少なくとも、ウィンクルボス兄弟が初めて申請を出した2013年以来、ビットコインETF(上場投資信託)は、暗号資産(仮想通貨)業界が必死に追い求めてきた目標であった。
ETFは、確定拠出型の個人年金制度「401k」の利用者から大手企業に至るまで、規制やコンプライアンスを理由に直接ビットコイン(BTC)を買うことのできない、幅広い投資家層へと新たにビットコイン投資の扉を開くことになる。そして遂に、ビットコインETFのようなものが、実現したのだ。
ビットコイン「先物」ETFの誕生
「プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETF(ProShares Bitcoin Strategy ETF:BITO)」は19日、ニューヨーク証券取引所で取引を開始。プロシェアーズの幹部が取引開始のベルを鳴らした。
彼らの背後には、初の「アメリカでのビットコイン関連ETF」を祝う横断幕が掲げられていたが、そこには、慎重な投資家にとって教えるには絶好の機会が潜んでいた。「関連」という言葉は、優れた通貨と同じくらい代替可能なもので、より狭義の、より具体的ないくつもの言葉の代わりになることができる。
この場合には、取って代わられていた言葉は「先物」だ。ビットコインを実際に保有するのではなく、プロシェアーズのETFはビットコイン先物契約を保有するのだ。
「本物の」ビットコインETFの前に先物ETFが承認されたことは、大いなる皮肉だ。大まかに言うと規制当局は、ビットコインスポット市場での操作の可能性やカストディリスクにさらされる危険性が、先物ETFの方が低いと主張。しかし最終的には、スポット市場でビットコインを買う代わりに先物ETFを買った投資家が、巨額のリターンを逃すという結末もあるのだ。
原因は、「コンタンゴ」と呼ばれる問題だ。他のコモディティ先物ETFの投資家たちは、長年にわたってコンタンゴについて不満を述べており、その仕組みはよく分かっている。
ここでは詳細を説明することは省くが、要するに先物ETFは、先渡契約を定期的に買い替え、つまり「ロール(期近を売って期先を買う」しなければならない。買い替え日に、期日の遠い先物の価格が、満期を迎える契約よりも高い場合には、信託はそれだけ損失を出す。その損失は「コンタンゴブリード」と呼ばれている。
逆に、期日が遠い先物の価格が低くなる「バックワーデーション」という現象もあるが、原資産がすでに値下がりしている時に、先物ETFの保有者が少額のプレミアムを手にするだけなので、あまり問題ではない。
「コンタンゴ」による損失リスク
コンタンゴによる損失は、一般的なコモディティにおいてでも巨額となり得るもので、ビットコインでは本当に途方もない規模となるかもしれない。
米投資顧問会社モトリーフール(Motley Fool)が指摘した事例では、先物ベースの天然ガスETFが、ひと月のロールで1.5%の損失を出すことになっていた。
より広範な市場においては、このような価格差はしばしば、裁定取引で取り除かれる。プロのトレーダーたちはそうやって利益を出し、価格差も埋まる。しかし、ブルームバーグが指摘した通り、個人トレーダーが支配的な暗号資産市場においては、裁定取引はそれほど活発ではない。
暗号資産投資顧問会社バイトツリー・アセット・マネジメント(ByteTree Asset Management)のチャーリー・モリス(Charlie Morris)氏によれば、現在のBTC先物のロールコストは、17%という恐ろしいほどの水準である。より長期的には、手数料を差し引く前で、ETFがスポットよりも年間8.4%低いパフォーマンスを見せると、モリス氏は予想している。
これでは、顔を噛みちぎっててもらうためにジャガーにたっぷりのお金を支払っているようなものだ。暗号資産に特化した金融顧問のタイロン・ロス(Tyrone Ross)氏は、個人投資家はBITOに近づかないほうが良いと忠告する。
プロシェアーズのストラテジスト、シメオン・ハイマン(Simeon Hyman)氏は、モリス氏の分析に反論した。ハイマン氏は、年率換算でのロールコストを2.5%と予測し、拡大する市場がその損失をさらに縮めるだろうと、当然ながら指摘した。
伝統的な資産であれば、それでもかなりの損失だが、ビットコインが値上がりを続けるという期待によって、その損失も価値あるものとなるかもしれない。BITOには5億7000万ドルの資金が流入しており、初日には取引高が記録的な10億ドルに達したところを見ると、投資家たちは明らかに、気を挫かれてはいないようだ。
CoinDeskの他の記者の報道によれば、流入した資金の多くは個人投資家からのものであるようだ。コンタンゴリスクを知っている賢明な投資家もいるだろうが、多くの人は、先物とスポットETFの違いすら完全には理解できていないだろう。
彼らが10年間のコンタンゴブリードの後にその違いにやっと気づいたとしたら、ひどい嘆きと歯軋りが聞こえてくるだろう。モリス氏とハイマン氏の予測のどちらがより正しかったとしても、BITOは長期的には多額の損失を出す。
私は、あらゆる規制が市場を歪ませると考えるような、単純思考のネット荒らしではないが、規制当局がここで実現させたことに表れている、ひどくねじれたダイナミクスに目を背けるのは、難しい。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Contango Conmigo: Why a Bitcoin Futures ETF Could Be a Bloody Ride