生きるのだ。このような空間は、インターフェイスによって拡張され、アバターを仕事や遊びの環境へと送り込む場所なのだ。
SF小説を読む人にとっては、馴染みのある話だろう。そして私たちはゲームを通じて、非常にゆっくりとそのような世界へたどり着こうとしている。2021年半ばまでには、ゲームプラットフォーム「スティーム(Steam)」に約300万台のヘッドセットが接続される見込みだ。
価値のインターネット、ブロックチェーン基盤通貨のインターネット、ソフトウェアのインターネットについての話は出てこない。リブラ/ディエムが担保付き米ドル通貨となってしまったことを考えれば、より深いフィンテックとDeFi(分散型金融)のメタバースプラットフォームは、まだ極秘事項なのかもしれない。
ディエム(Diem):フェイスブックが主導して開発を進めるデジタル通貨で、構想が発表された2019年6月には、リブラ(Libra)と名づけられた。その後、ディエムに改名された。
もしくはそれは、フェイスブックとは関係ないメタバース参加者がもたらすべきものなのかもしれない。サッカーバーグ氏は、メタバースというグローバルコミュニティーは、オープンソースで相互運用性があり、何千もの第三者アクターに接続しなければならず、単独のプレイヤーが開発することはできないと語った。デフォルトでマルチプレイヤーなものなのだ。
「メタバースの優れたビジョンは、特定の企業が構築するモノではなく、相互運用性とポータビリティを持ったものでなければならないと考えている。アバターやデジタルグッズがあり、どこにでもテレポートできるようにしたい。1つの会社のものに閉じ込められたくはないだろう」
暗号資産ユーザーにとって興味深いのは、インフラの整備だ。デジタル世界にあるものすべてを演算処理する何かが必要だ。別の何かが、非許可型アイデンティティ、金融サービス、取引所を担当する必要がある。また別の何かが、すべてのデータを保存し、それを十億人の人々と1兆のロボットへと届ける必要がある。イーサリアムを理解している人なら、経済的観点からこの話がどこへ進んでいくか理解できるだろう。
しかし、フェイスブックにとっては、ソーシャルネットワーキングと夕日やディナーの写真を通じてつながる、部族的で大規模な感傷的人間心理についての話なのだ。そのような世界において、フェイスブックはログインを通じてアイデンティティを管理し、偽情報というモンスターに3万人を超えるスタッフと、計り知れないほどたくさんの機械学習アルゴリズムで立ち向かい、最新のエンターテイメントエクスペリエンスをまとめたオキュラスのハードウェアを売っている。
フェイスブックが将来的に、おそらく自らが作ったものではないだろうが、デジタルの分散型ブロックチェーン上に生きるとしたら、少なくとも分配と人間のドーパミン受容体を掌握し続けることができる。
アンドリュー・ヤン氏のようなユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)支持者の考えでは、ロボットはブルーカラーの仕事もホワイトカラーの仕事を自動化し、最も単調でいら立たしく、価値の低い感情的で最悪な仕事のみが残される。人々は発狂してしまうだろう。資本がロボットの所有者に集まるにつれ、社会的不平等が広がり続け、政府にはUBIの小切手を発行するしか道がなくなる。恐ろしい!これは確かに、私たちが向かっている方向だ。
少し視点を変えると、仕事に代わるものが生まれ始めていることに気づく。バーチャルの世界でお金を作ることをベンチャーキャピタル風にぴったり婉曲表現する言葉が「クリエーターエコノミー」だ。
バーチャルの世界が旧来の実体世界を打ち壊す格好の例は、クリプトベースのポケモンのようなゲーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」だ。昨年末以降、フィリピン、あるいはおそらく世界の他のどこであっても、アクシーをプレーして得られる報酬は最低賃金より高くなっている。
社会的、関係的、クリエイティブな労働を通じて人々が自らを表現する場所である「エコノミックメタバース」はすでに確立されている。次は、社会的ヒエラルキーの確立だ。
伝統的経済において、手にできる最高のシンボルは大学教育であった。1970年代以降、大学に通う学生の数はアメリカにおいて人口の約6%、2000万人へと2倍に増えた。しかし、大学進学は質の低いシンボルだ。トップレベルの報酬を得られるキャリアを手にするために自らを差別化する目的で達成するものとしては、難しさが十分ではない。
そこで、名声の輝ける星、トップレベルの私立大学群アイビー・リーグの登場だ。アイビー・リーグの学位に対する需要は高まり続け、最新の入学率は7%。10年前の11%から3分の1以上少なくなっている。
アメリカにおける大学学士レベルの教育は、学びというよりはシンボルだという仮説に同意するならば、アメリカにおけるトップ2万人分の大学のスポットは、ふるい分けを突破したことを示すバッジであり、手に入る可能性と比べてますます希少になっており、教育という「グッズ」そのものが商品化されているというのも納得だろう。
メタバースにおいてシンボルとなるものは何だろうか?
