暗号資産はETFより優れたものを生み出せる【オピニオン】

今や季節ごとの伝統のようになっているが、米証券取引委員会(SEC)は再び、あらゆる法的・技術的リソースを活用して、アメリカでの暗号資産ETF(上場投資信託)の承認を先延ばしにしている。

このような困難にも関わらず、いくつかの企業は、運用資産が6兆ドル(約659兆円)の世界的ETF市場において、アメリカ初の暗号資産ETF事業者になろうと試みることを思いとどまってはいない。

そもそもETFが生まれるまでの長く、厳しい金融の歴史を振り返れば、SECの対応の遅さには、あまり驚くべきではない。

16世紀にアントワープで最初の証券市場が誕生してから、1993年にアメリカ初のETFが誕生するまでには、約450年かかったのだ。1987年のブラック・マンデーによって初めて、ETFがある種の解決策をもたらす問題を、金融市場は直視するようになった。

それ以来ETFは、2000年代後期の世界金融危機から、2020年代の新型コロナウイルスのパンデミックに疲れた市場まで、厳しい金融情勢における安全な避難所のような役割を果たしてきた。

初の暗号資産ETFをアメリカにもたらそうとする競争と同じように、初のETF自体も、簡単に誕生した訳ではない。構造化されたプロダクト、管理された投資スキーム、ミューチュアル・ファンドやデリバティブをめぐる証券、税、企業法を主な理由に、初期ETFを作るのにも複数の試みが必要だった。

さらに暗号資産ETFは、ETFと同じように金融コミュニティー全体からの賛同を受けている訳ではなく、一段と多くの出だしの失敗やつまずきがあっても驚きではない。

暗号資産ETFはいずれ普遍的に受け入れられることがあるのだろうかと不思議に思うほどだ。古株の人たちにとってはリスクが高過ぎ、新規参入者たちにとっては中央集権化されすぎている。

暗号資産ETF:新しい芸を無理やり覚えさせられる年老いた犬

ETFが作られたのは、投資家たちがインデックスを構成する資産を直接保有することなく、市場インデックスと同じようなリターンを実現することを望んだためだ。つまり、ポートフォリオの分散を再現しながら、コストや労力はより抑えることを望んだのだ。当時としては、ETFは過激な金融イノベーションであり、本質的には、投資家にとって最も初歩的な問題を解決した。

初のETF登場から約30年経った現在、ETFを提供する企業は150を超え、そのリストは、バンガード(Vanguard)、ブラックロック(BlackRock)、ステート・ストリート(State Street)、インベスコ(Invesco)、VanEckと、金融界の大手企業を点呼しているかのようだ。

ポートフォリオ分散や市場でのパフォーマンスなど、伝統的なETFがもたらす様々なメリットに対して、いくつかの欠点もある。相次ぐ手数料を生み出すブローカレッジへのアクセスの必要性、流動性、「市場取引時間」に結びついた取引の遅れ、ETFの原資産をETF提供事業者が保管しなければならないことから生じる追加のコストなどだ。

そして、初のETFから30年経った現在、ブロックチェーンテクノロジーが、すべてを書き換えた。ブロックチェーン、暗号化技術、トークン化によって、プログラム可能な金融がインターネットのスピードであらゆる人にアクセス可能となり、分散型コンセンサスから、新たな通貨、デリバティブ、金融業界が生まれた。

それでは、30年前にETFが魅力的だった点を、15年前には想像もできなかったようなまったく新しい金融オプションの世界のための魅力へと作り直すことができたらどうだろう?

それができるのだ。

ETPで良いのになぜETF?

分散型金融(DeFi)プロトコル、オンチェーン資産管理、スマートコントラクトテクノロジーの力強い組み合わせが、分散型バージョンのETF、つまりETP(上場取引型ポートフォリオ)と呼ばれる、トークン化され、完全に担保されたデジタル資産のバスケットの到来を告げる。

このような「バスケット」は関係するスマートコントラクト内で保有できるプールされた資産によって完全に担保されている。これらの「スマートプール」はトークン化でき、投資家がスマートコントラクトに資産を預け入れ、原資産の既定のシェアを象徴する、対応する数のトークンを受け取ることができる。

さらにETPはノンカストディアル、つまり、投資家が預け入れた資産のコントロールを保持したままで、対応するトークンを換金することで、いつでも引き出すことができる。ブローカレッジへの手数料や市場の取引時間とは、お別れだ。

レイヤー2ブロックチェーンプロトコルが、スマートコントラクト資産の預け入れや引き出すに関連するガス代の緩和に一役買うに従って、ETPはコストの観点から非常に魅力的なプロダクトに見え始める。

ETPは、より大きな金融上のインセンティブをもたらす。インフラに対するマクロヘッジ、そして主要暗号資産、プールされたDeFi資産、伝統的なテック株のバスケット、インデックスベースのポートフォリオ、利回りをもたらすステーブルコインへの投資だ。

ETFはここ30年で、長い道のりを歩んできたが、その枠組みを暗号資産に使おうとするのは、業界の一部の人にとっては、興味をそそられることかもしれないが、あまり成功の見込みがない。

ETPのように、投資と投資ツールの両方を暗号資産イノベーションに集約させるプロダクトの登場により、投資家たちはかつてないほど優れた流動性と、少ない摩擦を提供するより多くのチャンスに参加できるようになる。

古株の人たちにとっては、旧型の非効率性を捨て去る新しいパラダイムへのより大きな信頼が必要となる。新規参入者たちにとっては、未来のソリューションを、昔からの非効率性の中に閉じ込めてしまわないよう、さらなる想像力が必要となる。

ジェイミー・ロゴジンスキー(Jaime Rogozinski)氏は、金融の世界で圧倒的な存在感を放つ大型オンラインコミュニティー「WallStreetBets」の生みの親である。ここ16年間、主にテックと金融の分野で、複数の成功した企業のゼロからの立ち上げに関わった。スタートアップのブートストラップから多面的バンキングまで、様々な分野で経歴を持つ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:AntonSokolov / Shutterstock.com
|原文:Crypto Can Do Better Than ETFs