ビットコイン(BTC)が46000~47000ドルを維持する中、強気相場の維持を予想する一部のビットコインマイナーは、マイニング機器を手放さないでいる。
「供給できる機器があるのは知っている」と、ビットコインマイニング・ホスティングを手がけるコンパス・マイニング(Compass Mining)のビンセント・ヴォン(Vincent Vuong)氏は話す。「多くの人と話をした。彼らは数千ユニットを抱えているが、誰も売る気はない」
中国の暗号資産マイニング取り締まりによって、マイニング機器価格は数カ月前に急落した。しかし、ビットコインの最近の強気相場のおかげで、機器は現在、割高で取引されている。
ビットコインはここ数週間、今年に入って最大級の値上がりを記録。将来的なマイニング機器の価格に対しても、売り手は自信を強めている。
マイニング機器の先物市場
ビットメイン(Bitmain)やマイクロBT(MicroBT)などのマイニング機器メーカーは、顧客が機器を予約注文し、事前に設定された日付に将来機器が配達されるような先物契約を結ぶことを可能にしている。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、国際的物流に遅延が生じ、機器製造のための素材のサプライチェーンがひっ迫したことで、このような先物契約の慣習はますます一般的となった。
さらに、台湾のTSMCといった主要チップメーカーが抱えるビットコインマイニング機器メーカー向けのチップの割当量は、比較的に少ない。
マイニング機器の先物市場とスポット市場どちらにおいても、マイニング機器価格に大きな値上がりが見られ、ビットコイン価格に対するマイナーの強気な見込みを示唆していると、業界関係者は指摘する。
そのために、マイナーとブローカー、さらにはビットコイン価格や、電気代などの機器の収益性に影響を与える要因に基づいて取引を行う投機的トレーダーから成る、ダイナミックな先物契約市場が生まれている。
「ビットコイン市場の動向の目安となる主要指標の1つは、マイニング機器の先物市場である」と、マイナーホスティングサービスを手がけるマイリグ(MyRig)のフランキー・フー(Franky Hu)氏は話す。「マイニング機器の先物契約が現行価格よりずっと高くなった場合には、マイナーが、マイニング事業の利ざやを増大させることにつながる、ビットコインの値上がりに賭けているということだ」
マイニング企業ルクソール(Luxor)の機器価格インデックスによると、流通スポット市場全体でのマイニング機器の価格は、7月に底値をつけたように見える。その後、3週間連続で値上がりしている。様々なマイニング機器の価格は8月下旬、平均で7.5%値上がり、回復以来最も大きな値上がり幅を記録した。
流通市場におけるマイニング機器価格の上昇率は、マイニングにおけるより高い利ざやにつながるような、強気のビットコイン価格の見通しに基づいて買い手が機器に価格を付けているからだと、ルクソールのCOO、イーサン・ベラ(Ethan Vera)氏は話す。
機器価格は、機器そのものの価値だけではなく、機器がマイニングできるビットコインの価格に対する市場心理が影響する収益性の見込みによっても決まる。
「(8月下旬の)3週間で、機器価格はビットコイン価格を上回って上昇している。現在の経済性だけではなく、将来的な心理にも基づいていることが示されている」と、ベラ氏は指摘した。
上昇傾向
ビットコインは9月上旬に再び、5万ドルを突破し、5週間連続で値上がりを記録している。これは、過去9カ月間で最長の週間値上がりの継続だ。
「ビットコイン価格が上がれば、保有する機器を売る動機を持つ人はいない」と、ヴォン氏は話す。「上昇する可能性が大いにあるのだから」
マイナーやブローカーはこれまで、上手くタイミングを図った取引によって、ビットコインの値上がりから大きな利益を上げてきたと、ヴォン氏は語る。
例えば、ビットメインの最も古いモデルのマイニングマシーンの1つであるS9は、昨年の強気相場の前には最大20ドルで売られていた。しかし、2020年後半の値上がりのピーク時には、同じ機器が30〜35倍高い600〜700ドルで売られていたと、ヴォン氏は述べた。
マイニング機器の取引は、時間と共にますます戦略的なものになっている。ハードウェアを取引する人は、ビットコインを購入、保有する人よりも多くの利益を上げることができていたかもしれないと、ヴォン氏は示唆した。
一時的な弱気市場においても、一部の売り手はホスティングサイトでマイニング機器を運用し、強気相場が復活するのを待つ方を選んでいる。そうすれば日々の利益が入り、弱気市場が過ぎ去るのを待つ時間を稼ぐことができると、ヴォン氏は述べる。
さらに、売り手は通常、すでに電源に接続された機器の方がより高値で売ることができる。「実際に使われている機器は、倉庫で眠っているものより価値が高い」とヴォン氏。
落ち着きを取り戻した中国マイナー
ルクソールのベラ氏によれば、中国のマイナーがマイニング禁止後の最初の数カ月で積極的に売却し、市場では中古機器の供給過剰が引き起こされた。
中国国務院が5月、暗号資産マイニングと取引の全面的禁止を呼びかけたことで、中古マイニング機器に巨大市場が生まれたと、ベラ氏は話す。
大手中国マイナーの一部は取り締まり前、超巨大マイニングファームを運営し、1秒当たり1エクサハッシュ(EH/s)以上のハッシュレートを生んでいた。取り締まり後には、約100万台のマイニング機器が中国でオフラインになったと、ベラ氏は推計する。
