「イーサリアムでサインイン」の時代がやって来る

フェイスブックはここ数週間、悪としか言いようがない慣習をめぐって、メディアや米議会において厳しく批判されている。

手短に言うと、フェイスブックは長年にわたり、同社のアルゴリズムが様々な方法でユーザーにとって有害なコンテンツへとユーザーを誘導していたのを知りながら、何の策も講じなかったというのだ。それを変えることは、収益の減少を意味していたからだ。

他社オンラインサービスへのログインのためにフェイスブックのアカウントを使ったことがあるならば、あなたはフェイスブックが、あなたのオンライン体験をより有害なものにするのを助けたことになる。プラットフォームとしてのフェイスブックを使っていなかったとしてもだ。

グーグルやアップルのアイデンティティサービスを使っても同じ様なことだ。そのようなサービスには、大きなトレードオフが伴う。例えば、アメリカの諜報機関にデータを共有されるといった。

これは、現在のインターネットが抱える中心的なジレンマの1つである。

「ネット」に内在する匿名性は間違いなく良いことだが、IDに依存したツールのユーザーを、大手中央集権型のアイデンティティプロバイダーと、彼らによる避け難いとも思われる悪用に捕らわれた存在にしてしまうのだ。

ブロックチェーン開発者たちは長年、テック大手企業の危険から私たちを守るために、「分散型」アイデンティティ規格を開発することを議論してきた。そして、その未来に向けた大きな一歩が迫っているようだ。「イーサリアムでのサインイン」が登場しようとしているのだ。

名前の通りである。あなたが保有するイーサリアムウォレットを、複数のサービスをまたいだ識別子として使うための標準的な方法だ。

もし、「私の名前は私のETHウォレットと結びついてもいない」と思ったとしたら、それこそが大切なポイントだ。暗号化によるマーカーをアイデンティティとして使うことで、アイデンティティのプロバイダーではなく、ユーザーがそれに関連する情報を完全にコントロールできる様になるのだ。

例えば、特定のサービスにユーザーの名前、年齢を証明するもの、ETH残高の情報が必要かどうかについて、ユーザーに最終決定権があるのだ。それらの情報をすべて、利用するあらゆるサービスに提供する必要はない。

この様な規格を開発しているのは、スプルース・システムズ(Spruce Systems)だ。コンセンシスの元スタッフたちが共同で立ち上げ、イーサリアム財団とイーサリアム・ネーム・サービスから先日、開発の提案依頼書を勝ち取った。最初の目標は控えめなものだ。(私の見解では、それは常に良いサインだ)

「私たちはまず、あまり深刻でも、強力でもないアイデンティティからスタートする」と、スプルースの共同創業者でCEOのウェイン・チャン(Wayne Chang)氏は語った。

「実戦で試したいからだ。中短期的には、ツイッターのハンドルをブロックチェーンに結びつける、ソーシャルメディアの認証情報の様なものになる。(中略)数百万ドルもの証券を買うための(顧客確認の)認証情報を提供することは、まだしたくない」とチャン氏は説明したが、将来的にはその様な可能性もある。

スプルースによれば、最初のバージョンの用途は、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)保有者がコンテンツを守るためなど、よりセキュリティレベルの低いものになる可能性が高い。

しかしゆくゆくは、安全なオフチェーンストレージを組み込むことによって、「イーサリアムでサインイン」機能は、政府発行の身分証明書のような「強力な」オプションも提供することができる様になる。

ユーザーはケースバイケースでデータへのアクセスをコントロールし、好きなように削除、データの切り離しが可能となるだろう。

イーサリアムでサインインの大きなハードルの1つは、識別子、とりわけ金融活動のために使われるウォレットに簡単につなげることのできるアドレスを再利用することに伴うリスクだ。

複数のウォレット、あるいは使い捨てのウォレットを使うという考えは、暗号資産ユーザーにとっては安全確保のための手段として馴染みがあるかもしれないが、普通の人にとっては、少なくとも今のところ、おそらくやり過ぎだろう。これも、イーサリアムでサインインが小さくスタートする理由の1つである。

スプルースはその取り組みを、コミュニティプロジェクトと考えており、イーサリアムでサインインの規格を開発するに当たって、毎週コミュニティの集まりを開催している。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Sign-In With Ethereum Is Coming