NFTが抱えるイメージの問題

動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)は先週、NFT(ノンファンジブル・トークン)の世界への進出を発表した。ベラ・ポーチ、グライムス、リル・ナズ・Xなどのショート動画とつながったデジタルコレクション品「TikTok Top Moments」の提供を開始する。

NFT業界にとっては、一大事のように感じられた。暗号資産(仮想通貨)はソーシャルメディアやスターの力に支えられており、企業は有名人によってこのテクノロジーを認めてもらう必要性を理解している。

ブロックチェーンが支える音楽ストリーミングサービス「Audius」とすでにパートナーシップを結んでいるTikTokは、暗号資産界における野心をこれまで以上に明確にした形だ。

声をひそめるスターたち

プレスリリースが公開され、ビジネス系メディアは律儀にニュース記事にした。TikTok社は、宣伝のためにニューヨーク・タイムズで全面広告を打った。

しかし、このような宣伝キャンペーンに不在だったのは、スター自身の存在である。モンクレールやフェンティといった消費者志向のブランドの宣伝のためにインスタグラムを利用していたベラ・ポーチだが、今回のNFTに触れることはなかった。

「Wong Joon Ian:
アーティストはあまり力を注いでないんだろう。ドロップ(NFTのリリース)には政治的資本を使わなくちゃダメだ

Katherine Rodgers:
まさにその通り!最近の人気スターによるドロップの大半の雰囲気は『マネージャーにやれって言われたから』という感じ」

リル・ナズ・Xやベラ・ポーチほど有名ではないアーティストのカーティス・ローチ(Curtis Roach)は、少し控えめに宣伝を展開。暗号資産関連ニュースの見出しをシェアしたが、自分でNFTについてツイートするまでには至らなかった。

これらアーティストたちの沈黙は、暗号資産の外の世界では、人々はいまだにNFTという考えに馴染んでいないことを痛感させてくれる。

リル・ナズ・XのNFT参加を伝える米雑誌『バラエティ』のツイートには、1000ほどの「いいね」がついたのに対し、引用リツイートは7000件ほどで、その大半は否定的なものだった。このように「いいね」の数よりも否定的なリツイートやコメントが上回る現象は、ツイッターコミュニティーでは「レシオ(ratio)」と呼ばれる。

「ダメだよ、リル・ナズ・X。NFTの宣伝役になんてならないで。すごくセクシーなんだから」と、あるツイート。他にも、激しい言葉で否定的なコメントを寄せるツイートが見られた。

「バラエティ:
リル・ナズ・X、TikTok NFTをドロップする最初のアーティストに

Daniel Irizarri:
リル・ナズ・Xをレシオしなければならない時」

NFTにつきまとう悪いイメージ

これらアーティストのファンの多くにとって、NFTはいまだにエネルギーを大量に消費するプルーフ・オブ・ワーク(PoW)ブロックチェーンや、詐欺師や加速主義者の本拠地と考えられている業界とのつながりが連想される、汚れた存在だ。(TikTokは、自社NFTが「カーボンニュートラル」と主張しているが、カーボンニュートラルではないイーサリアムと相互運用性があることをCoinDeskは確認した)

リル・ナズ・Xは、現代において最も巧みな宣伝役である。最高に冷ややかな企業とのパートナーシップでさえも、ソーシャルメディア上でのふざけた投稿に変えてしまう才能がある。米ファストフード大手タコベルが彼を「最高インパクト責任者」に任命した時にも、上手く転換させてみせた。

そのリル・ナズ・Xが、NFTパートナーシップについて、皮肉なジョークを繰り出せないということは、この話題が彼にとってさえも、あまりに危険であることを示唆している。

ライターのディーン・キシック(Dean Kissick)氏は、嫌悪感を生む要素の1つは、アーティストが「自分を売ってしまっている」ことと関係がある、と指摘する。

NFTは、ある影響力のあるベンチャーキャピタリストが言ったように、「クリエーターが主導する草の根ムーブメント」ではないのだ。人々はそれを見抜いている。

NFT業界にはお金があふれており、自らの作品でお金を儲けるためのチャンスを逃さないようにするアーティストを批判するのは難しいが、「NFTをする」ことにはいまだに、ある程度の評判上のリスクが伴う。

暗号資産界の中には、NFTが「世界を食べ尽くす」と声高に主張する人たちもいる。しかしNFT業界はまず、そのリブランディングに真剣に取り組む必要があるようだ。

環境面での懸念を実質的に無くすことになる、イーサリアムネットワークのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーンへの移行が迫っており、これは分かりやすいプラスのステップだ。業界にとっては最も簡単な勝利であり、評判回復のために欠かせない一歩である。

汚名返上のためには?

それ以外には、課題は文化的なものだ。

暗号資産界で最も人気のスローガンは現在、「NGMI(Not Gonna Make It=成功しないよ)」だ。「have fun staying poor(貧しいままでいることを楽しんで)」というフレーズと同様、反暗号資産的感情を嘲るために使われる。

急落直前にビットコインを買った?NGMI。JPEGファイルを使ってギャンブルするより、気候変動の方が心配?NGMI。

このような態度は早い話、不愉快だ。NFTは多くの点で、真にエキサイティングな技術革新である。デジタルグッズを売買するための新しい枠組みであり、いわゆる「クリエーターエコノミー」に対して変革的な影響を持つ可能性を秘めている。

いまだに気軽にはねつけられているのは残念だが、NGMIといった言葉で反対する人たちを嘲るような手法は、役には立っていない。

「Dame.eth
NFTに興味がなく、関わりたくないと思っているアーティストを攻撃するのは絶対にやめてほしい。NFT/暗号資産分野に悪い評判をもたらすような有害な態度であり、この分野を前進させる役には立たない。

castpixel:
NFTをやりたくないと言ったら、NFTファンから2時間にわたって総攻撃にあった。日常的にこんなことをやっているんだろう」

もっと優しいアプローチをとったらどうか?NFT信奉者は、暗号資産に興味がある人たちを黙らせるのではなく、彼らの恐怖心を和らげた方がうまくいくだろう。

プルーフ・オブ・ステークは、気候変動の問題に関しては打開策となってくれる(少なくともイーサリアムにとっては。ETHマイナーたちは、切り替えの後でも、他の暗号資産の周辺に存在し続ける)が、文化的な問題の方が複雑だ。

単独の正解はない。しかし、NFTが一般大衆への普及の道を見つけるには、少なくとも業界がまず、問題を認める必要がある。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ティックトックNFTをリリースすることになった人気ラッパーのリル・ナズ・X(DFree / Shutterstock.com)
|原文:Who Really Wants Corporate NFTs?