アマゾン、ブロックチェーンでトップ企業を魅了する──ネスレ、アクセンチュアの次はソニー・ミュージック

クラウドサービスで世界シェアNo.1のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS) が、独自のブロックチェーンサービスでグローバル企業を魅了している。

食品・飲料で世界最大級のネスレ(Nestle)、コンサルティングのアクセンチュア(Accenture)、通信やメディア事業でコングロマリットを形成するAT&Tは、これまでにAWSのブロックチェーンサービス「Amazon Managed Blockchain」の利用を始めてきた。そしてまた新たにソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)がそのユーザーリストに加わった。

SMEは音楽の権利情報を素早く処理する基盤を作るために、AWSが5月2日に日本での提供を開始したばかりのブロックチェーンサービスを活用していく。アマゾン ウェブ サービス ジャパンが6月11日に明らかにした。

楽曲などのデジタルコンテンツは誰でも創ることができ、今では簡単にインターネット上で発表することができるようになった。一方、クリエイターは独自のコンテンツの権利を処理する業務に忙殺され、コンテンツの生産性を下げざるを得ない現実に直面している。

価格優位性とシンプルさ

5月14日(現地時間)、ニューヨークで開かれた「Consensus2019」に出席したラフル・パタック(Rahul Pathak)氏(写真:CoinDesk Japan)

AWSでブロックチェーンの担当ゼネラル・マネージャーを務めるラフル・パタック(Rahul Pathak)氏は5月、CoinDeskがニューヨークで開いた「Consensus2019」カンファレンスで、Amazon Managed Blockchainのセールスポイントは、オープンソースのハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)やイーサリアム(Ethereum)を使用して簡単にブロックチェーンのネットワークを作れることだと説明した。

SMEは以前からクリエイターと音楽の権利情報をどう守るべきかを模索してきた。今回、SMEがAmazon Managed Blockchainを採用した理由として、ソニーミュージックグループの情報システムを支援するソニー・ミュージックアクシス執行役員を務める佐藤亘宏氏は、「他社と比較した場合に安価で開発できること」と述べている。

価格の優位性とシンプルな操作性は、他のグローバル企業がAWSの同サービスを採用する決め手の1つになっているのだろう。

食品・飲料の巨大企業

(写真:Shutterstock)

スイスに本社を置き、コーヒーや乳製品、ミネラルウォーター、チョコレートなど多くの食品を製造するネスレは、Amazon Managed Blockchainを活用する1社だ。

パタック氏はニューヨークのカンファレンスで、「(製品の)サプライチェーン上のすべての取引を記録するためのインフラを自前で持ちたいと考える企業はいないだろう」とした上で、複数のプレイヤーが参加できるブロックチェーンの有用性を強調し、多数のプレイヤーと取引を行うネスレの利用例を説明した。

同氏は、「サプライチェーンの99%を握っている企業ならば、中央集権型の仕組みで良いだろう。しかし、それぞれのプレイヤーがそれぞれで取引のコピーを持ち、何が起きたかを検証しようとする時、ハイパーレジャー・ファブリックのブロックチェーンがその役割を発揮するだろう」と話す。

世界最大級の小売企業のウォルマート(Walmart)やフランスのカルフール(Carrefour)などの欧米の大企業も同様に、ブロックチェーンを利用してサプライチェーンの透明性を高めることで、商品供給に関わるコストや時間の短縮を図っている。

今回のSMEによるAmazon Managed Blockchainの採用は、AWSにとって日本市場における象徴的なユースケースになった。クラウドサービスで世界シェア2位のマイクロソフトは、同社のブロックチェーン開発キット「アジュール・ブロックチェーン・ワークベンチ(Azure Blockchain Workbench)」で攻勢をかける。グーグル(Google)もまた、ブロックチェーン企業と提携して、グーグル・クラウド上でブロックチェーンフレームワークを提供する。

エンタープライズ・ブロックチェーンにおいても、世界の巨大デジタル・プラットフォーマーはその勢いをさらに強めそうだ。

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文:佐藤茂
写真:Shutterstock