インドの暗号資産(仮想通貨)エコシステムが投資家の注目を集めている。インドは先日、ブロックチェーンデータ分析会社のチェイナリシス(Chainalysis)が発表した2021年版「Global Crypto Adoption Index(国際的暗号資産普及インデックス)」において、2位にランクインした。
Vauld(2500万ドル)、GoSats(70万ドル)、Biconomy(900万ドル)、Mudrex(250万ドル)などをはじめ、多くのスタートアップが資金調達を成功させている。
インドで暗号資産スタートアップが調達した資金は1億ドル(約110億円)の大台を突破。初の暗号資産ユニコーン企業のCoinDCXや、初の大きなプロトコルプロジェクト「ポリゴン(Polygon)」も存在する。
DeFiが成長を後押し
このような成長と投資家からの関心の大きな理由は、分散型金融(DeFi)の台頭だ。DeFiによって遂に、インドの才能ある開発者たちに相応しい、技術的で中核的な暗号資産プロダクトがもたらされたのだ。
DeFiの国際的な普及は最高潮に進行しており、現在の預かり資産は900億ドルと、世界中の開発者の関心を集めている。インドのエコシステムは現在、プライバシースタック、プロトコル、分散型取引所(DEX)、自律分散型組織(DAO)などのプロダクトを生み出している。
レイヤー2プロトコルのポリゴンが、高騰する手数料や、1秒間当たりの取引数の少なさ、低質なユーザーエクスペリエンス(UX)といったイーサリアムが直面する問題へのソリューションを提供する中、DeFiはポリゴンの成長を後押しした。
より高速で安価な取引を可能にすることで、ポリゴンは急速に普及し、世界中の投資家からの注目を集めた。これによって、似たような中核的暗号資産ソリューションを開発するインドの各プロジェクトの関心も引いたのだ。
さらに、ポリゴンのチームは現在、インドの他のブロックチェーンスタートアップに対して、資金とネットワークのサポートも提供し始めている。
「アルカナ・ネットワーク(Arcana Network)は、ポリゴンのチームから大きな助けを借りた。プロダクトの信頼性を生んだり、エコシステム内でのネットワークの開発などで指導をしてもらったのだ」と、アルカナ・ネットワークの共同創業者アラビンド・クマール(Aravindh Kumar)氏は語った。
アルカナは開発者にプライバシースタックを提供するプロジェクトで、先日は米コインベース(Coinbase)の元CTOをはじめとするエンジェル投資家らから、37万5000ドルの資金を調達した。
苦境を乗り越えて
このような新たな中核的暗号資産開発へのフォーカスは、2020年以前に多くのスタートアップが直面していた厳しい状況とは大いに対照的だ。実現可能なビジネスモデルは暗号資産取引所の運営だけであり、中核的テクノロジー関連の企業は、投資を惹きつけるのに苦労していた。
インドの銀行による暗号資産取引を禁じた2018年のインド準備銀行による通達の実施により、既存のスタートアップのための資金調達エコシステムはさらに困難を極めた。
インドのベンチャー企業や投資家は常に、自らの銀行口座が規制当局に取り押さえられることを恐れてきた。さらに、2018年の新規コイン公開(ICO)ブームが暗号資産プロジェクトは「詐欺」であるという考えを広め、これはインドの規制当局も幅広く共有していた考えだ。
「銀行の大半は、私たちのアイディアが暗号資産取引詐欺の1つであると考えて、私たちとの取引を断ってきた」と、暗号資産集積アプリ「GoSats」の共同創業者ムハンマド・ロシャン(Mohammed Roshan)氏は語った。
「我々のようなスタートアップの大半は、システムが合法で、高い価値が生み出される海外市場を検討し始めた」と、暗号資産貸付・借入プラットフォーム、Vauldの共同創業者兼CEO、ダーシャン・バシジャ(Darshan Bathija)氏は話す。
暗号資産業界は、銀行や金融機関との取引における制限に苦しんだが、2020年3月、インドの最高裁判所がインド準備銀行による禁止令を覆し、状況は一転。強気相場の開始とともに、スタートアップにとってのチャンスと成長の範囲が広がったのだ。
「投資家からブロックチェーンスタートアップへの資金の流れは、ビットコインが2020年12月に当時の史上最高値2万ドルを更新した後に、加速した。市場における強気サイクルが迫っていることのサインであり、投資家はチャンスを逃したくはなかった」と、ステーブルコインインデックス「DeFiDollar」の共同創業者シッダールタ・ジェイン(Siddhartha Jain)氏は語った。
暗号資産価格の高騰が、インドにおける普及のペースを加速させたのだ。一方、外国のファンドからの資金の流れも増加し、スタートアップによりプロジェクト開発を後押しした。
規制の不透明感による国内投資の不振
しかし、外国の投資家たちの熱意とは対照的に、インドのベンチャーキャピタリストや投資ファンドの参加は比較的低調なままだ。その主な理由は、規制上の不透明感である。
「インド国内の資金調達エコシステムは、規制の不確実性という現状のために慎重なステップを取るベンチャーキャピタル企業によって抑えられている」と、Biconomyの共同創業者アニケット・ジンダル(Aniket Jindal)氏は指摘した。
「国際的な投資家の投資アプローチは、暗号資産分野をより理解した長期的な観点からのものだと言えるだろう。対するインドの投資ファンドは、リターン予測や規制遵守といったものに縛られているかもしれない」と、Vauldのバシジャ氏は語る。
つまり、規制の明確さに加えて、インドの投資企業にはプロジェクトのファンダメンタルズをしっかり理解・評価することが必要なのかもしれない。
規制上の不透明感による資金調達の困難に対処するため、ポリゴンのようなすでに確立されたプロジェクトが現在、新興プロジェクトのために独自の基金やサポートシステムを構築している。
同時に、エコシステム全体が、政治家や政府当局の意図を読み解く助けとなるような、インドの暗号資産法案の登場を待ち望んでいる。インドがブロックチェーン業界を率いる中心地となるために、業界は政府から進歩的な規制が近々提案されることを願っている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:saisnaps / Shutterstock.com
|原文:India’s Crypto Startups Come of Age, Despite Uncertainty