中国が国内での暗号資産(仮想通貨)のマイニングと取引サービスを明確に違法としたが、その影響については分かっていないところも多くある。だからと言って、多くのコメンテーターは、短絡的な見解を広めることをやめたりはしない。3つのよくある意見を紹介し、少なくとも補足説明が必要な理由を見ていこう。
「中国の暗号資産禁止は暗号資産市場を破壊する」
「主流メディアでの解釈」とでも言うべき簡単なものから始めよう。
ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、その他多くの暗号資産は、中国の暗号資産禁止のニュースが報じられると劇的に値下がりし、わずか4時間で9%近く値下がりしたものもある。
何百万もの中国人投資家が即座に市場から撤退し、その過程ですべての人の資金が破壊され、この世の終わりだと考えた人たちがいるのは明らかだ。
しかし、わずか数日後には価格はある程度回復した。深刻で広範な影響がないということではないが、暗号資産市場はある意味で、今回の中国からの衝撃に備えられていたということだ。
中国による反暗号資産的な動きの高まり、とりわけ今年夏のマイナー追放は、さらに厳しい取り締まりがやって来るという警告としては十分だった。
それでも、現在の市場は、長期的真実を完璧に物語る訳ではない。広範な市場において資金と流動性が極めて高くなっている状況では、外部からの衝撃に引き起こされるほぼあらゆる資産での値下がりは、非常に短期的であったとしても、買いのチャンスを見出した人たちからのある程度の資金を引き寄せる。
9月24日に押し目買いをしたとしたら、すでに3%強のリターン、年換算では300%のリターンを上げたはずだ。中国抜きでの暗号資産の未来をどう考えるかに関わらず、そのお金はキープできる。
「中国は自由の匂いが嫌いだから、暗号資産を破壊しようとしている」
特にの筋金入りの暗号資産ファンにとっては、これは非常にそそられる考え方だろう。中国は本当に抑圧的な社会であり、暗号資産取り締まりが『Vフォー・ヴェンデッタ』的な展開の第1幕であるというアイディアは満足感を与えてくれる。
暗号資産活動家なら誰でも、英雄的な反権威主義者になることを願っている。検閲が不可能な暗号資産は、中国共産党の権威や目標にとって、特に資本統制の点で驚異であるということは、客観的な事実でもある。
しかし、現在の反暗号資産的動きは、中国における金融実験とリスクに関して、ずっと大きな審判の時の一部である。フィンテックや伝統的銀行、投資企業に対する一連の動きも同時並行的に発生しており、暗号資産は習近平国家主席がぐっすりと眠るのを妨げる単独の脅威ではないことが明らかとなった。
例えば、中国は先日、国内25の大手金融機関の慣習を審査するために金融監督担当者を「天下り」させると発表した。フィンテック企業のアントグループが計画していたIPO(新規公開株)が、中国共産党によって潰されたことは有名だ。
中国はまた、不動産開発業者の債務レバレッジを減らす「三道紅線(3本の赤い線)」政策を導入。これによって、巨大開発業者の恒大集団も債務危機に追いやられた。
そのような文脈においては、中国の暗号資産取引所に起こっていることは補足的なことだ。今起こっていることを「暗号資産取り締まり」と呼ぶこともおそらく、誤解を招くだろう。
外から見る限りでは、金融システム全体でのレバレッジリスクを和らげるための取り組みが進行中であり、暗号資産はその一部に過ぎない。
「中国の暗号資産禁止は暗号資産にまったく影響を与えない」
トークン市場は今回のニュースを、あまり苦労せずに飲み込んだが、だからと言って悪影響がない訳ではない。影響が出るのは長く先のことであり、見えにくいだけなのだ。
まず、中期的な影響は非常にリアルなものだ。例えば、最近まで大手の国内取引所であったフォビ(Huobi)は、中国大陸でのユーザーを切り捨てる構えのようだ。
暗号資産取引所BTCCの元CEO、ボビー・リー(Bobby Lee)氏も、近い将来に相対取引(OTC)の終了を見込んでいると語った。現在、OTCデスクの利用者らは、清算をしているようだ。禁止の発表の直後、ステーブルコインのテザーは一時的に、人民元とのペグを解消。大きな流出があったことを示唆している。
つまり、多くの中国人投資家、とりわけトレーダーらは、市場を去る可能性が高い。暗号資産はそれ以外のところで成長を続けるため、市場は安定したが、埋め合わせる必要のある取引高は多くある。
失われた取引高の一部は、分散型取引所に動くだろう。中国の暗号資産界における分散型取引所への関心は、取り締まりの結果として大いに高まったと、ブロックチェーンベンチャーキャピタル企業シノ・グローバル・キャピタル(Sino Global Capital)の共同創業者マシュー・グラハム(Matthew Graham)氏はツイートしている。
これは、中国の動向を観察する人たちの一部が、中国共産党の真の目的と主張することと、一致する。その真の目的とは、暗号資産を完全に潰すのではなく、わずかばかりの人たちだけがあえて足を踏み入れるような辺境へと押しやることだ。
それこそが、長期的な真の懸念を物語っている。分散型ブロックチェーンテクノロジーから離れるように仕向ける中国指導部からの明確な圧力は、長い時間をかけて、中国や香港の若者がどのように時間を使い、関心を向けるかに影響を与えるだろう。
新しい中国の政策の厳格な方策の中には、中国国民が海外の暗号資産取引所で働けないというものもある。つまり、暗号資産を仕事にしたい中国の若者にとって、キャリアの道は大いに狭まるということだ。
草の根の活動さえも、大きな冷え込みに見舞われるだろう。中国の政策変更は一般的に、政府が社会的に許容できると考えるものの、広範なサインと捉えられるからだ。
グラハム氏は先週末にかけて、暗号資産関連のウィーチャット(WeChat)グループが話題としているものを隠すために、名前を変更しているとも指摘した。法律の文言は何であれ、少なくとも一部の中国人は、暗号資産を話題にしているところを見つかるのすら恐れているのだ。
少なくともそれは、中国からブロックチェーンに流れ込んでいた個々の才能やエネルギーの供給が、減速することを意味している。取引高やハッシュパワーの減少よりも、そのことの方が本当の懸念事項である。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:3 Takes About China’s Crypto Ban That Are Wrong