あなたのコミュニティー精神が、伝統主義を拒否し、自らのオンライン国家を樹立するというものだったとしよう。あなたはスーツを着た人たちにアレルギー反応を示す。あなたが保有する数百万ドルの資金は、インターネットフォーラム、ハッキングの仕事、DeFi投機で生み出されたとしよう。
あなたは先陣を切って正しいことをすることを大切にしており、それにはアクセスとキャピタルゲインを通じて見返りが与えられた。あなたのチームは、浅いかもしれないが市場を動かすことができ、あなたと仲間たちの集まりはDAO(自律分散型組織)と呼ばれる。
世界中から資産を集めて、力を合わせて、シリコンバレーの独占、ソフトウェアを演算処理するためにネットワークされたノード、落ち着かないツイートから自由なウェブを構築する。
そしてあなたは、1万のクリプトパンク(CryptoPunks)の旗を選ぶ。まだそんなにメンバーがいないのだから問題ない。それぞれのクリプトパンクはアバターで、経済的実体を裏づけるコミュニティーからの、正当性の証明だ。すべてはゲームとして始まる。人生のすべてはゲームなのだから。
ハーバード大学の学位と同じように、クリプトパンクの供給量も限られている。初期に参入した人たちにとって、クリプトパンクは手頃で民主的なものであったが、遅れてきたらそうはいかない。
最も安いパンクの値段は5万ドル。最も高価なものは1000万ドル以上の値段をつけて売られたが、値段に上限はない。新しい学生を受け入れるために少なくとも毎年数の増えるハーバードの学位とは違って、パンクは増えない。本家の人たち以外が入り込む余地はないのだ。供給は限られ、需要は高まる。メタバースにいるすべての人が旗を必要としているのだ。
しかし、大学のように、もっと多くの旗を作ることはできる。アイビー・リーグの空きは2万人分しかないが、2000万人の学生がいるのだ。最上のスポットはすでに埋まっている。そこで、遅れてきた人たちのために、もっと多くのシンボルを生み出さなければならない。次々とアバターが作られていき、様々なレベルの財産、文化、特権のシグナルを持った、すべての人に十分な数のアバターが生まれるまで作られ続ける。
方程式は非常にはっきりとしている。ツイッターのプロフィールで見栄えよく見えるデジタルアバター1万体の旗の発行には0.1イーサ(ETH)のコストがかかったが、価値はすばやく上昇し、投機的な値上がりとなる。
NFTゲームにおいて、参加のシンボルを皆が買っている。これは実際には参加料なのだ。メタバースにおける社会的資本と信用性を構築するための集団的ゲームが進行中である。もちろん、フェイスブックも参加したがるのは当然だ。私たちの互いとのつながりをデジタル化して、機械化し、武器化するのだ。
レックス・ソコリン(Lex Sokolin):CoinDeskのコラムニストで、ニューヨーク州ブルックリンにあるブロックチェーンソフトウェア企業、コンセンシス(ConsenSys)のグローバル・フィンテック担当共同責任者。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Metaverse’s Emerging Economics