ビットコインが5万ドル付近をうろついている間、イーサリアム(ETH)は5月につけた過去最高値の更新に向けて順調にプラスを積み重ねている。背景にあるのは、8月5日に行われた大型アップグレード「ロンドン」だ。
バーン(償却)されたイーサリアムが思った以上に多く、需給逼迫要因になっていると考えられる。
EIP-1559の効果抜群
取引コストの高騰が問題となっていたイーサリアムにおいて、ロンドンの中でも手数料システムの改善や供給量にデフレ圧力をもたらす改善案「 EIP-1559」がとりわけ注目されている。そして、実際EIP-1559はマーケットにも大きな効果をもたらしたようだ。
EIP-1559のモデルでは、「基本手数料(base fee)」という概念を導入し、取引の優先度を上げるために基本手数料とは別にマイナーに「チップ(Tip)」を支払う選択肢を与えることにした。肝は、基本手数料の部分はマイナーには支払われず、バーン(焼却)されることになるという点だ。
この結果、実に8月に15万5000ETH(約600億円)がバーンされた。これは、ETHの新規発行額の43%に当たる量だった。
また、ETHをバーンしたトップ10プロジェクトを見てみると、49%がNFT(ノンファンジブル・トークン)プロジェクトだったことが分かる。8月は第2次NFTブームと呼んで良いほどのNFTの盛り上がりがあったことから、当然の結果と言えるだろう。
手数料のボラティリティを削減
EIP1559は、決して取引コストを削減するものではないが、取引コストのボラティリティ(振れ幅)を下げるように設計されている。つまり、イーサリアムの利用者は、想定以上のガス代(手数料)を支払う心配をしなくてよくなるのだ。
実際、「ロンドン」を受けて、8月にETHの平均手数料のボラティリティは従来の736%から428%に低下した。
将来的に、いつNFTへの需要が低下し、それに伴いバーンされるETHの量も減るのかを見通すことは難しい。しかし、直近の期間でバーンされた量と手数料の変動、NFTへの需要の拡大などをみていると、今後もイーサリアムへの強い需要は維持されるのではないかと感じる。
そして、仮にバーンされる量が発行量を上回るとなると、イーサリアムはデフレ的な資産(ETHの相対的な価値上昇)への道を辿ることになるかもしれない。
千野剛司:クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)代表──慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社し、2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。
※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。
|編集・構成:佐藤茂
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