「パンドラ文書」から分かる暗号資産が愛される理由【オピニオン】

暗号資産(仮想通貨)とブロックチェーンの成長と普及の必然性について、多くの主張が存在する。効率性、信頼、プライバシー、自律性といったメリットはすでに、グローバルなスケールで期待に沿った結果を出し始めている。

しかし、暗号資産への関心は何よりも、もっと基本的で感情的なもの、何十年もの間、世界中で湧き上がって来ている深い直感に突き動かされているだろう。それはつまり、権力を持つ人たちは信頼することができず、信頼するべきでもないという直感だ。

明らかとなった莫大な税金逃れの実態

10月3日、増大しつつあるそのような不信感が再び裏付けられることとなった。世界中の法律事務所やその他の組織から流出した1200万に及ぶ文書、いわゆる「パンドラ文書」が公表された。

パンドラ文書によって、何十億ドルもの資産を課税や監視から隠していた2万9000のオフショア企業の、かつては知られていなかったオーナーが明らかとなった。これには、200以上の国々の政治リーダー、著名人、裏社会の人物などが含まれているが、その大半はロシア、イギリス、アルゼンチン、中国の人々であったと、パンドラ文書を入手し、最初に報道を取りまとめた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は発表した。

流出した文書からは、ブレア元英首相、歌手のシャキーラ、その他にもたくさんのお馴染みの顔ぶれが、非常に複雑な法人組織に資産を隠すことで、積極的な税金逃れに関与していたことが明らかとなっている。

一部の事例では、隠された資産が完全なる汚職と結びついていたが、大半は名目上合法なものであった。しかし、そのような仕組みが存在していたこと自体、税金逃れ以上の非常に有害な目的のために使われていたことを、約束しているようなものだ。

暗号資産の世界にいる人間は、このように発覚した事実から、単純な「あれはどうなんだ」論法に向かってしまいたくなるかもしれない。

例えばこれはどうだろう?ある推計によれば、全世界で32兆ドルの資産が、オフショアの租税回避地に存在するかもしれない。それは、存在するすべての暗号資産の価値の合計の約15倍であり、その大半は、世界のリーダーたちが自国市民から盗みを働いていることに当たるのだ。

隠された資産によって失われている税収は、世界中で多くの公共インフラやサービスが奪われていることを意味する。その最も大きな犠牲となるのは、最も貧しく、最も脆弱な人たちだ。

このことは間違いなく、マネーロンダリングや税金逃れの手段としての暗号資産システムに容赦無く焦点を当てる、世界中の規制当局のやり方のバカらしさを痛感させる。

規制当局は、旧来の銀行システムの合法な腐敗や、そのボスたちの覇権に立ち向かうより、新興テクノロジーを叩き潰す方が簡単だと考えているようだ。

しかし、「あれはどうなんだ」に力を注いでは、短期戦を戦うことになってしまう。暗号資産は、普通の人もお金持ちと同じようなトリックを使えるようにすると主張したくなるかもしれない。それはリバタリアンの傾向のある人たちにとっては魅力的かもしれないが、私には底辺へ向けた競争のように見える。

さらに、これら2つを並べて語ること自体が間違っている。オフショア組織と怪しい銀行を通じて世界のリーダーたちが実現したことを、普通の人が暗号資産を使って真似することはできないのだ。

表面的にはそれは、オフショア組織が約束してくれるような機密性に匹敵するものを、暗号資産がもたらせないからである。ビットコイン(BTC)の初期の頃の報道では、その「匿名性」に多くの注目が注がれていたが、ビットコインやその他多くの暗号資産の所有者を、三角法を用いてあまり苦労せずに突き止めることは比較的簡単なことが、明らかとなっている。

いわゆる「プライバシーコイン」でさえも完璧ではない。しかし、カリブ海へプライベートジェットを飛ばす余裕があるのなら、真に匿名的な銀行サービスを受けることができるのだ。

