貸付プロダクトを計画するコインベースに対する米証券取引委員会(SEC)の警告、ビットコイン(BTC)マイニングに対する中国の取り締まり、上院銀行委員会での公聴会、英金融行動監視機構(FCA)によるバイナンスへの警告……。世界中の大半の地域では今年、暗号資産(仮想通貨)に対する規制当局の取り締まりが相次いでいる。
金融界の情勢や規制当局による監視に詳しい人にとっては驚くようなことではない。
暗号資産規制は長らく整備の途上にあり、いまだにあるべき姿にはほど遠い。振り返れば、その原因は暗号資産業界自体にもある。暗号資産業界において、把握しきれていないいくつかのポイントがあるのだ。
インターネット発展との決定的違い
2000年代初頭、情報へのアクセスを民主化することで、インターネットとモバイルコミュニケーションがデータのやり取りをディスラプト(創造的に破壊)した。
今、次なるステップは、資本へのアクセスを民主化することによって、価値の交換をディスラプトすることだ。このディスラプションは、ペイパルなどのオンライン決済システムが生まれた約20年前にそのルーツを持ち、デジタル銀行への門戸を開き、個人銀行のディスラプションへとつながった。
現在でも、ブロックチェーンと人工知能(AI)を伴って続いており、投資銀行や資産運用会社に対して同じような影響をもたらすだろう。しかし、類似点はそこまでだ。
暗号資産業界では、ブロックチェーンや暗号資産の進化を、インターネットの発展になぞらえる傾向があるが、把握し損なっている重要な違いが1つある。インターネットは、規制の真空状態の中でディスラプトを行ったという点だ。
政府がビッグデータ業界を規制し始めるのには、約20年かかったのだ。このような監視の緩やかさのおかげで、開発者たちが信じられないようなスピードで創造、進化、革新することが可能となったのだ。
一方、銀行、投資、支払いサービスなどを含めた金融の世界は、厳しく規制を受けており、2008年の金融危機を受けてその傾向はさらに強まった。例えばアメリカでは、クレジット関連の行為が、医療業界よりも最大で3倍も規制されている。そのため、暗号資産関連企業がすんなりとメインストリームの普及にたどり着けると考えるのは甘い。
暗号資産の成功だけではなく、その生き残りを望むならば、業界がまずはエコシステム内の現在の問題点を認識し、規制についての議論の最前線につくことが不可欠だ。
若い業界には厳しい規制の負担
暗号資産のように若い業界が、一流の投資銀行でさえも遵守が難しいと感じている規制の負担を引き受けなけらばならないのは不公平だと考える人もいるかもしれない。
確かに、EUの市場濫用規制や第2次金融商品市場指令(MAR/MiFID II)、アメリカのドッド・フランク法のような「市場における不正行為」に対する規制の遵守が義務付けられれば、業界にとっては壊滅的な打撃となるだろう。
私は2018年半ばまで、JPモルガン・チェースのロンドン支店でトレーダーをしていたが、MAR/MiFID IIの遵守にかかった年月とコストを覚えている。
JPモルガンの貴金属取引デスクが昨年、なりすましによる相場操縦疑惑で約10億ドルの罰金を支払ったことから分かるように、金融最大手でさえも、規制をきちんと遵守することがどれだけ難しいかを考慮すれば、スタートアップや中小企業、個人から主に構成されているこの若い業界に、そのような規制遵守のプロセスを導入するようにと求めるのは、厳しいことのように思われる。
しかし、現在の規制をしっかりと検討し、法律の文言ではなく、その精神に従うための方法の議論を規制当局と開始することは、業界としての義務である。結局のところ、暗号資産業界も規制当局も、投資家を守り、市場の整合性を確保することを望んでいるのだから。
自主規制の大切さ
だからこそ、業界に真の利害を持ち、業界を真に理解し、暗号資産の大衆への普及を促進することに長期的な既得権を持つ人々やプロトコルから構成される、1つの自主規制代表機関にその努力を集中させることが、必要不可欠である。
米上院での最近の公聴会は、私たちの多くがすでに知っていたことを露呈させた。暗号資産業界とその関係者は、誤解されているということだ。
世界中の規制当局や政府は、長期的な富の創造と分配にはフィンテックと暗号資産業界が必要だろいうことを、理解しなければならない。しかし、そのために暗号資産ができる限りプラスの役割を果たすには、成熟する必要がある。
業界が説明責任、透明性、投資家保護を改善させるには多くの方法があり、世界中の規制当局や政府が暗号資産に注目する今こそは、関係者が受け身な傍観者としてではなく、積極的に責任を引き受けるチャンスだ。
業界として、自主規制をし、分散化したこの業界の可能性について教育し、それを保護するために努力を集中させなければならない。リスクは高いが、暗号資産業界ならこの難題に立ち向かうことができるし、そうしなければならないだろう。
アンバー・ガダー博士は、分散型資本市場「AllianceBlock」の共同創業者である。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Self-Regulation Is in Crypto’s Best Interest