CoinDeskが特定の問題に関して、編集部として公式の見解を採用することはほとんどない。私たちは外部、内部からの幅広いオピニオン記事を掲載する方針を採っている。通常、ある話題に関して明確な公式見解を発表するのではなく、編集部による報道の幅広さとバランスによって、組織全体としての見解を提示する方針だ。
しかし今、米議会に提出されたインフラ法案の中で、物議を醸している暗号資産条項への修正案をめぐる審議を受けて、極めてまれな例外として、そのような伝統を破らざるを得ないと感じている。
CoinDeskは、民主党のロン・ワイデン上院議員(オレゴン州)、共和党のシンシア・ルミス上院議員(ワイオミング州)、共和党のパット・トゥーミー上院議員(ペンシルベニア州)が提案した修正案による変更を支持している。
しかし残念なことに、同修正案は採決に至らなかった。このような状況において私たちは、最終採決前に暗号資産条項が削除、あるいは十分に修正されない限り、インフラ法全体に反対票を投じるよう、議員たちに求める。
(当記事を仕上げている間に、共和党、民主党、財務省の間での妥協案が発表されたが、それが可決される可能性は確実と言うには程遠い)
この一括的な法案で規制されることになる、非常に複雑な暗号資産関連の問題に関しては、別個の適切に検討された法案で議論する方が好ましいと私たちは考えている。
イノベーションとプライバシーの危機
アメリカの老朽化したインフラを改善するために推定1兆億ドルを議会が調達することに対しては、賛否両論がある。私たちの立場は、その議論に解いてどちらかの側につくことではない。
この法案の強行通過が、デジタル時代において最も期待できるテクノロジーの1つにおけるイノベーションを抑制したり、さらに警戒すべきことには、アメリカ人が大切にする市民的自由を妨げることを代償として成し遂げられるれるべきではないと主張するだけである。
この法案には、アメリカの暗号資産ユーザーによる取引すべてを、プライバシーや権利を侵害するような警察による捜査網へと投げ入れる可能性があるのだ。修正なしで通過させれば、議会は面子を保とうとして、自らに不利益を招く結果となるだろう。
米議会は、インターネットが発展期にあった頃と同じように暗号資産を取り扱うべきだ。つまり、保護しなければ、イノベーションや、究極的にはアメリカにとっての税収を遠く離れた場に追いやってしまう可能性のある規制から守るべきなのだ。
議会が暗号資産の取り扱いを変更したり、明確にしたい場合には、2500ページにおよぶ包括的な法案の中でこっそりと規制の変更を通そうとするのではなく、そのためだけの専用の法案で行うべきだ。
原則として、暗号資産とブロックチェーンテクノロジーは、非許可型で透明性を持ったネットワークが運用するオープンソースソフトウェアの上に築かれている。
分かりやすく言うと、誰もがそのようなネットワークを使うことができ、誰もがそこで何が起こっているかを見ることができる。オープンなプラットフォームであり、そのために公益となる。そして、通貨システムという、おそらく最も不可欠な社会的インフラの形態を提供するというさらなる重要性も伴っている。
そのような公益を守ることは、21世紀における通貨の変容について報道するメディアとしての自らの責任であると私たちは考えている。第四階級(言論界)というコンセプトのアップデートと考えてもらえば良いだろう。
メインストリームのメディアが伝統的に、政府や大企業に適用してきたのと同様の公に対する説明責任を、オープンソースコードとボーダレスの情報ネットワークのガバナンスシステムに対して適用するのだ。
暗号資産テクノロジーは狭い個人的な利害から自由であり、イノベーションに対してオープンで、ユーザーが自らの権利を侵害されずに自由にアクセスできる形で開発されるべきだという見解を持って、私たちはこの業界を報じている。
インフラ法案の中の暗号資産条項は、暗号資産「ブローカー」がIRS(米内国際入庁)に対してユーザーの取引を報告するよう義務付けることによって、それら3つの原則のすべてを破ることになる。
その網羅的な文言は、テクノロジーの利用に対して過剰な影響力を行使する力を国に与え、それはイノベーションの可能性を制限するだろう。そして、電子フロンティア財団が警告する通り、「デジタルプライバシーにとって大惨事」となる。
「ブローカー」の定義をめぐって
問題は、オリジナルの条項にある「ブローカー」の包括的な定義にある。そのままでは、マイナー、ハードウェアウォレットのメーカー、プロトコルの開発者、そして顧客資産をカストディせず、そのためにアンチマネーロンダリングやその他の報告要件を免除されるべき他の組織を含むことになる。
