DeFi(分散型金融サービス)は本当のところ、どれくらい分散化しているのだろうか?
この疑問は、ユニスワップ(Uniswap)がプラットフォーム上で、特定のトークンへの投資家のアクセスを制限したことで浮上した。この動きは、規制当局からの圧力への対応であったようだ。
暗号資産創業者たちのジレンマ – DeFi版
暗号資産界の外にいる人たちからよく発せられる質問がある。サトシ・ナカモトはなぜ、匿名であることを選んだのか?前進に貢献した人物として、なぜ歴史に名前を刻まないのか?
もちろんこの質問に、決定的な答えを出すことは私にはできない。しかし、これだけは言える。ビットコインの生みの親が、特定できる人物、あるいは集団であったとしたら、ビットコインはこれほどまでに成長できなかったはずだ。e-GoldやLiberty Reserveのように、誕生からまもなくして息絶えてしまったかもしれない。
規制当局が、身元の特定されたサトシ・ナカモトの自宅のドアを叩き、無認可の送金事業に対して停止通告を突きつけることもあり得た。「ネットワークは分散型」で、「私も、ノードオペレーターたちも顧客の資産を保管してはいない」と言ったり、「コードであって、アメリカ憲法修正第1条によって守られている」とサトシ・ナカモトは反論したかもしれない。しかし、このような場面における規制当局の権力を前にすると、そういったニュアンスは失われてしまうことが多い。
ここに、自動マーケットメーカーのユニスワップを作った人たちや、DeFi業界のプロトコル開発者たちにとっての教訓がある。
ユニスワップは分散型取引所だ。中央集権型の暗号資産取引所やウォレットとは異なり、顧客資産を保管することはない。理論的には、分散型コミュニティーに管理されており、コミュニティーのメンバーは、ネイティブトークンのUNIを使って、システムの財政状況やその他の要素についての投票を行う。
しかし先週、このプロトコルを立ち上げたユニスワップ・ラボ(Uniswap Labs)が、同社サイトにおける特定の資産の取引を制限すると発表した。「規制状況のシフト」を理由として、株式やその他の伝統的金融商品の価値に連動したトークンへのアクセスを制限したのだ。
この動きは、米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が、伝統的証券にペッグされたステーブルコインは、それ自体が監視の対象となる証券である可能性があると警告した後に起こった。
この動きによって、DeFiは突如、分散型の度合いを減らしたように見える。
DeFi支持者たちは、コインベースなど、カストディを行う中央集権型暗号資産取引所とウォレットに対して、アンチマネーロンダリング、顧客確認、そして証券関連の規制を課す方法を見出した規制当局は、分散型取引所への対応においてジレンマに直面するだろうと考えていた。
分散型取引所には、取り締まりの対象となる責任者がいないことになっているからだ。しかし、規制当局の発言に対するユニスワップの素早い対応は、これがあまりに楽観的な見方であったことを思い出させてくれる。
プロコトルは分散型かもしれないが、そのプロトコルでインターフェイスを実行する、特定可能な中央集権型の組織があり、圧力を受けて、その組織がアクセスをブロックできるのならば、分散型であるという性質には意味がないように見える。
規制にまつわるテスト
そこを超えては規制当局が干渉できない、あるいは干渉しない、分散化の境界があるのかもしれない。プロトコルのガバナンスの管理は、生みの親の手を離れ、ネットワークの決定を指針とするところまで進化する可能性がある。そうなれば、規制当局の対象範囲から外れる。これは、SECのウィリアム・ヒンマン(William Hinman)委員が2019年に発した、イーサリアムについてのコメントの中で示唆したことに近い。
そうだとすればそのアイディアは、ステーブルコインのダイ(DAI)を手がける分散型貸付プラットフォーム、メイカーダオ(MakerDAO)において大きく試されることになるのかもしれない。
メイカーダオを運営するメイカーダオ財団(MakerDAO Foundation)の創設者ルーン・クリステンセン(Rune Christensen)氏は先週、自律分散型組織(DAO)のメイカーダオにコントロールを完全に受け渡すと語ったのだ。
最初から完全に分散型のプラットフォームを立ち上げることは不可能であると創設者たちはすぐに理解したと、クリステンセン氏は説明した。システムが効果的に運用されるには、最初は財団の意思決定が必要であったが、創設者たちは参加・流動性・仕組みを構築し、ゆくゆくはプロトコルが独立して運用され得るようにした。
現在そのような方向に正式に動くことが、この先やってくると見込まれるステーブルコインの規制からダイを守るのに十分かどうかは別問題だ。米下院では7月28日、暗号資産とステーブルコインを規制するための「包括的な法的枠組み」を提供する法案が提出された。
アメリカ政府は今、DeFiに照準を定めているようだ。
ゲンスラーSEC委員長のメッセージとユニスワップの反応から間もなく、暗号資産トレーダーからの税収を増やそうとする新たなインフラ法案は、情報を要求するブローカーの定義に分散型取引所とピアツーピアのマーケットプレースを含めた。
中央集権型暗号資産貸付プラットフォームのブロックファイ(BlockFi)に対する、各州証券規制当局よる最近の一連の事業停止通告は、DeFiに対する同様の動きの先触れとなるのかもしれない。
これらの規制当局は、利子を生む暗号資産商品を投資コントラクトと見なし、中央集権型金融(CeFi)が提供するか、DeFiが提供するかに関わらず、証券取引法の対象になると考えている。
DeFiが規制当局にとって、法的、あるいは道徳上の課題を提起しないということではない。オープンソースコードの開発者たちは、トークンが管理する開かれたシステムにおいてソフトウェアを他の人たちが利用できるようにしている。ユーザーの資金や資産のカストディを行なっていない場合、そのような開発者たちを規制することによって、規制当局は越えてはならない大きな一線を越えていると多くの人たちが主張している。
別の場面では、ソフトウェアコードはアメリカ憲法修正第1条によって守られる、言論の一形態と認識されてきた。プロトコル・ラボ(Protocol Labs)のマルタ・ベルチャー(Marta Belcher)氏が指摘したとおり、規制当局による動きは、プライバシーの侵害に基づく市民的自由の侵害とみなされる可能性もある。
それでも、規制当局はやって来る。そうなると、サトシ・ナカモト流のやり方が唯一の解決策ということなのだろうか?プロジェクトを立ち上げるための唯一の方法は、生みの親が偽名を使って、隠れたままでいることなのか?
残念なことに、そのオプションすらもいまや使えないかもしれない。
偽名を使ったコードプログラマーが投資家の資金を持ち逃げした「Blue Kirby事件」が示した通り、市場は現在、素性を明らかにすることを求める傾向にある。投資家が、悪質な創業者たちから身を守るための最善の方法なのだ。
公から身を隠して何かを開発するという、サトシ・ナカモトの賢いやり方は、1回きり使えるものだったのかもしれない。知っている人はほとんどおらず、少なくとも最初は、ドル換算での価値という点で、あまり多くが絡んでいなかったからこそ可能になったのだ。
私からすれば、DeFi創業者たちは、サトシ・ナカモトが体現したこのと同じ独創的な精神を持っている。価値があり、長続きするものへと転換していく彼らの力が規制当局によって押しつぶされてしまったら、それは残念なことだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Money Reimagined: Can DeFi Stay Decentralized?