米暗号資産(仮想通貨)取引サービス最大手のコインベース(coinbase)は、現地法人を通じて日本事業の準備を進める中、三菱UFJフィナンシャルグループとサービスの一部で提携することに合意した。約30の暗号資産交換業者がシェア争いを続ける日本市場に、北米メジャーが本格参入する。
コインベース(日本)は19日、三菱UFJとの決済パートナーシップの締結と、暗号資産の販売所取引サービスの開始を発表した。同社は今年6月、金融庁に暗号資産交換業者としての登録を完了している。
販売所取引(売買):コインベースなどの取引所が相対となる暗号資産の取引。客同士が行う取引は取引所取引(売買)という。
今回の提携を通じて、三菱UFJ銀行で口座を保有するユーザーはインターネットバンキングを通じて、コインベースのサービス上で法定通貨をコインベースの口座に簡単に入金できるようになる。
三菱UFJは2016年に、傘下のベンチャーキャピタルを通じてコインベースに出資している。2社は、コインベースの知見と技術を生かした国際送金などを含む広い分野での連携を模索してきた。
また、コインベースは今後、暗号資産の取引経験が豊富なユーザーを対象にしたモバイルアプリ「Coinbase Pro」のサービスを日本市場でも展開していく。さらに、機関投資家向けの「Coinbase Prime」サービスの開始も検討する。
ナスダック上場からさらに事業拡大
ブライアン・アームストロングCEOが2012年6月にサンフランシスコで設立したコインベース(Coinbase Global Inc)は、北米を中心に個人と機関投資家向けの暗号資産取引サービス事業を伸ばし、カストディ(資産の管理)事業などにおける収益も拡大させてきた。今年4月には、米ナスダック市場に株式を直接上場させ、暗号資産領域におけるM&A(合併・買収)も積極的に進めている。
現在では、2100人を超える社員が働き、世界中で事業を運営している。コインベースのユーザー数は約6800万人で、同社プラットフォーム上の資産総額は1800億ドル(約20兆円)を超える(コインベースのHPより)。
コインベースの日本法人代表を務めるのは北澤直氏で、モルガン・スタンレー証券の投資銀行部門に6年間在籍した後、フィンテック企業の経営幹部としてのキャリアを積んできた人物だ。
北米市場とは異なり、日本では機関投資家が暗号資産に投資できる環境が整備されていない。コインチェックやbitFlyer、ビットバンク、GMOコインなどの30弱の交換業者(取引所)は、個人を中心としたリテール需要に対してサービスを展開している。
日本事業をけん引する北澤直氏
「コインベースのミッションは世界中で経済的自由を高めていくこと。経済規模や暗号資産の市場規模を考えると、日本を抜きでは語れない」と、北澤氏はcoindesk JAPANのインタビューで述べた。「米国を中心とする暗号資産取引市場では、機関投資家が参入する動きが強まってきた。このトレンドはこれからも続いていくだろう」
コインベースが日本市場で事業規模の拡大を進める上で、北澤氏は同社の強みの一つである安全性(セキュリティ)を国内のユーザーに提供していきたいと話す。暗号資産が日本において一つの資産クラスとして確立されるには、業界全体のセキュリティ水準を向上させることが不可欠だ。
「最も信頼され、最も使い勝手の良いサービスを展開することは、我々の最も重要な戦略の一つ。コインベースが築いてきた暗号資産セキュリティのグローバルスタンダードを日本でも活用していきたい」(北澤氏)
コインベース(日本)は当面の間、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ステラー(XLM)の5種類の暗号資産を対象にサービスを進めていく。同社は今後、取り扱う暗号資産の種類を増やしていく方針だ。
日本と欧米市場とのギャップ
日本では、生命保険会社や年金基金などの機関投資家が暗号資産市場に参入する見込みはたっていない。アメリカやカナダ、ドイツ、スイスなどでは既に、ビットコインやイーサリアムを中心とした投資ファンドが機関投資家向けに組成されてきている。
北澤氏は、「暗号資産価格の安定性には、機関投資家の参入は重要だろう」と述べた上で、「機関投資家が安心して参入できる(日本の)市場作りに貢献していきたい。セキュリティ面で市場整備をサポートできると思っている」と話す。
コインベースは既に北米市場を中心に、事業会社向けの取引サービスを展開している。個人顧客の取引手数料が収益の柱ではあるが、事業会社を対象にした取引サービスからの収益も増えている。
同社が開示した第1四半期(1~3月期)決算の報告書によると、取引手数料の純収入の合計は15.4億ドル(約1680億円)で、前年同期の1億7200万ドルから10倍近く増加した。そのうちの9割を占める14.55億ドルは、個人顧客(リテール)を対象にした手数料収入。
一方、事業会社(インスティテューショナル)からの取引手数料収入は、同四半期で8540万ドル。前年同期の1000万ドルから8倍以上に膨れた。
それぞれの暗号資産のプロトコルは、それぞれが目指すビジョンや役割、社会的意義を基に開発作業が行われている。北澤氏は、「日本の投資家がそれぞれのプロトコルの特性、ビジョンを理解できるような努力をしていきたい。理解が深まっていけば、多くの投資家は暗号資産の価値を理解するようになるだろう」と話した。
|インタビュー・文・編集:佐藤茂