根深い腐敗のシステム

さらに、パンドラ文書によって詳細が明らかとなった国境を越えた資産の隠蔽は、多額の資産を監視の目から隠す能力だけではなく、組織的な政治権力と世代を超えた富に依存する影の影響力から成る、はるかに大きく複雑なシステムの一部なのだ。

税金回避や個人的な秘密保持に使われたのと同じ手段は、国ぐるみの麻薬密輸や殺人、反民主主義的暴力など、より悪質な行為のための強力なツールともなる。

十分に裏付けられた1つの例を見てみよう。国際商業信用銀行(BCCI)だ。

名目上はパキスタンの銀行であるBCCIは、1990年代初頭、CIA(米中央情報局)の隠れみのとなっていることが明らかとなった。同「銀行」には、国際的な麻薬密輸の収益の多くが流れ込んでいたが、CIAはそのようなマネーロンダリング行為を、国際的な警察組織による監視から守っていたというのだ。

CIAも、自らの帳簿外の麻薬密売から来る収益を、南アメリカの反共産ゲリラに流すための経路を必要としていたために、このような保護が差し伸べられたらしい。それらのゲリラ、とりわけニカラグアのコントラの実態は、暗殺テロ集団であることが判明した。ワシントン・ポストによれば、CIAはBCCIの本店から暗殺者のネットワークを動かしていたとされている。

このスキャンダルは、名目上の改革を引き起こしたが、このような国際的な介入や操作は、現在の国際金融システムのもとでもいまだに大いに可能なようだ。

パンドラ文書で明らかとなった行為がどのようなものであったのか、正確なことはまだ分からない。2年以上にわたって、多くのジャーナリストが精査しており、この先数日、数週間をかけて、報道されていくだろう。

世界で最も野心的で、国民や国家の金で最も私腹を肥しているであろう政治家であり、国をバックにつけたプーチン露大統領に関わる文書が含まれていることは、すでに分かっている。

自己保身に走る権力者たちに見切り

パンドラ文書で明らかとなった世界のリーダーによるオフショアでの財産隠しは、あからさまな犯罪性は欠いているが、自国通貨の弱体化に対する備え、そしてその弱体化に対処する責任の放棄のように見える。

これまでのところ、最もひどい例はイギリスのようで、与党保守党の主要な支援者が、ウズベキスタンのリーダーへの2億2000万ドルもの巨額の賄賂に関与していたことが暴露されているようだ。

もちろんこれは、皮肉なことだ。保守党はイギリスのEU離脱を推し進めた大きな勢力であったためだ。

EU離脱は多くの影響を及ぼしているが、中でもとりわけ、資本規制の強化と、大小企業に欠かせない貿易の流れを抑えることで、イギリスのメインストリーム金融セクターを脅かしている。

EU離脱を声高に支持していた人たちの多くはすでに、2017年のパラダイス文書の公開により、オフショアで資産を隠していたことが明らかとなっている。彼らの姿勢は事実上、「あなたたちには小さなイギリスを、でも私は遠慮しておきます」という感じである。

教訓はシンプルに、次の通りだ。世界中のリーダーたちのあまりにも多くが、自らが統治する人々と自分は完全に別個の存在だと考えている。彼らの積極的な泥棒行為は、性的人身売買を行ったとされるギレーヌ・マクスウェル被告の、「女の子たちは何でもない。ゴミだわ」という、被害者に対する態度を彷彿とさせる。

最も裕福で、最もパワフルな人たちに秘密保持を約束しつつ、一般市民の行為を自由に検閲するような世界の銀行システムは、見せかけの優越感と分離をさらに強めるだけだ。

蔓延したエリートたちの腐敗に、暗号資産が現実的な解決策を提供的できるかは分からない。しかしパンドラ文書は少なくとも、暗号資産普及の影にある感情面での推進力の多くを説明してくれる。

中の中まで完全に腐り切ったシステムから自由になりたいという、単純な願望だ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:mundissima / Shutterstock.com
|原文:The Pandora Papers Show Why People Love Crypto: You Can’t Trust the Powerful