エクサハッシュとはマイニング機器の演算能力の単位である。マイニング機器は、新しく作られたビットコインをマイニングするために、数学の問題を解決するために使われる強力なコンピューターであり、ビットコイン取引の処理も行う。
「禁止によってマイナーは、機器をすべて停止させることを余儀なくされた。つまり、毎日何百万ドルもの損失を出す可能性があったのだ」とベラ氏。
しかし現在、マイナーはより長期的視点で物事を考えている。「マイナーは中国で全体的に、禁止直後よりも忍耐強くなり、落ち着いてきている」と、ベラ氏は指摘する。「彼らは今年は収益性が出ないという事実を受け入れ、この先どのように事業を展開していくかについて考えることに多くの時間を費やしている」
ビットコインマイニング機器の裁定取引
中古機器の巨大市場には、ブローカーが機器を売却できる見込み価格にビットコイン価格を織り込むことを可能にする、価格裁定のメカニズムが存在する。
中国時間で毎朝11時、中国のブローカーたちはマイニング機器の価格をアップデートし、その情報を北米のブローカーに伝える。その毎日のアップデートにより、マイナーやブローカーは、わずか数時間で、ビットコイン価格を機器価格に織り込むことができるのだ。
「ビットコイン価格が上がると必ず、機器価格もそれから数時間で上がる」と、ヴォン氏は述べる。「2者の関係が非常に良好でない限り、売り手が買い手との取引価格を1日以上変えずに契約を履行することはない」
機器価格を上げるのにはわずか数時間しかかからないかもしれないが、ビットコイン価格の値下がり後に機器価格が下がるのには通常、2〜3週間かかるため、売り手は価格を調整するのに十分な時間を持つことができる。
「ビットコインが約3万ドル付近まで落ちても、ハードウェア価格が下がり始めるには3〜4週間かかった」と、ヴォン氏は言う。
しかし、マイニング機器を保有し続けるリスクはまだ存在する。マイニング機器は時間と共に摩耗し価値を落とす傾向にある。マイナーにとっては、機器を運用する場所を見つけられなければ、倉庫に大量の機器を眠らせることで損失を出すリスクがある。
「ビットコインマイニングには今、多くの戦略が必要だ」と、ヴォン氏は述べる。「やり方はいくつもあり、どれだけの資金を持っているかよりも、将来的な計画と戦略が優れていることの方が重要になってくる」
静かな復活
中国のマイナーが機器の売却を停止したもう1つの理由は、中国の特定の地域において機器を復活させ、ビットコインをマイニングできるようになったからだと、中国の2つのマイニング企業は説明した。この2社は、中国における暗号資産マイニングの法律や規制を理由に、匿名での取材を希望した。
「オンラインに復活したハッシュレートの規模、中国国外に移転したマイナーの大半はいまだに、マイニング施設の建設中であることを考慮すると、少なくとも合計で数百メガワットの能力を持つ中国の一部のマイナーが、マイニングを再開したと考えている」とある情報筋は語った。
より多くのマイナーがオンラインに復活するのに伴い、世界的なハッシュレートが増加したことを受けて、ビットコインのマイニング難易度は8月25日、最新の2週間ごとの調整において13%増加した。今回の調整は、7月以来最大規模のもので、上方調整は3回連続となった。
一方、別の情報筋は、中国南部の雨季が終われば、中国のマイナーがマイニング機器を売却する可能性が高くなると指摘する。
アーケーン・リサーチ(Arcane Research)のデータによると、ビットコインハッシュレートの14日移動平均は100EH/sを上回る水準を保っている。これは、低水準の頃より25%高い。
しかし、BITマイニング(BIT Mining)など、中国から移転する大手中国マイニング企業はそれほど速くは復活しておらず、中国外のマイナーは依然、より多くのハッシュレートを追加するための新施設の建設に追われている。
BITマイニングは、中央アジアと北米の新しい施設に何千台ものマイニング機器を配備中であるが、同社のハッシュレートのうち、1秒当たりわずか数百ペタハッシュ(PH/s)しか復活してはいない。同社の理論上の最大ハッシュレートは、1425.3PF/s(1.42EH/s)である。
一方、個人運営や小規模のビットコインマイナーは、中国政府による暗号資産マイニングの取り締まりに対して、ポジティブな未来の見通しを持つようになっている。
「イーサリアムGPUマイニング機器の使用は中国で禁止されてはいないため、ハッシュレートの一部は中国内で復活するかだろうと考える中国のマイナーも存在する」と、ベラ氏は言う。「今年末までに、数百メガワットは中国でオンラインに復活できると考えるマイナーもおり、そのことが中国のブローカーやマイナーの心理を強めている」
ファミリーオフィスなど、新たな企業プレイヤーがビットコインマイニング業界に参入するのに伴い、長期的にはマイニング機器価格はさらに値上がりする可能性があると、マイリグのフー氏は話す。
電力会社から不動産会社、ファミリーオフィスに至るまで、様々な非暗号資産系企業が、収入源の多様化のためにビットコインマイニングに目をつけている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Bitcoin Miners Hold Onto Rigs, Betting the Bull Run Will Continue