野村ホールディングスが、ブロックチェーン技術を使って有価証券などの権利を交換できるプラットフォームの開発に乗り出す。世界の大手金融機関を中心に先進技術の試験的運用が行われている中、既存の金融システムの“アップデート”はペースを速めて進んでいきそうだ。
野村は6月14日、野村総合研究所と共同でブロックチェーンを活用した有価証券などの権利を交換する基盤の開発と、その提供を行う合弁会社を設立すると発表した。新会社は8月をめどに設立され、野村が66%、野村総研が34%を保有する。
野村と野村総研は2015年から、株式などの情報管理にブロックチェーンを活用する検証を行ってきた。両社は今後、企業が有価証券やその他の権利を発行・流通するための新たな基盤を作り、支援する事業を進めていく。
欧米では、金融機関や大手小売企業を中心に、ブロックチェーンを活用したサービスの導入が進められている。例えば、物資の貿易にかかわる金融サービス、いわゆる貿易金融の分野では、すでにブロックチェーンを活用した国際的なコンソーシアムが形成されている。
三井住友は貿易金融、三菱UFJは決済
三井住友銀行や仏BNPパリバ(BNP Paribas)、独コメルツ銀行(Commerzbank)が参加するコンソーシアムのマルコ・ポーロ・ネットワーク(Marco Polo Network)は、米R3が開発した分散型台帳技術のコルダ(Corda)を基盤とする貿易金融のプラットフォームで、その参加企業・金融機関の数を増やしている。
三菱UFJフィナンシャル・グループは米アカマイ(Akamai Technologies)と共同で、ブロックチェーンを基盤とする高速決済ネットワークの開発を進めている。両社は4月、共同で設立したグローバル・オープン・ネットワーク(Global Open Network)を通じて、決済ネットワークを2020年上期に稼働すると発表。
野村はここ数年で資産のデジタル化に対応する動きを強めている。昨年5月、野村は仮想通貨のハードウォレットの分野を牽引する仏レジャー(Ledger)と、英グローバル・アドバイザーズ(Global Advisors Holdings Ltd)と組み、デジタル資産の管理(カストディ)サービスの研究開発に着手した。
資産運用フィデリティの動き
暗号資産を含むデジタル資産市場が急ピッチで拡大する中、デジタル資産への投資を検討する機関投資家は増加傾向にある。5月、ブルームバーグの報道は資産運用業界の注目を集めた。ブルームバーグは関係者の話として、米資産運用大手のフィデリティ・インベストメンツ(Fidelity Investments)が仮想通貨取引サービスの提供を始めると報じた。
フィデリティは今後、顧客ニーズなどを把握した上で、ある程度の時間をかけてサービスを展開していくという。5月の報道によると、フィデリティがサービス開発を進める上で注目しているのはビットコインだという。
野村は「金融産業においては決済や証券取引などの分野で(ブロックチェーン技術)の活用が注目されている。発展途上の技術であるが、既存の法制度を含めた社会への適用と、新しい価値の具体化に関する取組みが国内外で進んでる」と発表文で述べている。
ブロックチェーン技術や暗号資産領域における野村の今後の動きにさらなる注目が集まりそうだ。
文:佐藤茂
写真:多田圭佑