条項の大部分は執行が不可能である。無料のオープンソースソフトウェアの開発者は、自らの製品を誰が使っているかを知る由などないからだ。運営者が顧客ベースを知っている場合には、ブローカーの定義は限定的な監視システムを、ずっと包括的で狡猾なものへと拡大する可能性がある。
結局のところ、この法案は逆効果なのだ。開発者やユーザーにアメリカを見捨てて、よりフレンドリーな法域へと向かうよう促すからだ。
もちろん、キャピタルゲイン税を負う暗号資産投資家たちは、金融システムで他の人たちが満たすのと同じ報告要件に従うべきだ。暗号資産業界は、課税がもたらす合法化から恩恵を得ることができるだろう。しかしこの法案は、現在の文言のままでは、あまりに行き過ぎなのだ。
この条項の欠点は、ワイデン・ルミス・トゥーミー議員による党派を超えた修正案によって十分に補うことができたはずだ。
この修正案は先週、ワシントンDCにある暗号資産利益団体のコイン・センター(Coin Center)、デジタル商工会議所(Chamber of Digital Commerce)、ブロックチェーン・アライアンス(Blockchain Alliance)、そしてデジタル資産管理協会(Association for Digital Assets Management)が率いた暗号資産業界による集団的ロビー活動の中でまとめ上げられたものだった。
修正された文言は、開発者、マイナーなどを適切に除外し、アメリカ憲法修正第1条によって守られている、開発者がコーディングする権利を自由に行使できるようにするものだった。
同修正案は、党派を超えた十分な支持を受けていた。しかし残念なことに、ホワイトハウスと財務省が乗り気ではなかったのだ。税収目標の280億ドルを達成できないことを恐れ、彼らは対立するワーナー・ポートマン・シネマ議員による修正案を支持。こちらの修正案は、マイニングやハードウォレットの提供業者にはある程度の免除をもたらすが、それ以上の免除はほとんどないものであった。
多くの点において、この修正案はプロコトルを区別することによって、事態を悪化させるものだ。規制の鉄則を破っているのだ。テクノロジーの使用ではなくテクノロジーそのものを規制しようとし、どのテクノロジーが成功すべきで、それが成功すべきではないかの決定に官僚の意見を挟み込むものだ。
ブロックチェーンプロジェクト、コスモス(Cosmos)の共同創業者イーサン・ブックマン(Ethan Buchman)氏は、このような文言の逆効果的な性質を鋭く指摘してみせた。
ワーナー上院議員によるオリジナルの文言は、プルーフ・オブ・ワークのマイニングは除外するがプルーフ・オブ・ステークは除外しなかったため、暗号資産開発者たちは修正案の要件に応えるために、プルーフ・オブ・ステークのコンセンサスメカニズムに、プルーフ・オブ・ワークの機能を明白に加えることができると、ブックマン氏はツイートした。
大局的な視点の必要性
CoinDeskが競合するテクノロジーの中で勝ち組と負け組を選ばないことは重要であり、政府がそのようなことを避けるのはさらに重要だ。
暗号資産テクノロジーやその他あらゆるテクノロジーを使う人が、法律の範囲内で確実に活動するようにさせる責任が政府にないと言っている訳ではない。妥当な規制がもたらす合法性から、業界も恩恵を受けることができる。
しかし議員らが、アメリカがイノベーションにとって肥沃な環境となることを望むならば、国内でイノベーションを起こす能力を新しい規制で潰さないようにしなければならない。さらに将来的な税収による見返りは、近視眼的な交通警官のようなアプローチのもとでよりも、活発な新しいエコノミーにおける方がずっと大きくなる。
アメリカ国内のインフラの哀れな状況を考えれば、議員たちがこの法案をどうしても通過させたいと考え、彼らにとっては難解でニッチな業界と思えるものに関する文言をめぐって停滞させたくないと感じるのも無理はないかもしれない。
しかしそれでは、安物買いの銭失いとなる。この法案はこのままでは現代の金融インフラの発展を骨抜きにし、それに伴う経済的メリットを損なうだけではなく、言論の自由と個人のプライバシーというアメリカの価値観を弱体化させることになるのだ。
マイケル J.・ケイシー(Michael J. Casey)はCoinDeskの最高コンテンツ責任者。マーク・ホフシュタイン(Marc Hochstein)はCoinDeskのエグゼクティブエディターである。
※見解は筆者ら個人のものであり、CoinDeskの編集スタッフ全員によって必ずしも共有されているものではありません。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:mark reinstein / Shutterstock.com
|原文:Against the US Senate’s Heavy-Handed Crypto Provision